パリピポ -2ページ目

パリピポ

ブログの説明を入力します。


悲しくて---、苦しくて---、涙が止まらなかった。

この途方もない絶望感から抜け出したくて-----。


誰なんだろう。


俺たちが愛していたのは、俺たちが失ったのは、



----誰だったんだろう。






---------






郷土研究部が出来たことを知ったのは、1年生の夏頃だった。
新聞部に退部届けを出した俺に、同じ新聞部だったウニョクはつまらなそうに言った。

『本当に辞めちゃうのか、ドンへ』

『…うん。俺には新聞部は向いてなかったんだよ。元の民話とか、地域伝承とか書いても、みんな関心ないみたいだし…』

『でも…、郷土研究部って、変な噂あるぜ?』

少し心配そうに、ウニョクは眉を下げた。

『昔あった部活が復活したって、表向きはそう言われてるけど、実は郷土研究部のメンバーっていうのは…』

『大丈夫だって、ウニョク。自分で決めたことだし、好きなことやれて、俺は嬉しいよ』

俺は笑って、ウニョクに答えた。
お世話になった先輩たちや、顧問の先生に挨拶をして、郷土研究部の部室に向かう。


俺の心は、わくわく弾んでいた。
楽しみにしていたマンガを読むみたいに。
買ったばかりの洋服に、袖を通すみたいに。
昔話や民話が好きだった俺には、ぴったりの部活が見つかったからだ。

好きなことを出来るのは、すごく嬉しい。
だけど、もっと嬉しいのは、同じ趣味を持つ仲間たちに会えることだった。

----楽しみだな。

七夕伝説の地域別のオチの違いとか、だいだらぼっちの逸話とか、熱く語れる人たちに会うんだ…!




にこにこしながら、校舎の端っこにある部室の扉をノックする。返答を待っていると、背後からにゅっと手が伸びた。
大きな手が、扉の引き手を掴んで、俺の体ごしに扉を開く。

振り返った俺は、腰が抜けるほど、ぎょっとした。
校内1恐れられている不良の、イェソン先輩だったからだ。

『あっ……!』

『悪いな』

『お、俺こそ、すいません!許して下さい!』

『………』

イェソン先輩はじろりと私を見下ろした。
俺は喉の奥で、ひっと悲鳴を上げそうだった。

こんな近くで顔を見るのは初めてだった。
遠くで見かけた時は、友達と一緒に方向転換して、帰り道を変えたほどだ。

イェソン先輩は目を合わせる前から、高校生とは思えない迫力があって、逃げ出したい気分にかられてしまう。
だけど、イェソン先輩は青ざめる俺を見つめて、そっと優しく苦笑した。

『入れよ。----ノックしたって開かねえよ』

『………』

『物ぐさだからな、ここの連中は』

ガラっと音を立てて、郷土研究部の扉が開かれる。
滅多に使われない古びた教室にいたのは、思いもがけない人物だった。


『あれ、ど、どなた…ですか?』

黒板を掃除しているのは、天才少年だった、ということで有名なイ・ソンミン先輩。

『だれ………』

窓辺に腰かけているのは、人気者の王子さまから、汚職政治家の息子に転落したキム・リョウク。

そして----、

『……イ・ドンへ?』

ついこの間まで、学校のスーパースターだった、チェ・シウォン。

『……シウォン……!?』

俺は口元を押さえて、驚きをあらわにした。

『なに?知り合いなんだ、君たち』

『クラスメイト』

リョウクと会話するシウォンに、俺は声を無くして感動した。
----俺なんかの名前を、シウォンが覚えているとは、思ってもみなかったから。
別に謙遜でもなく、卑屈になってるわけでもない。

シウォンは教室に見物人が来るほどの(特に女子の)人気者で、いつも忙しそうで、陸上のこと以外には全く関心がなさそうだった。
彼が廊下を歩いてるだけで、先生や先輩から『頑張れよ』『期待してるぞ』という声が、当たり前のように飛んでいた。
頑張って----、と、俺も声をかけたことがある。
全国優勝した人が同じ学校にいたら、知り合いに自慢話が出来ると、ミーハーに喜んでいたからだ。

----なんて無責任なことだったんだろう。
シウォンは無敵のヒーローじゃなくて、俺たちと同じ歳の、少年だったのに。

『----何?』

長く見つめすぎたせいで、シウォンが不審げに眉をしかめる。
何か言わなければと、俺は慌てた。

『あ、えっと……、大会、残念だったね』

『……ああ…』

シウォンが唇を結ぶ。
言わなくていいことだった----と、真っ青になって俺は混乱した。

ぱくぱくと口を動かしても、上手い台詞が出てこない。
その時、不意に笑い声がした。

『あはは!チェ・シウォンごときには当然の結果だよ。熱に浮かされて、周りが騒ぎ過ぎたのさ』

風に、パーマがかかった柔らかそうな髪を揺らされながら、リョウクが悪気のない顔で笑う。
とんでもない暴言に、俺はなおさら慌てふためいた。

はらはらとシウォンを伺うと、彼はむっとしながらも、どこか明るい表情を見せていた。
普通の男の子みたいな、教室では見たことのない顔。

『うるさいよ、リョウク』

『なにが?壊れた膝を引きずって走った馬鹿なやつだ。こんな愚かものを、僕は他に知らないね』

リョウクの暴言は容赦なく、だけど、2人とも笑っていた。
戸惑いながら、2人の表情を見比べる。すると、リョウクがちらりと、黒板の方に視線を向けた。

『イ・ソンミン、隠れることないでしょ』

はっとして目をやると、ソンミン先輩が教室の隅で、小さくなっていた。
背中を丸めながら、挙動不審な丁寧さで、黒板消しをクリーナーにかけてる。

『ご、ご、ご……』

たぶん、ごめんと言いたかったんだろう。
言い切る前に、細い息を吸い込んで、ソンミン先輩は胸元を押さえた。壁に寄りかかりながら、深呼吸を繰り返している。
具合が悪いのか、俺は駆け寄ろうとした。その前に、イェソン先輩が俺の前を横切っていく。

『大丈夫か、ソンミン』

『……う、うん、……あの……』

息苦しそうなソンミン先輩の背中をさすって、イェソン先輩が俺を振り返る。

『悪いな。初対面の奴がいると、ソンミンは上手く喋れないんだ』

『あ……』

俺がうなずくと、イェソン先輩は俺に微笑んでから、シウォンに顔を向ける。


『シウォン』

『何ですか』

『こいつに聞けよ。お前が部長だろ』

顎でクイッと俺を示すと、イェソン先輩はシウォンに言う。


『何をですか』

無愛想に、シウォンが問う。


『入部希望者じゃないのか』

イェソン先輩の言葉に、シウォンが俺を見た。

----そうだ、俺は入部しに来たんだ。
自己紹介をしなくちゃ、緊張混じりに背筋を伸ばす。

『あ、あの、郷土研究部にぜひ入部したく……』

『あはは、まさか!入部希望者?』

俺の声を遮って、リョウクが笑い飛ばした。

『郷土研究なんて地味な部活、入部希望者が来るわけないよ。僕らだって、部活が出来るなら、何でも良かったわけだし』

『え……?』

『それもそうか』

イェソン先輩が納得する。----何を言ってるんだ?この人たち。


『チェ・シウォンのファンじゃないの?サインでも書いてあげなよ』

『よせよ』

『そして、引き換えに部員になって貰え。5人いないと不成立らしいからな』

『誰でもいい訳じゃないだろ』

迷惑そうな顔をして、シウォンが俺を一瞥する。
さっきよりも不機嫌な声で、シウォンは俺に向かって言った。

『何の用だ、ドンへ』

『……郷土学……』

『何?』


うっとおしそうに、首をかしげるシウォン。

『……みんな、郷土研学のこと知らないの…?』

『………?』

肩にかけていた鞄を降ろして、俺は中身の本を積み上げた。

民話辞典、妖怪伝説、全国の神木やな纏わる説話。郷土学の研究資料を盛りだくさん。

シウォンが目を丸くして----


リョウクが窓から降りて、身を乗り出し----

ソンミン先輩がゆっくり顔を上げて----

イェソン先輩が面白そうに口角を上げた----


俺は声を張り上げる。


『----郷土研究部の入部希望者です!』



それが、俺たちの出会いだった。




------





あの4月の日。

死んでしまったのは、----誰だったんだろう。





to be continued...