---- 春休みに、友達が死んだ。
大切な友達だった。
だから、俺たちは、もう一度会おうとした。
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水の動く音がした。ぴちょんと滴る音や、さらさらと流れていく音。
真っ暗闇だった。
暗いな----。
そう思った瞬間、雲が動いて月影が射した。満月が輝いている。
ああ…、俺…、外にいるんだ。
身じろぐと、じゃりっと太腿に岩の感触がした。
濡れた岩----、ここは水辺なんだと思った。
山姥の長い白髪のような、細い滝が淵へと流れている。
「……何してたんだっけ」
寝起きのような声で、シウォンは言った。
シウォンまで、ぼんやりしてるのは珍しい。
彼はたいてい、テキパキ、カリカリしている。
そこまで考えて、俺はこの人を知ってる、と思い出した。
チェ・シウォン---郷土研究部の部長だ。
「何って……、あれでしょ。ほら、……夏季合宿っ!」
笑い混じりに言ったのは、けだるそうなリョウクだった。
リョウクはどんなことでも、皮肉げに笑い飛ばしてしまう。
だけど笑い声の中に、困惑や、恐れが混じっていることに俺は気付いた。
キム・リョウク---郷土研究部の部員。
口達者で陽気なリョウクでも、この暗闇が怖いんだ。
あれ----?リョウクは元から怖がりだったっけ。
どうして、記憶がぼんやりしてるんだろう。
「そうだ、ええと、合宿で…。ここは合宿先の村で…。この村で僕たちは、何かを探してたんじゃなかったっけ……?」
頭を抱えながら、ソンミン先輩が辺りを見渡す。
普段から気弱なソンミン先輩は、さらにびくびくして、小さく膝を抱えていた。
俺も怖かった。
この水辺の暗闇には、視線や、息遣いを感じるんだ。
----生きていない人たちの気配。
不安げな俺と目が合うと、先輩は無理矢理笑って、俺を励ますように「大丈夫、大丈夫」と言った。
イ・ソンミン先輩---郷土研究部の副部長。
「----死人」
イェソン先輩のぼそりとした声に、俺はびくっとした。闇が喋ったのかと思ったからだ。
無口なイェソン先輩は、それきり、鋭い目で闇を見つめている。
ただでさえ怖い顔なのに、闇の中では殺し屋のようだった。
----この人のことは、あんまりよく知らない。
あまり喋ったことがないし、いつも1人でいるから。
キム・ジョンウン先輩----郷土研究部の部員。
「……死人って……?」
俺は振り返って、彼らの顔を見渡した。
その時に気づいた。
俺たちはどうしてか、背中を向いて、円陣を組むように座っていたらしい。
円の中心には、焦げた紙切れがある。人の形の紙切れだ。
「死人って何ですか、イェソン先輩」
「そ、そうだよ!驚かさないでよ!」
「ま、まあ、2人とも……」
いらいらするシウォンと、怖いせいかいつもより大声のリョウクとを、ソンミン先輩がおろおろとなだめた。
----こういう光景は、見たことがある気がする。
ファミレスが混んでて入れなかった時とか、知らない町で道に迷った時とか。
俺はよく、この人たちと一緒にいたんだ----。
ほっとした途端、イェソン先輩が低い声で呟いた。
「……死人を蘇らせる方法だ」
「死人を蘇らせる方法……?」
首を傾げかけて、俺ははっとした。
もやがかかったような脳裏に、鮮やかな場面が浮かぶ。
舞い散る桜
白い病室
たくさんの泣き声
不気味な風が、夜の淵の水面が撫でて行く。
「……春休みに…、あの人が死んだんだ……」
俺----イ・ドンへは口元を覆った。
春休みに、大切な友達が死んだ。
同じ部活だった。
同じ郷土研究部の部員で----、それ以上に大切な友達だった。
俺たちは、その友達が大好きだった----。
「そうだ…。それで蘇生の儀式を、この村で知って…、えっと、よく思い出せないんだけど…。」
ソンミン先輩が記憶を捻りだすように、考え込む。
「…そうだ、そうだった!本で読んだか……、誰かに聞いたか……」
リョウクが、思い出すように、視線を宙へめぐらす。
「あれだ。ヒト……。ヒトガタ……」
「ああ!人の形をした紙切れ……」
シウォンの一言に、リョウクがはっと反応する。
「それに自分の名前を書いたんだよね、たしか、このあたりに……」
体ごと振り返って、槙原先輩が円陣の中心を探った。
そこには焦げた紙がある。
人の形をした焦げた紙が----4つ。
「……4つ?」
不意に、シウォンが眉を寄せた。
シウォンは鋭くて、勘がいい。嫌な予感がして俺はどきりとした。
「……どうした?」
「…なに?4つだからって、なんだっていうの?」
俺と同じようにも不安を感じたのか、シウォンに詰め寄るリョウク。
そんなリョウクに目もくれず、シウォンは人型の紙を睨みながら言った。
「この紙切れに、全員で名前を書いて、ここに置いたはずだろ。----だったら、5つあるはずだ」
闇の中の気配が濃くなる。
恐ろしさがこみ上げて、俺は鳥肌を立てながら問う。
「……だから、何?」
「俺たちは、4人でここに来たはずだ」
「今だって、4人でしょ!?」
声を荒げるリョウクに、
「……数えてみろ」
唸るように、シウォンが告げる。
恐怖を振り払うみたいにリョウクが嘲笑した。
「ハハ…、変なこと言わないでよ。幽霊でも混じってるって言うの?」
「いいから、数えろ」
「…わかったよ、わかった。いい?1人、2人……」
リョウクは立ちあがって、俺たちを1人ずつ数え始めた。
シウォンを指さす。
俺を指さす。
「3人、4人……」
次第に、その声は曇り始めていた。
ソンミン先輩を指さして、イェソン先輩を指さす。
「……5、人………」
最後に自分を指さして、リョウクは呆然と立ち尽くしていた。
「……ひ…1人多い……」
ソンミン先輩の声に、俺たちはさあっと青ざめた。
「う、嘘でしょう?もう一度数えて、いち、にい、さ……」
「増えてる」
震える俺の声を遮るかのように、イェソン先輩が眉を寄せて首を振る。
「あいつが死んで4人になったから廃部になるかもしれない、……そう話していた」
「じゃあ、本当に生き返ったって言うの?」
またしても、わざと大きな声で、リョウクは笑った。
「まさか!こんなのはお遊びだったはずだよ!現実にあり得るわけない!春休みに死んだあいつが……」
不意にリョウクが目を見開いた。
「……あいつ……」
「…どうした」
沈黙したリョウクを、イェソン先輩が怪訝に見上げる。
静かにうなだれて、リョウクは、ぽつりと言った。
「……あいつって、誰?」
「そんなっ…、忘れたの?あれだけ仲が良かっ……」
ソンミン先輩も途中で黙り込んで、口元を覆った。
愕然と、俺も息を飲んだ。…思い出せない。
----死んだ友達の名前も、顔も、思い出せない。
「俺も思い出せねえ」
「ね、ねえ、チェ・シウォン……君は覚えてるでしょ?」
「……覚えてない。おまえは?ドンへ」
ぎゅっと膝を握って、俺は首を振った。
「……覚えてない」
シウォンはぐっと、唇を引き結んだ。
青白い月の光が、シウォンの顔の上に撫でていく。
「そんな…、そんなわけあるか。同じ部員だったんだぞ。ずっと一緒にいたんだ」
信じられないと、シウォンが首を横に振る。
「死んだことも信じられないのに、名前も思い出せないなんて…。それも、僕ら全員が…」
「……こんなのはおかしい。第一、僕らは儀式を知って、生き返らせようとして……」
恐怖より混乱に顔が青ざめていくリョウクと、必死に言葉を紡ぐソンミン先輩。
「この淵に来たんだ。----そうだ、この淵は、村の禁域だ」
ソンミン先輩の言葉を受け継いで、イェソン先輩が背後の淵を振り返った。
山姥の白髪のような滝が、細々と流れおちる、不気味で小さな淵。
俺たちの中心にある、人の形をした4枚の紙切れ。
不自然な焦げ跡を見やって、俺はやっとの思いで呟いた。
「……生き返った……?」
リョウクが飛びあがって、青い顔でシウォンの肩にしがみついた。
「な、何を言い出すんだ!この男は!!」
「おい、離れろ」
「だ、だって、俺たち、4人だったはずなのに、ご、5人いるし……」
「ぎ、儀式が成功したんだ……」
ほとんど涙目になって、ソンミン先輩は声を震わせた。
「……ほ、本当に生き返って、ここに……」
音もなく、シウォンが目を見開く。
イェソン先輩がゆっくりと、唇を押し潰した。
「じゃ、じゃあ、君たちは……」
青い月の下で、リョウクの顔色は、月よりも青かった。
----どこかで、鈴の音がする。
「僕ら5人の中に、死んだ誰かさん----、幽霊がいるっていうの!?」
to be continued...