アルバイトを休んで、私は高田馬場駅改札口に立っていた。

16時5分前、階段を降りてくるJ子の姿を見つけた。

J子も私の姿を見つけて手を振った。

私はそのまま混雑を避け、改札口を離れて落ち着く早稲田通り出口付近へ移動。

彼女は追って来て、二人はとうとう再会した。ほぼ3ヶ月振りだ。


良く来てくれたね‼️

どうしても会いたくて来たの‼️


兎に角行こう。。


駅から少し離れ、通りに面した花屋の二階にある喫茶店ルノアールに入った。


薄いベージュ色のコートを脱いで彼女は座った。

変わらぬ美しく魅力的な彼女がそこに居た。


ホントに久しぶりだね。


そうね、貴方が会社を去ってから3ヶ月になるわね。。


何か随分昔の事のようだね。。

会社は変わりないかい。


そうね、貴方と入れ代わりに来た営業の〇〇さんは、社長のお気に入りで、新規開拓したり、新しい仕事を持ってきたりで全体的に忙しくなったわ。


良いことじゃないか。


お陰で制作の仕事も増えて大変よ〜!残業も多くなったし。。


どうやら事務所は今や手狭になって、何処か広い所へ引っ越す事になったようだ。


〇〇社長はもっともっと会社を大きくしたいみたいよ。

そうそう、年内で経理の〇〇さんが辞めるわ。

〇〇さんとの仲が冷えちゃったみたいで、耐えられなくなったみたい。。


東大の〇〇は、君のことが好きだと思うよ。

僕には判かるよ。

乗り変えたいのだよ、君に。。


でも私にはそう言う気がないの、正直言って。。

先週だったか地方に同行した帰り、一緒に食事してて、それらしい事を言われたわ。。


私、付き合っている人がいますから。。

さり気なく断ったわ。

正直、全然タイプじゃないの。

上司としては仕事も出来るし、尊敬も出来るけど。。


イイね!タイプじゃない!!

いいなあ〜〜!

僕は会社にいる時、東大と一緒に出掛け、一緒に相談しながら仲良く仕事している君を傍から見ていて、随分嫉妬していたんだよ!正直。

でも今、君の口からそんな事を聞けて、何だかヒジョ~~に嬉しいなぁ〜〜!

嬉しい!!

僕はアイツのことは大嫌いだからね!


知ってるわよ。何度も話したじゃない。


うん。

もっとも向こうもそう思ってただろうから、いなくなって清々しただろうけど。。


所で彼氏とは上手くいっているの?


それがね。。そうじゃないの。。。


何で。。どうしたの。。何があったの。。


と言いながら、僕は跳び上がりたい程胸の中で喜んだ。

申し訳ないが。。


貴方のことよ!

貴方との事が原因で、どうにも上手く歯車が回ってゆかなくなったの。。


だって僕は会社を辞めて、君をを諦めて、それで終わりだと思っていたよ。ホントに。。


そうね、そうかも知れないけど、違ったの。。

私の中にどうにも貴方が住み着いていて、時が経っても全然居なくならないのよ。。

ホントよ!


嘘だろう〜、こんなバカな男の何処に何を感じたのか知らないけれど、それは一時的な事だよ。時間が経てばチャント元に戻るよ。

正道を歩く彼氏と上手くやったほうがいいヨ!


心にもないことを言った〜


ううん。。

それが上手くゆかないの。。

戻らないの。。

それが彼には解るのよ。。

貴方に一度会っているでしょう。

彼は貴方に、自分には無いものを見たのよ。

私が貴方に惹かれた、その理由をね。。


持ち上げすぎたよ。。


恐らく、この先は無いと思うわ。。

いつか終わるわ。。。


彼に無いもの、惹かれた魅力、それが何なのかは具体的には分からないが、

何か特別なものになりたい!

その願望の中に自分を燃やし続けていた事は確かだ。

しかし、具体的なものは、何一つ成し得ていなかった。

それなのに。。

しかし、そう言われて私はグッと高揚した。


近頃は区議会選も近いからと会う頻度も少なくなり、部屋にも来なくなった。。と言った。


ダイモン、こんな私にしたのは、貴方よ!責任取ってよ!


あんまり嬉しい冗談は言わないでくれよ〜〜。😂

金はない、まともな職もない、兎に角夢しかない男だよ、知っての通り〜

そんな男とじやゃ、大変なことになるよ。


先のことなんか、誰にもわかりゃしないわよ。

兎に角、そんな中でどうしても貴方に会いたくて、今日ここへ来たの。いけなかった!


いけない理由など少しも無いさ‼️

嬉しいよ。とっても嬉しいよ!!

僕はそっと手を伸ばし、彼女の柔らかな左手の指に手を重ねたた。

その手を彼女は握り返してくれた。


もう離さない‼️

彼が今この場に来ても、殴られてももうJ子を離さない。

シッカリと決意を固め、それからお互いそのつもりだった食事に立った。


二人は栄通りにある手頃な居酒屋に入った。


通りには尾崎紀世彦の歌う

゛また逢うう日まで゛が流れていた。。


久しぶりのJ子との酒盛りは、気の合う者同士、極めて楽しいひと時となった。

会社社のこと、あれからのこと、音楽のこと、過去のこと、兄弟の事、故郷の事、そうした様々な事を延々話し続けた。

そしてあっという間に夜は更けていった。


二人はかなり酔っていた。

僕はこのまま彼女を抱きたいと強く思っていた。


察してか、

今日は帰るワ〜

そう言って12時近く、あっさり駅前からタクシーを拾って帰っていった。。


しかしアパートへ向かう帰り道、僕は大きな幸せに満ちていた。。当然ながら。


空を見上げると、明るい笑っている様な三日月が見えた。

嘘のようなホントのことがとうとう起きてしまったのだ!!


それからほぼ毎晩、電話で何らかの話をし、週末何処かで飲んで食事をした。


ある晩、彼女は私の住んでいる汚いその部屋を見たいと言った。

失望させるのを覚悟で連れて行った。。

その夜、二人は結ばれた。


そしてJ子との、生涯忘れられぬ恋愛が始まったのだ。。


高田馬場三丁目、これ以上無いと言うボロアパートの六畳一間、トイレ風呂なしの一室、そして彼女の住む巣鴨のアパートを舞台に、私の東京での青春を飾る、新しい、そして最後の恋が始まったのだ。。

         つづく