三月二十八日

 

朝七時に起床する。
よく眠れなかったせいか、頭がぼんやりしている。
昨夜の水没事件に加えて、深夜に何度もドアをノックされ、ガチャガチャされ。。。
何の用かと中から叫ぶと、お茶はいるか、マッサージはしたいか、など深夜にいらないです!という用事のことばかり。
もう本当に、誰も来させないで、寝かせてください、と従業員に怒って伝えると、チップを要求される。
安眠にもお金がかかるなんて、なんて宿だ!!

今日はそんな宿を引き払い、デリーを出発してジャイプールへと移動する。
インドは、どうやってまわるか決めておらずで、なんとなく列車でガンジス河があるバラナシの方へ行ってみたいと思っていた。
ボスのラーマンさんに相談すると、今の時期はまず列車の切符をとるのが困難で、最近事故もあったらしい。

巡りたいところはたくさんあるので、さてどうしよう…と迷っていると、予定が特にないなら、デリーからジャイプールへ行き、そこからタージマハルがあるアーグラーをまわる、ゴールデントライアングルコースがお勧めだよ、とすすめられる。

僕の信頼するドライバーをつけて安く車を貸すよ、と言われ、時間や安全などいろんなことを計算し考えると、その方が効率的かも…と考えが揺れる。
その他にもいろいろオプショナルツアーを勧められるが、ラーマンさん…色々教えてくれてよい人なのだけど、なんというか…商人っぽいからちょっと警戒(^^;)。
ドライバーの勧め方もうまくて、まず女の子だけでインドを回った子たちがひどい目に遭った…などの怖い実話や新聞などを見せられ、怯えさせた後に笑顔でマイカーを勧めてくる。
初日の怖い思いがまだ残っている私たちは、すっかりラーマンさんの手法にのってしまい、結局車を借りてインドを周ることに。

私たちの旅に同行してくれるドライバーのマヒンさんは、小さくてコロッとしていてにこにこ愛嬌のある男性。
威圧感がなくて、少し安心する。

調べた中でも是非行ってみたかったジャイプールの郊外、ラジャスターン州にあるアンベール城に向かい、出発。
砂漠地帯にあるお城なんて…なんだかワクワク。

そして、相変わらずインドの道にはドラマがいっぱい。

 

 

子どもたちが駕籠で運ばれている!
…と思ったら、これは学校の送迎らしい。
みんな揺られて、楽しそう!

 

 

色とりどりのバルーンを載せたバス。
お祭りに向かうのかな??

 

警察の方??
もターバンを巻いていて、異国情緒たっぷり。

 

 

インド映画のワンシーンのようなカップル。
色鮮やかな民族衣装がたなびいて素敵…だけど、ヘルメットかぶってなくてハラハラ。

 

 

運ばれる牛…立派なお尻を見ながらのドライブ。

窓の外を見ているだけで、いろんな刺激があって全然あきない、インドの旅。
お昼は道すがらの野外食堂へ。

食事は相変わらずカレーだけど、一言にカレーと言ってもお肉のカレー、お魚のカレー、卵のカレー、野菜のカレー、といろんな種類があることを知る。
わたしはトマトとチーズのカレーにはまり、この食堂でも食べたけれど、トマトの甘さとチーズのまろやかさが美味しくて絶品だった。
ほうれん草のカレーも、見た目が緑色で始めはびっくりするけれど、美味しい。


きっとインドの方々にとって、カレーは「おかず」のような立ち位置なのだろう。
毎日同じカレーを食べているわけではないのだ。
全体的に野菜カレーは辛さも少なくて食べやすく、お肉のカレーは辛めの味付けな気がする。
 

 

食べていると、楽器弾きと踊り子の兄弟が完璧な笑顔で近付いてくる。
すごい腰のキレ!そして歌いながら演奏するお兄ちゃんも堂に入っている。

ひとしきりパフォーマンスをした後、深々とおじぎをするふたり。
「楽しんでもらえたなら、チップをください」と言われ、なるほど、逞しいなあと感心する。
でもこんな風に、笑顔で堂々と芸を見せられたら、こちらも気持ちよくお金を払おう、という気持ちになっている自分がいた。
ただ「お金をください」と言われるよりもずっといい、むしろ清々しささえ感じる。


もちろん誰もが、こんな風にはできないかもしれないけれど、やはりなにか働きをした対価としてお金を渡すのならば、そこには正当な権利があるため、渡すこちら側も明るい気持ちで渡せるのだ。
ありがとう、とチップを渡した後に、まだマカオのお菓子がたくさんあるのを思い出して、ふたりにお菓子をあげる。
ふたりは喜んで、本当に美味しそうにすごい早さでお菓子を頬張っていた。
毎日人前で芸を披露する小さな芸人のふたりが、子どもにかえる瞬間を見て少し胸が締め付けられた。
小さい子は5,6歳くらいだろうか。お兄ちゃんはもう少し大きいかな…日本なら、学校に通い親元で甘えられる年齢の子たちだ。


なんだか目が離せなくて、車に乗り込んでからも彼らを見ていた。
車が出発した後に、笑顔で手を振ってくれていた彼らの後ろにぬっと女性が現れて、彼らから私たちが渡したお金を集めていた。
母親だろうか…それとも元締め??
どちらにせよ、稼ぎはあの女性が集金して彼らのもとにはいくら残るのだろう。残らないかもしれない。
だからあんなに慌ててお菓子を食べていたのかな。
せめて、母親ならばよいけれど…。

いろんな思いが頭に浮かんだ。

 

 

車に乗り、5時間近く…ジャイプールの街並みが見えてくる。
うすいサーモンピンクの壁に囲まれた景色はとっても素敵。
ピンクシティ、と呼ばれているらしい。
デリーのあの雑多な喧騒に比べると、穏やかに時が流れていて気持ちが落ち着く。

 

 


ジャイプールの街を通過し、いよいよアンベール城へ。
山々に囲まれた小高い丘に聳え立つこのお城は、中世の時代にこの地に住んでいたラージプート族の王国の象徴だったそう。

 

 

丘を越えてドキドキしながらお城の門へ。
すると、この豪華絢爛ガネーシャ門がお迎え。
ガネーシャはヒンドゥー教では商業や学問の神様と言われている。
淡い色合いのフレスコ画や精密なモザイクはため息がでてしまうほど。

 

 

そして、豪華さと繊細さを併せ持つ、「世界一美しい門」と言われているこの門をくぐると、そこは時間が止まったような別世界が…。
 

まずは、見事な幾何学模様が広がる中庭。

 

 

お城の中を歩いていると、自分も中世に迷い込んでしまったよう。

 

 

中庭を抜けて現れるのは、「勝利の間」と呼ばれるジャイ・マンディル。
ガラスでできたモザイク画が視界一面を覆っている。
それにしても、なんという財力…!
そして高度な技術力にも度肝を抜かれる。


いったい何年の月日を費やして、このお城は作られたのだろう?

そんなことを考えていると、なんだか

ここはどこ、わたしはだれ…という気持ちに。

 

 

 

現地の民族衣装“サリー”を着た女性たち。
一枚の長い布で身体を覆う品のある着こなしが素敵。
ガラスのモザイク画と合う世界観。


 

こちらは若者グループ。
女性は皆民族衣装だけど、男性はジーンズ+シャツが主流ファッションなのかな?

 

 

驚いたのは、アンベール城は今も修復・建設をし続けていること。
日本だとこういう場面て見せず、深夜に作業したりするけれど、こちらはこの作業風景すらアトラクションのようでその職人さんたちの手仕事ぶりに見入ってしまう。
 

 

 

出た!竹!!
こんな細い竹の上を、ひょいひょいっと人が行き来するから、見ているこちらはヒヤヒヤしてしまう。


こうした豪華絢爛なお城をつくるために、当時から一体どれだけの人々が人生を捧げてきたのだろう。
こちらも、富を持つものと、雇われるもの、その光と影を感じる。
 

 

 

広くて迷いそうなアンベール城を見学して中世の浪漫で胸いっぱいの中、車に戻る途中にひとりの少年が近寄ってきて絵をくれた。


ふいに受け取って見てしまい、あ、またお金を要求されるかな?と思い、突き返そうとすると、お金はいらない、あなたにあげる、という。
そういわれると、それはそれでなんだかバツが悪く、もらってよいものか戸惑っていると、お金はいらないからメールアドレスをください、と言われる。


まだ12,3歳くらいの少年だ。初めてのケースに戸惑いつつも、連絡先は教えられない、と伝えると、そっかじゃあいいよ、と言って去っていった。
ナンパは当たり前に断るけれど、相手が子どもだからか、なんだかものすごく悪いことをしてしまった気持ちにかられる。

マヒンさんは一部始終見ていたようで、「ああいうのはダメね!しっかり断らないと!!」と怒られた。
わたしも小さいころから絵を描いてたからつい、絵を見てしまって…というと、「それでも、いつも怒った顔でいないとインドではダメなの!!」と言われる。
むやみにものをもらってはいけない。
笑顔で隙を見せてはいけない。
只より高い物はない。
ここは日本じゃない、きっとその通りだ。
それでもいつまでも手を振っている少年を見てチクリと胸が痛んだ。

 

そのあとは、お城で見たご婦人方があまりにも素敵だったのでジャイプールのサリーショップへ。
色とりどりのサリーに囲まれて、女性の喜び、ショッピングをしばし楽しむ。
わたしもちよみんも、それぞれ自分の好きな色とデザインを選び、明日以降に着るのを楽しみに宿へ持ち帰る。
ちよみんはエキゾチックな赤、わたしはシックな煌めきの黒。

 

そしてジャイプールのホテルへ。
ジャイプールはホテルも可愛い。
お部屋の壁がなんとペパーミントグリーン!
色々な気持ちをリセットするように、シャワーを浴びてさっぱりして夕食へ。


驚いたのが、ドライバーのマヒンさんがすごいお酒を飲むこと。
なんとなく南アジアの方々はお酒を飲まないというイメージがあったけど、それは宗教によりけりらしく、イスラム教は禁酒、ヒンドゥー教はOKらしい。インドはヒンドゥー教の方が多いから、どこでも割とお酒が飲める。


マヒンさんはヒンドゥー教だから、飲むこと自体は問題ないのだが、わたしもちよみんもインドの貧富の差や様々な現実を目にしてお酒を飲む気になかなかなれない中、ひとりグビグビすごい量を飲んで、そのあと酔っぱらってからんでくる(^^;)。


飲食代も私たち持ちなので、始めの方は「ちょっと飲んでもよいですか…?」と遠慮が見えたが、どうぞと言ってからの飲みっぷりはすさまじく、それは良いとしても、変なおじさん化してしまうのは困る。
一日目の夜にしてこれでは今後が少し思いやられるので、次の日の運転に差し障らないよう、明日からはもう少し厳しくしよう。

 

 

 

酔っぱらったマヒンさんは置き去りにして、ちよみんとインドに来たらと楽しみにしていたアーユルヴェーダへ。

アーユルヴェーダは、サンスクリット語で「生命科学」という意味を持つマッサージ。
インド大陸に伝わる伝統医学でもあり、インドに来たら本格的なアーユルヴェーダを絶対に体験してみたかったから楽しみ。


受付には、やはりガネーシャ像が。
ガネーシャ、インドで大人気!
お店のお姉さんが「ガネーシャを置くと商売繁盛すると言われてるのよー」と、教えてくれる。
さすが商売の神様だ。
 

 

 

たくさんメニューがある中、一番人気である2時間のアーユルヴェーダスペシャルコースを選択する。
日本だったら、何万円もするようなこのコースが、アジアでは物価が安いから半額以下で受けられて嬉しい!


シロダーラという頭にオイルを注ぐマッサージと、アヴィヤンカという不純なものを身体から出すマッサージがコースには入っていて、温かいオイルが額に注がれたときには、脳内がじんわりと溶けていくようで、今まで体験したことがないような気持ちよさ。。。
異国の薄暗い部屋で、不思議な音楽と香料とオイルに包まれ、何もかも忘れてリラックスしながら受けるマッサージは至福の時。


小さい頃の思い出や、今日の少年の瞳、過去と今が頭の中を走馬灯のように巡り、ここは天国に近い場所なのかな…という幸福感で包まれたところで目が覚めた。
一瞬にも、何時間にも思えるような不思議な時だった。

自分の身体を知る、自分の精神と向き合う、インドの生命科学は奥深い。
機会があったら、もっともっと学びたい。

今日は、その後機械に触れる気にならずに、少しの罪悪感を感じながらも動画更新を明日にしよう、と決めてそのまま深い眠りにつくことにした。

 

そんな、六日目の夜。

 

 

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こうして改めて日記を読み返すと、本当に色々な場所へ行き、いろんな経験をさせてもらっていたなあと感じます。
ジャイプールの街、アンベール城、アーユルヴェーダ…せっかくお隣の国バングラデシュに住んでいるのだから、世界が正常に戻ったらまた行ってみたいものです。

当時投稿していた動画サイトがまだあれば、その時の動画と合わせてお楽しみいただけたのですが、残念ながらこの時わたしが関わらせていただいていた動画投稿サービスサイト「zoome」は2011年に終了してしまいました。
今InstaglamやTik Tokが大人気なのを見ていると、あの時に動画投稿がそこまで盛り上がらなかったのは、時代が早すぎたのかなあと本当に残念ですが、わたしがzoomeの動画コンテストで優勝し、得られた体験は本当にかけがえのないもので、当時の前衛的な意識を持って会社を運営されていた皆さんには改めて感謝をお伝えしたいです。

 

そして今大型サイクロンがインドに上陸し、大変なことになっているとニュースで聞き、インドで出会った人たち、あの街は、あのお店は大丈夫だろうか…と心配しています。
バングラデシュに来る頃には勢力が弱まると言われていますが、これ以上被害が大きくならないことを祈るばかりです。