四月六日。
 

目覚めるとそこは、憧れのパリだった…。

夢みたい、とはこういうことを言うのだろう。
たいして高価ではない駅近の安ホテルなのに、外観も、ベッドも、お部屋も…ぜーんぶフランス映画に出てきそうなくらい洗練されている。

そういえば、ヨーロッパについてからは美しいものしか見ていないなあ、とふと思う。
これからきっと、フランス、イタリア、ドイツ…と列車の旅が続き、わたしたちは毎日素敵なものを見て美味しいものを食べるだろう。
それが楽しみでもあり、旅の前半で感じたような言葉にできないけど大事な気持ちをそのうちに忘れてしまうのではないか…と漠然とした不安も感じた。

夢のようなお洒落なお部屋でふかふかのベッドの中にいると、あの時に見た例えばガサガサの皮膚や、鳥の巣のような頭や、何かを探しているギョロギョロした眼…あの時の衝撃を、忘れてしまいそう。まだ、数日前の出来事なのに。
正直なところ、始めは怖くて目を合わせないようにしていた。
でも、日本にいる時と違い考えなければやり過ごせることではなく、どうしても目に入ってきてしまう。


そうなったとき、自分の心に生まれる複雑な想い、葛藤…
見てはいけないものを見てしまった気持ち、
楽しく旅をしていることに対する後ろめたいような気持ち、
何か自分にできるだろうかと思う気持ち、逃げ出したくなるような気持ち…

いい思いも、悪い思いもひっくるめていろんな気持ちが浮かんでくる。
このなんとも割り切れない気持ちたちは、行き場がなく心の片隅に残る。
この割り切れない気持ちこそがこの旅の大切な学びだと思うから、この先もずっと忘れないよう大事にとっておかなければ、と思う。
 

そして、イメージや割合で全てを決めてしまってはいけないこと。
貧しいといわれる国にも心の豊かな人はたくさんいて、逆に豊かな国にも残念ながら心は豊かでない人たちもたくさんいる。
いろんな豊かさを、この旅では見つけていこうと思う。

そんなことを考えながら、シャワーを浴びる。
今日はパリ歩きの日。ちよみんと久しぶりに女の子に戻った気持ちで、おめかしをする。
そして…さすが花の都パリ。
受付の方にカギを預ける時ですら、「Wao! なんてSweetなJapanese girls なんだ♡」と満面の笑みで迎えられ、ナイトのようにかがみながらカギを渡した手の平に口付け。
内心、(ひぃ~!こんなお芝居のようなことが日常的に…!)と驚いたものの、「メルシー(^^)」と笑顔で対応する。
あーびっくりした。

 


 

外に出てみるととても寒くて、お洒落をしてスカートを履いてきたことを即後悔。。。
「お洒落は我慢!Byピーコ」というピーコさんの名言を思い出し(笑)、我慢して地下鉄でノートルダム大聖堂へ向かう。

パリのメトロはとってもわかりやすい。
看板をたどっていけば、大体間違えずに辿り着けるし、路線図も整理されていて見やすい。
最寄り駅に着き、駅を出て右に歩きセーヌ河沿いに行くと、あのノートルダムがその姿を堂々と現わした…すごい!!

 

 

 

ノートルダムとは、フランス語で「我らの貴婦人」という意味で、イエス・キリストの母である聖母マリアを指す。
この大聖堂は、聖母マリアに捧げられるために建てられた教会堂である。


しかも今日は日曜日で、中央の教会の中ではミサが行われていた。
中を覗いてみると、大司教様が何かをお話していたり、賛美歌をみんなで歌っていたり、ノートルダムはものすごい人数がミサに押しかけていて、熱気に溢れていた。

 

それにしても…すごい迫力だ。
西洋の美を集結させたような建造物、別世界に魂を誘うようなステンドグラスの色、そして迫りくる聖歌の歌声、それらが私たちの心身の中を一気に突き抜け、ヨーロッパに包まれた瞬間だった。
 

 

 

 

良い意味で泥くさいアジアを見てきて、その人の距離の近さや混沌とした熱さに魅力を感じてきたけれど、この時に感じたのは真逆の、ひんやりとした空気の中での整然とした美しさと神々しさ。
わたしも礼拝経験はあるけれど、こんなに説得力のあるミサは初めて見た。


ステンドグラス越しに差し込む光や揺らめく蝋燭、全てが神を感じさせるための空間を演出していて、路上で身近に神様のレプリカが売られているアジアとは違う。
果たして同じ時間軸なんだろうか??と思うくらい、本当に違う世界に来てしまったような感覚に襲われた。
 

 



一体どのくらいの間、そこにいたのだろう。


気が付くとミサは終わっていて、さっきまでひとつの祈りを共有していた大勢が、それぞれの顔に戻り、それぞれの場所へ戻ってゆく。
のっけから、ヨーロッパの迫力を見せつけられ、私たちは目が覚めたのか夢の中なのか更にわからないような気分でフラフラ大聖堂を出た。

しばらくぼーっとして、ミサの余韻を味わっていると、道でスズメに餌をあげているおじさんがいる。
日常の中の優しい風景に心が和む。
私たちがにこにこ見ていると、あげてみるかい??と餌を分けてくれた。
わたしの指先にもスズメが食べに来てくれて嬉しかった。

 

 

 

 


 

スズメおじさんとお話をしたり、セーヌ河沿いの絵の出店を眺めながら歩いたり。

さすが芸術の都、パリ。
アートとの距離が、とっても身近だ。

 

 

 

 

 


気ままにゆっくりとパリを感じながら、お昼をどこで食べようかとちよみんと物色していると、ピンクの可愛らしいお花が咲いているとってもラブリーなクレープショップを発見。
これってチェリーブロッサムかな??
そして…パリと言えば、クレープ…( *´艸`)
 

 

 


ここにしようか~と話していると「カモ~ン、ラブリーベイビー♡」と甘い声で店員さんがお誘いしてくれる。
スウィートガールの次は、ラブリーベイービー…(笑)
毎日フランスの女性は、こんな風に言われてるのかな?
なんかこっちの人は日常が楽しそうだな…。

 


 

お昼ご飯に、ハムとチーズと卵のガレットを頼む。ちよみんはマッシュルーム。
どちらも絶対、美味しいに違いないという、てっぱんの組み合わせ!!
そして運ばれてきたクレープ…パリッパリの本格ガレットに半熟卵とチーズが溶けて混ざり合い、ハムの塩気も絶妙で…お、お、おいしい~♡
このクレープを食べただけでも、フランスに来てよかったと本気で思える美味しさだった(泣)。
 

 


クレープに感動していると、頼んでいないアイスコーヒーが置かれる。
??と思うと、隣のダンディーなおじさまが、新聞を読みながらウィンクをして「あんまり君たち美味しそうに食べてるから、フランスの記念に。」と粋な言葉と共に、なんとご馳走してくださったのだ。
よくバーでどこからともなくカクテルが届き、「あちらのお客様からです」なんてシーンがあるけれど、それのコーヒー版的な!?
喜んでお礼を伝えると、「またどこかで会えるといいね!」と爽やかな笑顔で去っていった。


…なんだかみんながムービースターのような街だ。
絵になるし、その仕草が張り切ってしているわけではなく、日常的で自然で嫌みがないのだ。
一瞬奢られたと分かった時に、後で電話番号を聞かれるのでは、とか、しつこくされたらどうしよう、と今までの習性で思ってしまったけれど、この半日だけでもフランスの男の人たちはとても優しいけれどあくまで紳士的な優しさで、女性が嫌なところまでは決して入ってこない心地よさを感じている。

アジアでは、「女」というだけで、危険がつきまとい、嫌な思いをし、必要以上に強くいなければならずで、男だったら純粋に旅も楽しめたのになあ、なんて思っていたけど。
ここでは女の子に生まれたというだけて、こんなに得をしたり優しくしてもらえて、なんて素敵な国なんだ。
コーヒーのお供にと、デザートもクレープを食べるがこれも涙が出るくらい絶品。。。(T_T)

フランスにいる間は、毎食ずっとクレープでも、いいなあ。
 

 

 

 

そして午後は、憧れのルーブル美術館へ。

 

 

 

あの有名なピラミッドを拝める日が来るとは…。
美術学生だった時代もある私は、静かに感動。
美術書を読み漁り、高校生時代からずっと、いつかお金を貯めていきたいなあと思っていたから。

驚いたのは、ルーブル美術館付近にはたくさんの芸術家の卵のような人たちがいて、思い思いに自己表現をしている。
絵を描いているひとはもちろん、何かオブジェを紹介していたり
中でもひとりアカペラでオペラを歌っていた女性の歌声には心掴まれるものがあり聞き入ってしまった。

みんなが自分自身を謳歌している。そんな風に感じた。
本当に、芸術の都なんだなあ。
美術館に入る前から、この場所の空気は文化色に染まっているかんじ。

もともと砦として12世紀末につくられたこのルーブルは、シャルル5世により豪華で優美な王の館に生まれ変わったのは14世紀。
その後は、百年戦争により武器庫や牢獄として使用されていた時代もあった。
その後、フランソワ1世が王宮として滞在することを決め、再度工事が開始され、それはルイ13世、14世に引き継がれていく。
その後、ヴェルサイユ宮殿の完成により王宮としては忘れ去られてしまうけれど、1793年にギャラリーとして開館されるという長い歴史を持つ。

そして、フランスの英雄・ナポレオンの世界的に価値のある戦利品が美術品として展示され、ミッテラン大統領の時代にルーブル宮全体を美術館にするという決定が下され、全面改修された。

 

中には、フランスの絵画や彫刻などその他ヨーロッパ諸国の美術品はもちろん、イスラム美術、古代イラン美術、メソポタミア美術、アラビア美術、レバント美術、地中海オリエント美術…などなど
もう芸術のお祭り状態。
ディズニーパスポートのように、もしルーブルパスポートがあるならば、一日一か国ずつじっくり見たいくらい、もう情報量が多すぎて脳がパニック状態に…。

 

わたしたちが見てきた古代エジプトの美術品も!

 

 

 

色々興奮しすぎていて写真を忘れていて、唯一撮った展示品の写真がこれ…。

 

 

 

 

王宮感満載の天井画。
豪華絢爛とは、このことだ。
中に描かれている画はもちろんのこと、周りの金縁の彫刻にも目を奪われる。

 

そしてルーブルでも目玉の展示品、「モナ・リザ」に会いに行く。
その前にはひと際人だかりができていて、容易には近付くことができない。
でも…遠くからでもドキッとするほど、彼女の視線は柔らかくも心を捉える魔力があった。
そう、これは絵だ…絵画だ…そう分かっているのに、全てを見透かして包むようなその独特な眼差しは、本当に自分だけと目が合って微笑まれているような気持ちにさせられる。
あの天井や他のフランス絵画のように、派手さも豪華さもない。
そこに佇む女性の姿はむしろ質素ともいえる。けれど…やはり、何か胸をかき乱されるものが、このモナ・リザにはあった。
天才レオナルドダヴィンチが残した数少ない完成品のひとつである。
時代と共に、色々な価値観が変わったとしても、このモナ・リザの眼差しは未来永劫見たものを虜にしていくだろう…そんな風に思った。

 


 

他にも、かの有名なバビロンの王のハンムラビ法典、マルリーの馬の躍動感、ミロのヴィーナス、そして様々な教科書で見た有名な絵画が今わたしの目の前へ。
本当に最後の方は、もう勘弁してください…というくらい美術品たちに込められた魂にあてられて、わたしは飽和状態だった。
名画との対面も、名もなき傑作との出会いも充分すぎるほど満喫させていただいた。

外に出て、深呼吸。
これは…魂を満たされもし、同時に削られもするなあ。
美術品と向き合うには、それなりのエネルギーがいるらしく、あんなにお腹いっぱいクレープを食べたのにお腹はもうぺこぺこでどっと疲れが出てきた。

疲れ果てながらも、せっかくパリにいるのだからとシャンゼリゼ通りへ。
でも…風がビュービュー吹いていて、寒い(>_<)。
凱旋門まで歩いていくと、みぞれのような雪が降り始めた。寒いはずだ。
もう、寒すぎてシャンゼリゼを楽しむどころではなく、ふたりとも歯ががちがち震え始めて、4月とは思えないくらいだった。


寒すぎて疲れたし、ホテルまで地下鉄で帰れないかもしれない…
そんな弱気になったときに、幻のように「ラーメン」という字が前方に見えるではないか。


え!パリでラーメン!?


まるで砂漠でオアシスを見つけたような気持ちで(現実は逆の状況だけど(笑))ふたりでフラフラとラーメンの文字に吸い寄せられる。
行ってみると、本当にラーメン屋さんだった。
ラーメン「ひぐま」という札幌ラーメンのお店で、醤油ラーメン、味噌ラーメン、餃子など日本食がたくさん!!
まだまだ奥歯ががちがちして噛み合わず、うまくしゃべれない私たちは
「ラ…ラーメン プ、プリーズ…」と瀕死になりながらなんとかラーメンを注文する。
そこですぐに出てきたのが…本物の醤油ラーメン(泣)

 

 

 

 

日本食は二週間ぶりの私たち。
懐かしく嬉しい味をDNAが覚えていて、ああーやっぱりこれこれ!という喜びが溢れてくる。
何よりも激寒の中冷え切った体に温かいラーメンは、本当に私たちの身体と心を蘇らせてくれた。
美術館で吸い取られた魂も、戻ってきた(笑)!

これは本当に命のラーメンだった。
味も完璧な、日本のラーメンで、ラーメンひぐまさんには、一生頭が上がらない。
元気になったわたしたちは、また地下鉄に乗りパリ北駅のホテルに戻れた。

日記を今書きながら、ランチではあんなにクレープを絶賛していたのに、夜はすっかりラーメンの虜になり、自分たちのことながらゲンキンな人たちだなあ…と思う(笑)。
なんにせよ、一時は本当に疲弊して力尽きるところだったけれど、無事ホテルに戻れてよかった。
毎日の刺激を、忘れないうちにこうして日記に書きつけておこう。
明日は力尽きないように、今日は早く眠ろう。
そう思いながらも、今日感じたいろんなことが頭を、胸を、駆け巡りなかなか眠れない

そんな、十五日目の夜。