怒りにも似た、悲しみにも、そんな気持ちだ。
誰にぶつけていいのか、分からないその気持ちを----、俺たちはどうにかしたくて。
どうすればいい?忘れる?なかったことにする?
----答えをくれるのは、いつも君だったから。
俺たちは指針を失ったように、途方にくれたんだ-----。
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「食事の後、郷土研究部は荷物検査だ。詳しいことはパク先生に聞くように。---おまえたちも席に着け」
スマン先生のお許しが出て、俺たちはようやく朝食の席に着いた。
みんな、スマン先生の言葉に、怒っているような、悲しそうな、悔しそうな----、そんな感情が入り混じった顔をしていた。
もちろん、俺も。
すっかり冷めてしまったご飯を眺めていると、隣の席のウニョクに話しかけられた。
新聞部の友達のイ・ヒョクチェだ。
「朝から災難だな!ドンへや~」
「ウニョク…。…ごめんね、迷惑かけちゃって」
「お前が謝ることねえよ。スマンの不機嫌なんて、いつものことだろ?」
なごみはじめた朝食の席のあちこちから、ようやく雑談の声が聞こえた。
内緒話をするように身を寄せて、ウニョクはにやりと笑った。
「不機嫌な理由ってね、電話が通じなくなったかららしいぜ」
「電話が通じない?」
「うん。昨日の強風で、村に繋がる電話線の大元がぷつんと切れたんだとよ。村の人はのんびりしてるから、いつ修理するかわからないし…」
「携帯も繋がらないもんね、ここ」
「な。いつの時代だよ、って」
くすくすと、俺を励ますようにウニョクは笑った。
快活で好奇心旺盛なこいつが、俺はとても好きだった。
「それにしても、ドンへは物好きだな。あんな変わり者たちと、一緒に部活してるなんて。…悪い意味じゃねえよ?」
ハッとしたように、ウニョクが付け加える。
----分かってる。お前は陰口とか嫌いなやつだもんな。
俺は笑って応える。
「だって、普通の郷土研究部だと思ったんだもん。みんな、郷土学とか、地域の伝承とか、全く興味ないんだよ」
「そりゃそうだ。周りからは、変人部って呼ばれてるよ」
「変人………。俺も……?」
「言っただろ、物好きだなって。新聞部としては助かるけど」
「俺は普通に、郷土学が好きで……。この村だって、恋姫伝説の……」
-----ん…?こい、ひ…伝説……
「なあなあ、面白いネタない?特にチェ・シウォン関係の」
口ごもる俺にはお構いなしに、食い入るようにウニョクが問う。
「シウォン……?」
「今でも人気あるんだぜ、チェ・シウォン。顔がいいし、うちの学校のスーパースターだったしな」
ウニョクに言われて、俺はシウォンをちらっと見やった。
笑いもせずに、だけど、てきぱきと、よく噛んでご飯を食べている。
彼の席の周りには、---誰もいない。
「…ネタとか、ないよ。こんなこと聞かれたら、怒られちゃうよ。シウォン真面目だし、無愛想だし」
俺は困って、ウニョクに小声で告げた。
「そこをなんとかさ。友達だろう?シウォン関係のニュースあるとウケがいいんだよ~」
その時、シウォンの席の周りで、女の子の声がした。
「シウォンくん、さっき、大変だったね」
「昨夜、どこに行ってたの?リョウクくんとか、イェソン先輩とかに、無理に言われたんでしょ?」
「今日の夜、蛍の群生地に行くんだけど、良かったら一緒に行かない?」
彼女たちを真っ直ぐ見つめて、シウォンは短く告げた。
「部活あるから。…それに、無理強いなんて、されてない」
「でも……」
冷たい対応に困惑する女の子。もっと優しくしてあげればいいのに…。
「いいよな、顔のいい男は」
すると、離れた席から、嘲笑まじりの声が聞こえてきた
「走れなくなっても、チヤホヤ同情して貰えるんだからな」
「……………」
シウォンの頬が、僅かに強張った。俺には、それがわかった。
シウォンは全国区の陸上選手だった。
スポーツ推薦で入学して、『期待の星』と騒がれて、シウォンは実力でそれに答えていた。
全国優勝の旗が、初めて学校に飾れるかもしれないと、学校中でシウォンに期待して、注目していた。
だけど、練習中に怪我をして、シウォンは膝を故障してしまった。
---「膝が完治するまで走ったらいけません、走ったら、二度と陸上選手にはなれませんよ。」
お医者さんには、そう言われたらしい。
だけど、シウォンは大会に出た。
きっと----、みんなを悲しませたくなくて、大会に出たんだ。
----「声援の恩返しをしなきゃ」、真面目な彼はそう思ったんだ。
だけど、結果は惨敗で。おまけに、彼はもう、走れなくなった。
そして、『期待の星』じゃなくなったシウォンに、誰も振り向かなくなった。
「……みんな、かわいそうなんだよ」
俺はウニョクに、ぽつりと告げた。
「変わり者なんじゃなくて、みんな、ちょっと、----かわいそうなんだよ」
そういう、ドンへが変わり者だよ。
ウニョクはそんな風に笑って、俺の肘を小突いた。
きっと俺が、泣きそうな顔で言ったから----、ウニョクは俺から眼をそらして、スープをすすった。
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「---はい、点検終わり」
俺の荷物を確認して、イトゥク先生は笑った。
「すみませんでした…」
「それにしても、すごい資料だね。郷土研究の?」
「あ……、はい…」
「ちゃんと部活動したいなら、これに懲りて、門限を破らないこと。知らない土地だし、川や沼が多いんだから、暗闇は怖いんだよ?」
困ったように微笑んで、イトゥク先生がうなだれる俺を覗き込む。
「はい。すいません……」
「昨日は一体、どこで何をしていたの?」
「なんか…山奥の細い滝の傍で……」
「……滝?」
はっとして、俺は顔を上げた。
「そうだ、先生…!春休みに亡くなった、郷土研究部の子、覚えてますか?」
「…春休みに…亡くなった……?」
静かに目を見開いて、イトゥク先生は動きを止めた。
記憶を探るように、斜め上を見て----、目玉をグイッと俺に戻す。
ロボットみたいな動きに、俺はぞくりとした。
「何言ってるの。亡くなった子なんていないよ」
「……え?」
「おかしなこと言うなよ。オカルト辞典ばっかり調べてるからだぞ」
「オカルトじゃなくて、土着伝説……」
言い返そうとして、俺は眉を寄せた。どくん----、と心臓が鳴る。
誰も死んでいない?
そんな馬鹿なことはない。
改めて、自分の鞄に目をやる。
俺の鞄の中の、たくさんのファイル。たくさんの資料。
それが示している。
友達を生き返らせるため----、蘇生させるために、俺たちは合宿に参加したんだ。
俺が持参した資料は、この村の恋姫伝説、そして、それに纏わる怪しげな蘇生秘話でいっぱいだった。
4つのヒトガタ
5人いる俺たち
「…生き返った……」
「え?」
「……誰かさんが、本当に、生き返ったんだ……」
不意に、ソンミン先輩の俺を呼ぶ声がした。
「----ドンへくん!」
緊迫した様子に、俺は慌てて部屋を出た。
廊下に出ると、青ざめた顔でソンミン先輩が立っていた。走ってきたのか、肩で荒く息をしている。
「ハァハァ…、ちょっと、来てくれないかな…」
「どうしたんですか?」
「シウォンくんの…、荷物がないんだ…」
俺は瞬きした。
----荷物がない?どうして?
「部屋中、どこを探しても…、荷物がない。合宿に来るなら、大きな荷物があるはずなのに」
「なんで…」
「合宿に来なかったのかもしれないって…、シウォンくんは言ってる」
ソンミン先輩の言葉に、はっと俺は息を飲んだ。
名前のわからない、死んだ友達
生き返った1人
今にも泣き出してしまいそうな顔で、槙原先輩は震える声を絞り出した。
「シウォンくんは……自分が幽霊じゃないかって」
【『十六夜恋奇憚』Ⅰ章 終了】
to be countinue...