四月七日

寒くて寒くて、目が覚める。
窓の外を見てみると、相変わらず雪が降っている。
一瞬、ベッドの中で今日はごろごろしていたい気持ちに襲われるが、意を決して飛び起きる。
だって今日は、憧れのモンサンミッシェルに行くのだから。

ちよみんと、眠いね~寒いね~と言いながら、励まし合いながら支度をする。
まだ朝の五時半。外は暗い。
でも、パリからモンサンミッシェルに行くバスに乗るにはもう出なければならない。

毎日が映画のよう、しかも大作を巨大スクリーンで見ているようで、脳も身体もフル回転の日々。
感動をちゃんと留めておかないと、こんな機会人生でそうそうあるもんじゃない。


ブティック店をしている母からプレゼントしてもらった、薄いピンクのレースのツーピースを着る。
モンサンミッシェルに行く日に着ようと、大事に日本から持ってきた洋服だ。
今日はちよみんもいつもよりクラシカルな格好で、ふたりで並ぶとパーティーに行くような気合いの入りよう…「庶民的な叶姉妹みたいだね(笑)」と笑う。
 

無事モンサンミッシェルに行くバスのカウンターで手続きをして、大型バスに乗り込む。
パリからは移動だけで4~5時間かかる。
持ってきた朝食…パン、チーズ、チップスを食べる私たち。こっちはチーズが安くて本当に美味しい。
ちよみんは「ブリ」ってチーズがお気に入りらしい。とっても濃厚で、パンに挟むともうそれだけでご馳走だ。
日本で買ったら、高価なチーズがこちらでは2~3ユーロで買えるので、ここぞとばかりに食べておこう、と思う。

モンサンミッシェルには名物のオムレツがあるのだが、なんとひとり50ユーロもするらしい。
それでは一日分の食費がふっとんでしまう…ので、そこは節約しようと、途中のスーパーでも、お昼御飯用にパンやハムやチーズを調達。
2人分いっぱい買っても、全部で15ユーロくらい…うーん我ながら良い節約を、していると思う。

そしてバスに揺られること3時間…まずはシャトーブルイユというところへ到着。
16世紀につくられた、ノルマンディーに佇む小さなお城。
ここでは、りんごを原料とする「カルヴァトス」という蒸留酒が造られている。

 


中に入ると、リンゴ酒のとってもいい匂い!!
みんなで試飲できるコーナーがあり、私たちもちょっぴり試飲してみることに…
その名を、アップル・ブランデーというこのお酒。
うわぁ~アルコール40度って強すぎです!!

 

 


舌が焼けるような、熱い感覚に包まれるけれど、確かにりんごの酸味と甘味が感じられて…強いけど味は美味しい。
わたしよりずっとお酒がわかるちよみんは、すごく美味しい!と喜んでいる。
お土産に買っていきたいなあと思いつつも、この先まだまだ長い旅路を瓶物を持って歩くのは…と考え断念。


でも、このシャトーブルイユ、お庭や小川、そこに架かる橋とか、本当にメルヘンの世界に出てきそうなお城で、立ち寄れて本当によかった。
本場のカルヴァドスを味見できたというのもまた、お土産話のネタになるのではないか。。。

そしてバスに再び乗り込み、いよいよモンサンミッシェルへ。

モンサンミッシェルとは「聖ミカエルの山」という意味を持つ。
ある日、大天使ミカエル(サン・ミッシェル)が司教オベールさんの夢に出てきて、岩山に礼拝堂を建てなさい、とお告げをしたという伝説が残っている。
礼拝堂の屋根の先には黄金のミカエルの像があり、今も人々を見守ってくれている。

 

 



イギリスとフランスの百年戦争の際には城塞、その後フランス革命の際には監獄、と禍々しい西洋の歴史に翻弄もされつつ、現在は修道院としての役割を取り戻した。
「西洋の驚異」と言われるこのモンサンミッシェル、なんと年間に300万人の観光客が訪れるのだとか…
確かに、圧倒的な存在感。圧倒的な美しさ。

 

海に浮かぶ城は、まさに天空の城ラピュタみたい。
と思ったら、なんと宮崎駿監督もこのモンサンミッシェルをラピュタのモデルにしたらしい。
すごいなあ、この奇跡のような修道院が、あの名作を生み出した…。
時代を超えて素晴らしい才能と創造性が化学変化を起こしているようで、なんとも興奮するエピソードだ。

 

 



空と海との境界線が淡く曖昧で、それは本当にふんわり浮かんでいるように見えた。
なんて幻想的なんだろう…
そんな感動に浸っている中、ふと見るとビニールにみんな海の泥を入れているではないか。
甲子園的な、思い出のため…??と不思議に見ていると、このお城の周りの泥はミネラルが多くお肌によいそうで、ただのお土産として大人気でみんな持ち帰るらしい。
そうか…でもズボンを捲し上げて、必死に泥をすくう姿はなんだかこのロマンチックな風景とちぐはぐで、くすりと笑ってしまった。
わたしたちもビニール持ってきてたらよかったなあ。

 

モンサンミッシェルの中に入ると、まず城下町が広がっていて、いろんなお店屋さんがあることに驚く。
食事処やお土産屋さんの他にも郵便局や博物館まであるのだ。
そして名物のオムレツ…噂通り、一番安いお店でも日本円で言うと7500円くらい…高い~(泣)。


とりあえず、眺めの良い一番上の修道院まで登って行って、ちょうどバルコニーのような広場で買ってきたパンで昼食をとることに。
なんてことはないパンとチーズとハムなんだけど、広大な海を見ながらのピクニックのようなランチは潮風がとても気持ちよくて、美味しさも倍増される気がした。
一番いい眺めの穴場スポットをふたり占めできている私たち、もしかしてすごく幸運かも!
ああ、美味しいなあ、幸せだなあ。
なんだかまだ、自分たちがずっと来たかったモンサンミッシェルにいることが信じられなかった。

その後、頂上の修道院を見学する。
景色は360°海…海と空に囲まれたお城、本当に最高だ。
どの部分もよく見るとすごい建築技術で、中世教会建築芸術の傑作、だそうな。
今、私たちは1300年の歴史を秘めた「ラ・メルヴェイユ(驚異)」と呼ばれる空間にいる。
そう思うと、足元からじわじわと膨大な時の流れと感激が這い上がってくる。

僧たちの瞑想の間である「回廊」や、巨柱の間、騎士の間…それぞれのお部屋はとても凝ったつくりでどれもすごいけれど、私はやはり空と海との淡い芸術が眺められるお城のバルコニーが一番好きだな。個人的に、ベストスポット!
修道院を歩いていると、牢獄や拘束器具などがあって中世ヨーロッパの暗部もひしひしと感じる。
実際に見てみると、こんなに暗くて石に囲まれた部屋にずっと閉じ込められていたら気が狂ってしまうと思う。
そういう絶望感も、一瞬現実的に感じ取ってしまい、一気にひんやりとする瞬間があった。

 

また、モンサンミッシェルの周りは干潟に囲まれている。

満潮時には海に囲まれた孤島となるモンサンミッシェル、潮の満ち引きがとても激しく干満差は15メートル以上とか。
私たちは、観光用のバスで整備された道で安全に来られたけれど、当時の巡礼者の皆さんは干潟が現れた時しか渡ることができず、果てしない道を歩きながらその間に辿り着けず、満ちる潮によって波に飲み込まれた方々もたくさんいたという。
まさに、命がけの巡礼だったのだ。それでも多くの巡礼者は、命がけで挑まねばならなかった。


ここにもやはり、中世ヨーロッパの残酷さやもの悲しさを感じる。
中世という時代そのものが、美しさの中に悲しみを抱えているように思う。

夕方のモンサンミッシェルはまた違う表情となる。
空も海も夕焼けに包まれて、とっても綺麗。また夜も、灯りが海に反射して美しいんだろうな。
数々の感動やほろに苦い思いをもらい、この伝説の地を後にする。

 

パリに着いてからホテルへ帰る途中、大好きな映画「ムーラン・ルージュ」のモデルになったと言われる有名なキャバレー、ムーラン・ルージュも立ち寄ってみることに。
あの時のニコールキッドマンが美しすぎて、憧れて何度も何度も見た映画。
外には本当にシンボルの赤い風車が。




 

こうして憧れだった地が「経験した地」になっていくのは、嬉しいけれど少しだけさみしい気がする…なんて、贅沢な話だけど。
フランスに着いてから、本当に美しいものばかりたくさん見させていただいた。

感動とは心が感じて動くから、と劇団時代教わった。
誰かを感動させたかったら、自分の心ががまず感じて動くひとになれ、と。

今日一日だけでも、どれだけ心が感じ、動いたことだろう。
日本に帰ってから、どんな生き方をするかまだ何も決めていないけれど、この感動を忘れずに今後の糧にしていきたいと思う。

 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何故かこの日の写真データだけがなく、今日アップした写真は全てネット上の観光サイトから拝借したものですm(__)m。

修道院のバルコニーからの素晴らしい眺めを是非皆さんにも共有したかったのですが…ごめんなさい(>_<)。
 

モンサンミッシェル、本当に言葉で言い表せないくらい素晴らしく、この世界一周で本当に行けてよかったと思っているスポットのひとつです。
最近また「天空の城ラピュタ」を見たのですが、こちらも大人になってから見ても素晴らしい作品だと思いました!