三月二十六日

 

「おはようベイべ~♪」
と、ちよみんがサザンの桑田さんの物真似をして起こしてくれる。
なんて贅沢な目覚め!

マカオには2泊しかしなかったけど、いろんな歴史を聞いて学んだせいか、濃密な時間を過ごせた気がする。
昨夜は明け方、眠気と戦いながらなんとか日記を書いてそのまま寝落ちしてしまった。
今日はまた、あの鬼のように重い荷物を持ってインドへ移動しなければだからと、朝食の後またふかふかのベッドでごろごろする。

旅立つ時に、動画更新時に大変お世話になった劉さんというホテルスタッフさんがマカオのお土産と言ってお菓子をくれた。
マカオの歴史を教えてくれたのも、観光ルートをアドバイスしてくれもこの劉さんたちだった。
持ちきれないくらいのお菓子を笑顔でくれて
「あなたたちのこの旅が最高のものになりますように。元気が出ないときは、このお菓子を食べてね。…GOOD LUCK!!」
と言ってくれた劉さん。

私たちは、この優しさをお守りのように身に着けていたくて、Tシャツにお名前を書いてもらうことにした。
ホテルを出るときは、なんだか後ろ髪が惹かれるくらい、別れが辛くなり、隣のちよみんも目に涙を滲ませていた。



この旅の間中、こうして何回もGOOD LUCKを聞くのだろう。
また会おうって別れても、限りある人生の中でまた会いに来られるかな…来られたらいいな…

そんなことを考えながら、センチメンタルになっている私たちなのに、空港までと乗ったタクシーの運転手さんが怪しい動きをしている。
??と思ってみたら、さっきまで30くらいだったメーターがいきなり400HKドルに上がっているではないか!


劉さんからは空港までは100HKドル以内でいけるよと聞いていたので、まさかメーターを故意に上げられた…??
「料金、高すぎじゃないですか??」と言うと現地語でペラペラ返されて全く分からない。
メーターを指して、「いきなり400になってる!!」と言うも、ニンマリ顔と現地語でかわされる。
せっかく美しい旅の別れに浸ってたのに
…もう雰囲気ぶち壊し(-_-;)。

そして、なんだか懐かしくすら感じる香港國際空港へ到着。
たったの二日ぶりなのに。
改めて見ても…ものすごい広くて、綺麗で、お洒落な空港だなあ。
重い荷物を預けてほっと一息、夕食タイム。
明日からはインドだ!カレー三昧だ!と覚悟をしていたので、今日はさっぱりと麺を食べることに。
普通のファーストフード的なチャオニーズレストランに入ったのに
これがまた…感動的に美味しい(T_T)



わたしは海老ワンタン麺。
ちよみんはお肉と野菜が入った麺。
ちゃんと海老がプリプリで、海鮮の旨味が出たスープも絶品。
香港は安いお店でも、本当に何を食べても美味しかったなあ。

 

 

ご飯を食べながら、少しゆっくりインドへの心の準備をする、。
行ったことがあるという人は、人生観が変わる!と皆口々に言うインド。
一体どんなところなのだろうか。。。
期待と不安を胸に、インドへ向かう。
 

そしてデリーへ向かう飛行機の中、食事や人々から既に香辛料の香りが!!

もう空間ごとインドに足を踏み入れたかんじ。
機内食も、カレー?というかカレー味のお肉で、インド=カレーというイメージが本当なんだとなんだかちょっぴり感激。

ドキドキしながら、空港に降り立つと…想像以上に、人・人・人!!
もう午前2時なのに、すごい熱気が空港を包んでいる。
皆さんの顔の彫りが深いからか、ちらりと目が合うだけで、ものすごく凝視されている気になってしまう。
香港・マカオはなんだかんだ日本人とあまり変わらない顔圧で、溶け込んでいたわたしたちだけど、このゴージャスな眼差しの中にいると、私たちはいわゆる「平たい民族」であることを実感。。。


空港の職員さんらしき人を見つけ、予約してある宿まで安全に行くにはどうすればいいかを聞くと、イエロータクシーがいいよ!と教えてくれた。
バッゲージをピックアップして、タクシーの予約番号をもらい、外に出ると更にびっくり!!
暗闇の中に、ものすごい数の人がこちら空港出口に向かって張り付いている!!
みんな目が零れ落ちそうに大きくて、こちらを見ている。
たぶん、外国人だから皆さん見ているだけなのだろうけど…
そんな大勢に一斉に見られると、やはりとまどってしまう。
何か口々に言ったり叫んでいるのだけど、なんて言っているか分からないのも不安を煽る。


わたしたちのバッゲージを「手伝います!」と勝手に持っていこうとしてしまう人がいたり、「宿まで安く行くよ!」と車を勧めてくる人がいたり、「今日のホテルは決まってるの??」とついてくる人がいたりで、さながら勧誘合戦、もう戦場のよう。
バッグや服を引っ張られそうになりながら情報量を処理しきれずに、あわわわ…と面食らう私たち。
2、30人に取り囲まれる中、なんとか自力で予約番号のタクシーを発見するも…イエロータクシーと言われたのに、車はブラック。


何故…黄色じゃないの(^_^;)??


その運転手さんに聞くと、わたしたちの予約したホテルの名前を知っていたので、予約の車で間違いはないらしい。。。
それにしても私たちのこの周りにずっとついてくる方々は一体。。。
インドの人々の圧と勢いに完全にのまれてしまい、早くその場から脱出したくて不安を抱えながらも車に乗る。
けれど、乗ってすぐに、後悔をした。


まずその車には、サイドミラーがなかった。
正確には、ミラーの土台はあるけどはめ込まれてあるべきミラーがそこにはなかった。乗るまで気が付かなかった。。。
そして、いきなり大通りで寄ってきた隣のバイクに「チっ!!」と舌打ちし、カーチェイスを始める運転手さん。
窓を開けて怒鳴り散らしながらものすごい勢いでバイクに車体を当て始める!
やーめーてー!!

悠久のインド、人生の悟りを期待して来たのに、何も見ぬままいきなりGO TO HELLな世界へ。。。
メーターが130kmを越えようとしている。
この人、ほんとうにプロのタクシードライバーなのだろうか(T_T)
インドではこんな暴走が許されているの…??

ちょっと待って!!わたしたちを降ろしてからそれやってください!!と私たちも必死で叫んでいると、電話が鳴ってきてヒンディー語で運転手さんが応答する。
もともと短気なのか、電話中もしきりに舌打ちをして、ギロリとバックミラー越しに私たちをにらんでいる。
ヒエー もう、何なの。態度最悪!

電話のおかげでバイクとは休戦になりつつ、安心したのも束の間、今度は私たちをチラチラ見ながら道から逸れて暗い脇道へ。
え、地図ではホテルに行くには、まだこの道を数キロ進まなければなのに、なんで…??

さっきの道をまっすぐ行って!と英語で何度行っても、大通りには戻らずに首を振る運転手。
そして、夜の林の中で車は止まった。

…シーン… 。

エンジンが切れて、暗闇に静寂が広がった。
宿に着いた今も、あの時の不気味な静寂は忘れられない。
今、私たちは ものすごく危険な状況にいるのではないか…??

色んな可能性が頭をよぎり、背筋が凍った。
ちよみんと、手をぎゅっと握りしめた。
本当に怖い時は身体が動かなくなるのだと知った。
固まりながら、考えた。


なんでこんなことになっちゃったんだろう。
どこで間違えたんだろう。
空港で?でも予約タクシーだったのに??
深夜に着いて、他にどんな選択肢があった??
あの、防犯ショップで買った催涙スプレーはどこに…??
そうだ、左腰のウエストポーチの中。
間違っても自分たちが吸い込まないように、風上でこの人にだけ吹き付けなければならない。
今、風上ってどっちだ…??
とにかく、何かされそうになったらすぐにスプレーを出して…
荷物を捨ててでも、逃げ延びよう。
大通りまで出れば大丈夫だろうけど、大通りに行く道は…?
林に入ってからそんなに経ってないから、今来た道を戻ればすぐのはず。

でも、さっきの電話が仲間からのもので、ひとりじゃなく取り囲まれたらどうしよう…??
最悪売られたり、命を奪われるかもしれない。

 


…そんなことが何秒かの間に頭に浮かんだ。

最悪の事態を考えた時に、やはり思い浮かぶのは母の顔だった。
ここで何かあったら、快く送り出してくれたお母さんに、今まで女手で育ててくれたお母さんに申し訳なさすぎる。
どんなことが起きても、絶対に生き延びる努力はしなければ…

運転手さんが無言で車から降りた時に、ちよみんと手を固く握りながら「逃げるなら今しかない!」と思ったその時。
運転手さんは後ろを向いて

シャーっ!

っと用を足しはじめた。
 …え…??


呆気にとられている私たちに、初めて運転手さんはニヤリと笑顔を見せて「ウォッシュルーム」と言った。
そして車を出発させた。

トイレに…行きたかったから…?
だから車を止めたの…??
お客さんの前で(しかも女性の前で)…??

…そんなことってあるのですか。。。(泣)

全身が緊張していた分、一気にへなへな脱力した。
よかった…よかった…。
そこからは、もう安堵と涙と笑いがこみ上げてきて、
ちよみんとふたりで、なによもー!!まぎらわしいなー!!びっくりさせないでよー!!と運転手さんをバシバシ叩いた。

??という顔をしている運転手さん。
天然なのか、なんなのか、全くもう、、、。


そんなこんなで、初っ端からインド人の超マイペースにあてられて始まったインドの五日間。
心臓が、もう本当に止まるかと思った。
その後も、目的地に着き車から降りた瞬間に何故か多数の犬に追いかけまわされ。。。

満身創痍でなんとか宿に辿り着き、やっとこさ眠りにつく

 

そんな、四日目の夜。


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この日の日記を見て、あの時のことが本当に鮮明に思い出されました。
ここには書いていないけれど、そのあと宿で落ち着いてからちよみんとふたりで生きている喜びを分かち合い、
万が一何かあっても無駄死ににならないから、生命保険に入ってきてよかった…なんてことさえ頭によぎった、でも本当に何もなくて無事でいられて本当に本当によかった。。。命は何物にも代えられないね、と涙ながらに話したのを覚えています。
冗談じゃなく、本当に命の危険を感じた瞬間でした。
言葉が通じない、安全が保障された日本とは違う国へ行くという事は、こういうハプニングが起こりえるのだと、胸に刻まれました。

もちろん、この運転手さんは今読んでも、ミラーなし、暴走運転、勤務中に放尿と、プロとしてあり得ない勤務態度だとは思いますが、この時の自分たちのあぶなっかさにも冷や冷やする思いです。
そして今バングラデシュでは、ベビータクシーの運転手さんも運転中にお客さん乗せたままけっこう用を足しにさっと消えるので、この時の衝撃的なこの現象は南アジアではわりと通常運転なのか…と悟りつつあります(笑)。