春の足音が近づく三月半ば。
私は、派遣社員という道に終止符を打った。
今日が、派遣先で働く最後の日である。
続けようと思えば続けられた。
だが、もうこれ以上、自分に嘘をつくのはやめよう。
そう決めたのは、2026年の幕開けと同時だった。
気がつけば、この派遣先で働いて三年が過ぎていた。
管理された社会の息苦しさに、これ以上耐える必要はない。
そう思った瞬間、胸の奥に溜まっていた何かがほどけていくのを感じた。
心が、久しぶりに軽く踊った。
社会では、管理されることが当たり前になっている。
それがサラリーマンという生き方の象徴でもある。
管理されることに慣れ、そこに安心を感じる人も多い。
生活の安定が約束されるからだ。
けれど、その世界は私の体と心を少しずつ蝕んでいた。
なぜなら、それは私が本当に望んでいる生き方ではなかったからだ。
それでも私は沈黙していた。
生活のためだ。
毎朝、自分をだましながら出勤していた。
周りの人たちは黙々と仕事をこなしている。
「あと二年、我慢すればいい」
そう自分に言い聞かせていた。
そんな時だった。
同じ派遣社員の一人が契約解除を告げられた。
派遣社員を減らす計画があるという。
やる気のある人だった。
私はすぐ派遣元に相談した。
「その人の代わりに、私を切ってください」
だが、答えはNOだった。
すでに決まっていることだから、という。
その時、私は決めた。
三か月更新の契約を、もう更新しない。
メールで退職の意思を伝えた。
三月末で契約は終わる。
他の派遣先へ行くつもりもない。
私が望んでいたのは、
管理社会からの脱出だったからだ。
自分に正直になれた理由は、もう一つある。
自宅を売却し、住宅ローンから解放されたこと。
そして実家に入ったことで家賃もかからなくなった。
これで、会社という名の鎖に縛られる必要がなくなった。
若い頃、生活のために
好きなこと、やりたいことを押し込めて生きてきた。
そしていつしか、それを忘れてしまった。
人生の後半になって、ようやく思い出した。
「本当は何がしたかったのか」
昨年八月から、私は創作を始めている。
物語を考える時間は、不思議なほど楽しい。
まるで少年の頃に戻ったような気分になる。
いつか、自分が作ったストーリーが
映画やドラマになるかもしれない。
そんな妄想をしながら、これからは生きていきたい。
自分に正直に。
心がワクワクする方へ。
そうやって、人生を終えることができたら、
きっと悪くないと思う。