腸閉塞を起こす前に

大腸の手術は受けるべきです。

そうでないと、あなたが望む

好きなものを食べて好きな事をする

普通の生活が出来なくなってしまい

ますよ。

 

先生と妻の強い説得で

「大腸の手術だけは受けるか…」

さすがに観念にも似たような気持ちに

なっていました。

 

 

それでも、まだこの時は

あくまでも腸閉塞を防ぐ手術を受ける

だけで、癌の治療を受けるつもりは

ありませんでした。

 

 

「大腸カメラの検査と手術は

どこの病院で受けられますか?

ここでもいいですし、他にご希望の

病院があれば、そちらでも全然

構いませんよ。」

先生はそう仰いましたが

 

「自分は大きな病気の経験もありま

せんし、大きな病院にかかりつけも

ありません。

それにあまりにも急なことなので…

少し時間を下さい。」

大島はそう答えました。

 

「分かりました。ただ、あまり

時間をかけてはいけませんよ。

急いだほうがいいです。」

 

 

先生のその言葉を最後に

大島と妻は診察室を後にしました。

 

 

 

会計を済ませ病院を出ると

もう午後2時をまわっていました。

 

道理で腹も減るわけだ。

 

「…腹減ったな…」と大島が言うと

「私も」と妻が言うものだから

近くの喫茶店に寄ることにしました。

 

こんな時でも

腹は減るものなんだなぁ…。

 

 

 

いつものように

妻と向かい合わせに座り

いつものように二人笑顔で、

「う~ん、美味しいね」と言いながら

アイスコーヒーを飲み、

食事がくるのを待ちました。

 

 

そんないつも通りを演出してみても

お互いに徐々に間が持たなくなり、

「…参ったな…」

と大島が言うと

 

「おかしいよね。

先生何言ってるんだろう。

あなた、こんなに元気なのにね。

…ホントおかしいよ。」

妻は笑顔を作りながら

少しおどけたように言いました。

 

 

テーブルに運ばれてきた

ナポリタンとトースト。

大島はしっかり食べたけれど、

妻は…

やはり喉を通らないようでした。

 

 

なんだよ…

 

腹減ったって言ってたじゃないか…

 

 

 

いつも満席の喫茶店。

あの時だってお客さんがいっぱい居た

に違いありません。

 

でも、誰の顔も誰の声も

入ってきませんでした。

 

 

二人だけの世界にいるような…

二人だけが違う世界に

行ってしまったような…

 

そんな気がしていました。