喫茶店で妻と二人

なんともいえないフワフワとした時間

を過ごしている中、妻の携帯電話が

ふいに鳴りました。

 

どうやら次男かららしい。

 

電話を取った妻の顔色が

変わりました。

 

「…どうした?…今どこ!?」

その口調ですぐに分かりました。

 

「泣いているのか?」

 

妻は無言で頷きました。

そして、次男にこう言いました。

 

「しっかりしなさい!大丈夫だから!

パパは今元気にしてるんだよ。

とにかく今昼ごはんを食べてるから。

食べ終わったらすぐに帰るから。

それまで家で、落ち着いて待ってなさ

い。分かった!? 落ち着くのよ!」

 

強い母親の姿を見ました。

 

 

そんな妻の様子を見ていた大島も

すっと背筋が伸びました。

 

二人ともが

フワフワと魂がどこかを彷徨っている

ような状態から、目を覚ました瞬間

だったと思います。

 

親であることが自分達を支えてくれた

そんな気がします。

 

 

 

家に帰ると、以外にも普通の様子で

次男は待っていました。

 

聞けば、長男から電話があり

大島の病気のことを知らされたと。

感情のコントロールがきかなくなり

仕事を早退させてもらったという

ことらしい。

 

こんなことで仕事を放り出してくる

なんて…駄目じゃないか!

と一喝したものの、原因は自分に

あるわけで、職場の皆さんにも次男

にも申し訳ないことをしてしまったと

思いました。

 

 

それにしても…長男から電話?

妻に聞くと、会計を待っている間に

トイレに行き、その時に長男に電話

を入れ全てを話したそうです。

 

 

次男も昼ごはんを食べていないという

ことだったので、とりあえずごはんを

食べてくるように言いました。

 

次男もいつもと変わりない父親の顔を

見て少し安心したようで、昼ごはんを

食べに出かけていきました。

 

 

 

二人きりになると

「まったくもう…職場放棄なんて…

本当に職場の皆さんに申し訳ない。」

と言いながらも、次男の様子を見て

安心した妻は、すっと緊張が解けた

ようでした。


 

「ねぇ…もう泣かないから…

今だけ、一度だけ、

泣いてもいい…?」

そう言うと、

大島にしがみついて

まるで子供のように

わんわん泣き始めました。

 

 

「嘘だよね。

だってあなたこんなに元気なのに。

 

いやだよ。いやだよ。

私を置いていかないで。

私を一人にしないで。

 

あなたは私よりも10歳も年上なん

だから、体に気をつけてくれなきゃ

駄目じゃない。」

 

そう言いながら。

 

 

 

大島は…

ただただ妻の背中をさすり

頭をなでてあげることしか

できませんした。

 

 

 

その後のことは

いつも通りに長男も帰宅し

家族全員が揃ったわけですが、

何を食べて何を話したのか

はっきりと覚えていません。

 

ただ、全員が冷静に穏やかに

家族皆で支えあい助け合って行こう。

皆で相談しながら一番いい方向性を

探していこう。

そんな話をしたと思います。

 

 

これは後になって聞いたことですが

妻が息子たちに電話を入れたのは

自分が不安になったからではなく

家に帰ってきてから病気の話をする

よりも、帰る前に伝えて、

気持ちを整理してから帰ってきて

欲しいと思ったからだそうです。

 

結果、彼らには仕事にならないような

心境にさせてしまい申し訳なかったの

ですが、今になって考えれば

賢明な判断だったと思っています。

 

 

 

こうして

2016年10月26日

大島の長い長い一日が終りました。