もう一度----、会いたかった。
いけないことだと、なんとなくだけど、皆わかっていた。
それでも…、君に、会えるのなら----、
どんな罰だって、受け入れられる----。
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「じゃ、じゃあ、君たちは……」
青い月の下で、リョウクの顔色は、月よりも青かった。
----どこかで、鈴の音がする。
「僕ら5人の中に、死んだ誰かさん----、幽霊がいるっていうの!?」
---直後、バサバサッと大きな鳥が飛び立った。
「うわああああっ」
「あああああっ!!!!」
「あっ……!」
俺とリョウクは同時に悲鳴を上げて、ソンミン先輩は腰を抜かしていた。
立ちあがったシウォンが、落ち着きなく、両手を掲げる。
「落ち着け!いいか、落ち着くんだ!落ち着くことが大事…」
「----おまえが一番落ち着いてない」
「イェソン先輩は黙って下さい!」
悔しそうに目元を染めた後、はっとしてシウォンはイェソン先輩から後ずさった。
「…すみません。……どうして、そんな平然としてるんですか、先輩」
「…………」
シウォンとイェソン先輩との間に、緊迫した空気が流れる。
「もしかして、あなたが幽霊……」
「イ、イェソンくんは、いつもこうだよ!」
その時、慌ててソンミン先輩が間に割って入った。
同学年のせいか、イェソン先輩とソンミン先輩はわりと親しい。
「彼だって驚いてる。顔に出ないだけなんだ。…そうだよね?イェソンくん」
「たぶん……」
「も、もっと自信を持ってよ!たまには空気を読んで、悲鳴を上げたり…ね?」
「わるいな、空気を読めなくて」
「----幽霊は誰だ!」
鋭い声で、リョウクが言い放った。
…俺の影に隠れて、小さくなりながら。
「え?ちょ……、盾……?」
「幽霊本人はわかってるんでしょ!?大人しく白状しなよ!…言っておくけど、僕じゃないから!」
胸を逸らして、リョウクは言った。
「僕が幽霊なら、怖いはずがないからね!」
「ぼ、僕も怖いよ」
「俺だって怖いよ!」
リョウクの発言に、ソンミン先輩と俺はいそいで便乗する。
「と、とにかく!幽霊本人は、正直に名乗りを上げて!別に塩を撒いたりしないから!」
悲鳴にも似たそれは懇願にも近かったが、怖がりながらも、リョウクは偉そうな言い方をした。
----彼は、いつだってそうだった。
全てを失って、1人ぼっちになった時も、その高尚な振る舞いを止めようとはしなかった。
「なんだか自信がなくなってきた……」
「自信?なんのですか?」
「僕が幽霊じゃないって言う自信が……」
シウォンの問いに、不安げに胸元を押さえながらソンミン先輩は弱気に呟いた。
ソンミン先輩は、いつもこうだ----。
素晴らしいことをしても、天才的なひらめきを見せても、先輩はいつだって自信なさげにうつむいていた。
「それは皆、同じだ。----俺たち全員に、死んでもいい理由がある」
イェソン先輩は容赦なく、痛切な台詞を突き付ける。
どんな時も----、イェソン先輩はそうだった。
影のように無口で孤独なのに、誰もが口を塞ぐことこそ、彼は遠慮なく口にする。
自分自身の噂話にさえ、そうしてきたように。
「----馬鹿なことを言うな」
イェソン先輩を睨むように告げた後、シウォンは「タメ口きいてすいません」と謝った。
シウォンは元体育会系で、礼儀正しい。
「俺たちの誰1人、自分で死んだりなんかしませんよ。…そんな未来を選ばないために、この部活に入ったんだ」
シウォンの声は大声ではなかったけど、闇を払うように熱かった。
真っ直ぐな眼差しは、俺たちの不安を消していく。
「俺たちの中に、幽霊なんかいない。みんなちゃんと、生きた人間で、ここにいる」
シウォンはいつもこんな感じで、俺たちの背筋を正した。
彼はどんな時でも、----うつむかなった。
笑い者になった時でさえ、夢を失くした時でさえ、決して下を向いたりはしなかった。
だから、彼が2年生でも、部長なんだ。----郷土研究部の。
そして、この郷土研究部っていうのは、ちょっと特殊な部活でもある。
俺たちはすっかり、思い出していた。
郷土研究部----、その名の通り、郷土学を勉強する部活なんだけれど、まともに郷土学が好きなのは俺だけ。
それは入部してから、わかったことだった。
----『郷土研究部は、学校の嫌われ者の集まり』。
学校のみんなが、そんなことを言っていた。
死んだ誰かさんが----、『学校の嫌われ者』たちのために、結成した部活だった。
だから、みんな、誰かさんが好きだった。
なのに、どうして、みんな思い出せないんだろう。
名前も----、顔さえも。
「…写真を撮ろう」
不意にリョウクが言った。
「…カメラは僕が持っている。全員の集合写真を撮って、映らなかった奴がいたら…、幽霊はその人だ」
「そ、そうだね……」
カメラを持つリョウクを俺は不安げに見やった。
「でも、こんな場所で写真を撮ったら、おばけがたくさん映っ……」
「どうして鳥肌の立つことを言うんだ!この男は!」
「だ、だって……!」
「罰があったったりしないかな…。ここは禁域だって、たしか…。よく覚えてないけど……」
「罰が当たるなら、もう当たってますよ」
心配げなソンミン先輩に、シウォンは笑いもせずに呟きリョウクを見やった。
「そこまで言うなら、やってみろ。リョウク」
「キム・ジョンウンも、もちろん、いいよね?」
リョウクはいつも、人をフルネームで呼ぶ。
後輩の敬称略も気にせず、イェソン先輩は頷いた。
「よし…。----君たち、並んで」
リョウクは俺たちを、滝の前に集めた。
俺は両手を握りしめて、恐怖と闘っていた。
背後の滝も怖いけれど、シャッターが押される瞬間が恐ろしい。
----俺が映らなかったら?
----俺が幽霊だったら?
俺じゃなくても----、
この中の誰かが、欠けてしまっていたら?
「いくよ」
合図をして、リョウクがカメラから離れた。小走りに近づいて、俺たちと肩を並べる。
----なんてシュールな集合写真だろう。
パッと青白いフラッシュが瞬く。
カシャリ----
シャッターが落ちる音がした。
俺たちは写真を見て、胸を撫で下ろした。
よかった----。
誰も欠けてはいない。
俺も、シウォンも、リョウクも、ソンミン先輩も、イェソン先輩も。
ちゃんと、写真に映っている。
ほっとして、俺たちは歩き出した。淵を背にして、合宿所へと足を向ける。
どうやって、どうして、ここに来たか覚えてないけど、道に添っていけば帰れるはずだ。
1歩1歩、闇の中を進みながら、俺たちは明るい声でおしゃべりした。
胸がざわつくのを、----気付かない振りするように。
だって---、俺たち---、思い出し始めたんだ。
----誰も、言い出せないまま。
この道----、
来た時は、4人で歩いていた。
今は5人。
----1人増えてる。
--------
合宿所の門の前につく。
俺たちの学校は、夏の終わりに有志の合宿がある。
有志の合宿と言っても、単独で合宿するのが難しい弱小部活や、お遊び気分の友達同士が参加する、何てことのないイベントだ。
軽井沢や八ヶ岳に行って、規則正しい生活をするだけ。
今年の合宿は、平坂村で行われた。どの山の傍にも1つは有りそうな、小さくさびれた村だ。
生徒の誰かの紹介で、この村が合宿先に決まったらしい。
先生と生徒を足して48名が、使われていない集合所を借りて、合宿所にさせて貰っていた。
たしか、到着したのは昨日だ。
どうやって儀式を知ったのか、何故禁域にいたのか、なんで禁域だと知っているのか、さっぱり分からないまま合宿所に戻った。
合宿所に着いたころ、夏の日はすでに、昇り始めていた。
「先生に怒られるかもしれないね……」
びくびくと周りを窺うソンミン先輩に、口端を上げてリョウクは肩を竦めた。
「こっそり戻ればいいんだよ。まだ6時前、誰も起きてないでしょ」
合宿所が近づくにつれ、俺は別のことが、だんだん怖くなっていた。
よくわからないけど、俺たちは一緒に儀式をしたらしい。
儀式をしたから、幽霊が見えるのかもしれない。
儀式をしてない友達や先生に、もしも、俺の姿が見えなかったら----?
俺の声が聞こえなかったら----、
俺が----幽霊だったら?
「----ドンへ」
青ざめる俺に、怒ったような顔でシウォンが言った。
「つまらないこと、考えるな。…おまえは幽霊じゃない」
力強い声に、体が軽くなる。
鼓動の音を聞きながら、俺はシウォンを見つめた。
「俺たちの誰も死んでなんかいない。----行こう」
シウォンの背中に続いて、俺たちは合宿所に戻った。
to be continued...