オ、塩、ラを改題しました〜ゴールポストが、移動しました。
新 塩遊記 青春篇〜16 へ。。
凡そ二ヶ月半後、東ドイツへ帰ったマルセラから手紙が届いた。
どうやら飛行機に乗り込む紳士に託した私の手紙と録音したテープは、彼女の元に届どいていた、らしい。。(この時点では想像〜全編ドイツ語で書かれていたので、全く判らない。😅)
そして恐らく、最後のI love you!! 以外、全部日本語で書いた手紙だから、彼女もどうにかして母国語に訳してもらうのに、それなりの時間が掛かったのだと思う。
しかし私には、届いた手紙に書かれたドイツ語を訳す友人も、知り合いも、全くいなかった。
英語ならまだしも。。
大学は法学部で第二外国語はドイツ語と決ってたが、その授業に出たのは三ヶ月にも満たない。詰まる所何の約にも立たないのだ。
そこでフッと思ったのが、そうだ、今度入社して来た、あのJ子に頼んでみてはどうか?というものだった。
触れ込みでは、◯C◯国際〇〇教大を中退し、〇〇大の法学部を優秀な成績で卒業してきた才媛〜とのことだった。
◯C◯は、偏差値のかなり高い学校だ。
なぜそこを辞めて、〇〇大に行ったのか、全然わからない。
更に才媛と言うならば、どうしてこんな三流、いや四流の会社に就職してきたのか、それも又わからない。
法学部〜ドイツ語、成績優秀、なら訳せる〜その単純な思い付きを抱きつつ、しかし時はただ過ぎていった。。
その間、我々新人の三人は、広告代理店と言うその業務の仕組を学ぶべく、代理店各社合同の新人研修会が催され、その朝会場となった〇〇新聞本社へと揃って出掛けて行った。
そこで中小各社から集まってきた30名程の新卒者と一緒に、何版かに別れて、巨大な輪転機の回る様子や何やらを一通り見て回り、最後に別室で担当者から広告事業についての説明を聞いた。
三時過ぎには終って、そのまま現地解散となったが、今まで数週間1度も話しかけたことも、掛けられたことも無かったJ子が、ビニール傘の先で私の背中を突付いた〜ウン?振り返ると、
こんな時だから、三人でお茶でも飲んで自己紹介しましょう?イカガ〜ときた。
傘の先で、ゴミの様に突つかれた事にムっと来たが、まぁそれはそれ、イイね〜、と近くの喫茶店☕に三人で入った。
彼女ともう一人のAさんは、同じ大学の同級生だという。
貴方は何者?
北海道はオホーツク海から来た田舎者で、俳優に成ろうと劇団に入ったけれど、止めて歌を作っていて、その歌で世に出よう〜としている私です。
はぁ〜、それは大変ね。
で、出れそう?!
そりゃわからないね。
僕は今の会社はアルバイトで、月に何度かLIVEハウスで歌ってるんだ。
へぇ〜〜歌手なの?!
その顔で。。と言わんばかりの顔で二人は見合って笑った。
ところでさ、君たち幾つ?
女性に年齢聞くなんて失礼ね、自分から言いなさいよ。
タバコをふかしながら言う、そのチョイとキレイな顔が、何とも生意気で憎たらしい。
僕は25歳だよ。
君たちより歳上なんだよ。馬鹿にしちゃいけないよ!
そんなつもりで言った。
あら、じゃ私と一緒じゃない。
隣のAさんは正規に卒業してるから若いけれど、私は色々有っての今だからこの歳なの。ヨロシクね、同級生〜。
それから三人の身の上をぞろに話して、やがて解散し、それぞれに住む方向に繋がる駅へと向かって別れた。
私は他に用事があるからと、二人と別れて歩き出した。
クソ生意気な女〜、しかもタバコなんぞふかしやがって!
私は歩きながら、別に用事もなくタバコに火を付け、大きく煙を吹いた。。
其れからひと月、ふた月と過ごす内に、社内での歓迎会、そして伊豆半島へ社内全員での一泊旅行など、J子と間接的だが一緒に過ごす時間が増えて行った。
彼女は、社長の大学の同期が〇〇大の教授らしく、そのゼミから推薦されてここへ来たらしい。
既に社長、専務のお気に入りになっていた。
何処へ出しても恥ずかしくない、いい子が入りましたね〜と社外のあちこちで言われる存在となって行った。
立ち姿、歩く、座る姿、仕事っぷり、どれをとっても確かに上出来だった。
そんな時、社内に一つの変化があった。
J子が配属となった制作部の、一人きりの上司は東大卒で、いつも黒スーツに白ワイシャツ、口ヒゲを生やした口数少ないニヒル、というより私には、ちょっと気取った痩せてキザなチビ男にしか見えなかった。
少なくとも、私を田舎者の馬鹿男としか見ていないのがハッキリ見えていた。
ま、東大卒から見りゃ当然だろうが。。
態度に出すな、バカ野郎〜!
胸の内で叫ぶ。。
その彼には、結婚を前提として付き合っていた少し歳上の経理担当B子さんがいた。
私の直属の上司営業課長のKさんは、こんな田舎者の不出来な自分を可愛がり、良く飲みに連れて行ってくれた。
そして私の知らない社内事情を、これから先を安全に過ごす為にも知らせておいたほうが良いと、それぞれの社員の性格、社外取引先の人間関係、当社の立場、色々私の知らない世界と関係を、教えてくれた。
よく、二人で出かけた営業先から、本日直帰〜と電話を入れ、先々の街の居酒屋でほぼ毎日、飲ませ、私にとっての初物を食べさせてくれた。
有り難い人たった。。
そして少しづつ、又新しい東京を知っていった。
その上司が教えてくれたのだ、東大とB子さんの関係を。。。
ところがその東大の前に、
10歳若いJ子が部下として現れたのだ。
東北A県出身色白の美人、〇C〇中退〜。。
1日中一緒に仕事をし、あちこちへ同行し、食事をし、その知性を知り、様々を知り、無口な彼が、彼女に惹かれて行くのに不思議は無かった。
普段の態度や言動には出さなかったが。。感じますゥ〜。
恋人のB子さんが、その男の僅かな心変わりを見逃すはずはなかった。
J子に嫌がらせをするとか、そんな事は無かったが、東大の少し冷たくなった眼差しに、ショックを受けている事は、関係を聞いた私にも、そして周知の者達にも明らかだった。。
もっと言えば、彼はJ子の前では、B子さんとは無関係〜を装っていた。。
J子はそんな事はお構いなし、東大から指示された仕事をバリバリ粉していった。
社内外共に、その評価は日に日に高まって行った。
やがて事の先行きを悟った経理のB子さんは、しかし平静を装いながら、そして密かに社を去る日を、胸に描き始めていた。。
そんな毎日の中、課の違う、と言ってもワンフロアーの狭い社屋だが、ほんの少しはJ子に話かけることも出来るようになっていたワタシ。
そして忘れてはいない、翻訳をお願いするという、が、かなり現実味の薄い案件をどう切り出そうか、毎日思案していた。
ある日、外から帰ってきた彼女と、一階ビルの入口廊下で偶然出くわした。
チャンスだ!!
決して言った。
あの、お願いがあって、是非貴方に聞いてもらい事が有るのですが、お昼にご飯でも食べて、何とか聞いてもらえないでしょうか?!
えっ、何よいきなり!
何の用なの?。。
困るわ〜いきなり。。
。。。。
そりゃそうだった。
スイマセン🙇
。。。。
。。。。
じゃ。。何の用かは知らないけど、兎に角お話だけね。明後日のお昼ならいいワ。。
ワワワワ〜〜〜!😅
会社は神田の地下鉄小川町の直ぐ側にあって、周りには中大、明大、日大等があるまさにガロの 学生街の喫茶店 そのものだった。
で、少し離れた社内の人間が来そうもない、御茶ノ水駅近くの息抜きに寄る、小さな喫茶店を指定した。
そして静かにその日を待った。
もしかしたらそれは、全くの勘違いかも知れないが、私にはひとつの思いがあった。
それは、伊豆に社内旅行で一泊した夜の宴会で、私は余興の司会を仰せつかり、やがて芸達者が一芸を披露するなか、私は得意のジャイアント馬場や、横井庄一、上田吉二郎などのモノマネを演じた。
その私を、J子は身体をよじって笑いながら見ていた。
そして彼女の目の奥に、何なのこの人!と言いうも、しかし浮かべていた温かい眼差しを、私は秘かに感じ取っていた。
勘違いだろうが。。
そして彼女は、約束通りにムサ苦しい喫茶店に来てくれた。
嬉しかった!
メニューを見て、軽い食事とコーヒーを注文した。
で、頼みって何?
うう〜ん、実はドイツ語で貰った手紙の翻訳をお願いしたいんだけど。。
え、そんなことなの。。嫌よ!
私はその手紙が届いた理由を、徒然に面白可笑しく、そして切々と語った。
あんまり笑わせないでよ〜!
彼女は笑いながら、しかし真剣に聞いてくれた。
英語は勿論、ドイツ語の成績も良かったと聞いてるから、それで是非君にお願いしたいんだ!
他に、当ては無いんだ!
是非お願いします!!
それ貴方に来たラブレターでしょう!?
なんでそれを私が訳すの!?
毎日忙しいのョ〜!仕事の終わりも遅いし。わかるでしょう!
無理よ〜!
急ぎはしません。
いくらでも待ちます。
ふぅ〜〜ん。
翻訳してくれたら、何か美味しいものでもご馳走します。
ふふ〜〜ん。
。。。
。。。
じゃ一兎に角、一旦預かるわ。。
何が書かれているか判らないその手紙を、どうにか彼女に渡す事が出来た。
そう、手紙は口実なのだ。
これを機に、噂の彼女に、私は少しでも近づきたかったのだ。
知りたかったのだ。
ヨーロッパの彼方に帰ったマルセラは、最早思い出にしかならない。
私の青春には、先がある。
新しい恋が、夢が必要なのだァ〜!
かなり勝手な妄想をしていたと思う。
しかし妄想は、新しいエネルギーを生み出す源流だ!
やがて食事とコーヒー☕が運ばれてきた。
二人だけの始めての食事。。
彼女が食べ物を口に運ぶ時、肩まで伸びたその黒く光る髪を、細く白い指でかき上げ、形のいい耳に掛ける。
その仕草がとても新鮮で、そしてオシャレだった。
白いブラウスが眩しかった。
大人の女性を感じた。
もっと言えば、セクシーだった。
お手洗いに立った。
身長162センチの彼女の肢体はスラリと伸び、タイトな濃紺のスカートから伸びる足。ベルトは細身の紺エナメルが、細い腰に巻かれていた。
私は完全にイカれてしまった。
男は気の強い女か好きだ。
自分の意思をしっかり持った彼女は、しかし冗談の良く効く、これ迄とは違うタイプの女性だった。
短い時間が過ぎて、別々の道から会社に戻った。
私は嬉しかった。
東大よ、バカヤロー!
私は何の根拠も無く舞い上がり、その夜は特に愉快にK課長と飲んだ。そう、飲んだ!
ダイモン、(当時、私は南川大門という芸名を名のっていた)
何がそんなに嬉しいんだ!いつにも増して今日は陽気だなぁ〜!
ウハハハハーー!判りますか?
ナ・イ・ショ!
ウハハハハ〜〜!
馬鹿だね〜。
でもソレでいいのだ。それで。
彼女が引き受けてくれるかどうかは判らない。
結局は断られるかもしれない。
しかしソレでイイのだ〜〜。
挑戦して敗れるなら、それでいい。
恋する事は、それだけで幸せなのだ。幸せを味わいたい。束の間であろうと。。
何を今更、この時を今を大いに楽しもうじゃないか!
こうして憧れの存在の彼女と、個人的な問題をを共有した私は、数日間、震える程の喜びに浸っていた。
完全ににイカれていた。
社内では、私がどんなに彼女に近づこうとも、全く相手にされない、無視される存在だと、誰もが一様に確信し共有していた。至極当然、その通りだろう。
しかし事態は今、こうして動こうとしている。
妄想癖の激しい私は、それで本当に幸せだった。
それから二週間が過ぎようかというある日、彼女が小さなメモを他の配達書類に挟んで、そっと机の上に置いた。
抜き取って社の外へ出て、メモを読んだ。
翻訳出来ました。渡したいので、お昼に前回の喫茶店で。。
ウあおゥ〜〜!!
彼女は断らなかった!
人類普遍のト・キ・メ・キが、青春が、一気に体中に膨れ上がっていった。
恐らく彼女にとっては、何の意味も持たない時間を過ごすだけの事だと思うが、私にとっては、違う。
そしてどうやら嫌われていないことだけは確かだと、知った。
嬉しかった!
一社ランランと外回りをして、お昼少し前に喫茶店に到着。
彼女はスーツ姿で颯爽とやって来た。
こうして私の片道切符の、新しい恋の季節が始まったのだ。
あの、フーテンの寅さんよろしく。。 早合点、先の事は何も判らず。。 そう、馬鹿丸出しに。。
それでいいのだ。
振り返れば私の人生は、全て思い付きと勘違いを、天からの閃きと信じ、そこに全エネルギーを燃やし、そして泣いて笑って来たのだ。
それでいいのだ。。バカボン。。
つづく〜。