すっかり人が少なくなった待合室で

妻と二人並んで座り、

何を話すわけでもなく

ぼーっとテレビをながめながら

名前を呼ばれるのを待っていました。

 

気がつけば昼を回っていました。

 

 

「大島さん、どうぞ」

看護婦さんに呼ばれ診察室に入ると、

先程と同じように、先生はにこやかに

迎えてくれました。

 

 

「検査お疲れ様でした。

大島さん、お腹痛かったり張ったり

していません?」

 

「いいえ。」

 

「便秘はしていません?」

 

「いいえ。」

 

「便に血が混じったりしていません?」

 

「いいえ。」

 

「検査で潜血反応が出たこととかは

ありませんでしたか?」

 

「潜血反応は出たことはありますよ。

でも、自分は痔があるんです。

それで時々出血する事はあります。

だからじゃないですか?

再検査では大丈夫でしたから。

それに毎回ではないですし。」

 

 

なんでお腹のことばかり聞くんだろう

と不思議に思っていると…

 

 

「そうですか、痔ね…

奥さん、ちょっと外に出てもらって

いいですか。」

と、先生が仰いました。

 

 

妻が診察室を出ると

大島はベッドに横になるように言われ

直腸の触診を受けました。

痛みは全くありませんでした。

 

 

そして再び妻が診察室に呼ばれ

着替えを済ませた大島も

イスに戻りました。

 

 

「大島さん、痔はありませんでした。

それから、直腸に残っている便を採取

できたので、今検査をしましたが…

潜血反応が出ています。

痔の出血ではありません。」

 

先生はそう前置きをしてから、

 

検査画像を見せながら

淡々と説明を始めました。

 

 

「これは大腸の写真です。

ここね、S状結腸といいます。

ここに何かできています。

それから、これは肝臓の写真。

ここにもいくつか何かできています。」


 

えっ、大腸と肝臓?

…糖尿病とどう関係あるの?

そう思っていると

 

 

先生は

「精密検査をしてみないと断定は

できませんが…大腸癌でしょう。

正確にはS状結腸の癌です。

そこを原発とした肝臓転移の可能性

あり。 これが私の所見です。」

 

…癌…

 

 

自身も癌の経験のある妻が聞きました。

「転移があるということは…

ステージは…」

 

少しだけ、先生は間をおいて

「ステージは、4です」

はっきりと、仰いました。

 

 

心の準備をする間もなく

まるで「風邪です」と告げられるのと

同じような流れで、

あまりにも突然に、そして唐突に

癌の告知がやってきました。

 

 

2016年10月26日

66歳の誕生日から

10日後のことでした。