辞めると決めたのは、
何か大きな事件があった日ではない。
淡々と、いくつかの「区切り」が
一気に重なった日だった。
自己所有の物件はすでに売却が確定し、
3月5日、引き渡し日が決まった。
長年背負ってきた住宅ローンに、
ようやく終わりを告げる日だ。
次は賃貸アパートを探そうと思っていた。
だが、1月25日、実家に呼ばれて行くと
こう言われた。
「家を売ったなら、戻ってくればいいだろ」
2年前に新築した実家は建坪37坪。
断る理由は、正直なかった。
住宅ローンもない。
家賃もかからない。
――ああ、もう無理して働かなくていいんだ。
そう思った瞬間、
肩に乗っていた何かが、少しだけ軽くなった。
これまで、支払いに追われてきた。
だが、末の子どもも今年高校を卒業し、
これで完全に子育ては終了。
「自分の時間を、自由に使っていい」
ようやく、そう思えるところまで来た。
管理された環境で、
我慢して仕事を続ける必要はない。
これは、自分自身にとって
一つの“卒業”なのだと思う。
派遣の仕事は、正直つらかった。
社員には、基本的に何も言えない。
立場は常に「パシり役」。
誰もやりたがらない汚れ仕事が、
次々と回ってくる。
マンションのクレーム対応。
現場に行き、状況を確認し、業者を手配する。
売り主側の不動産会社は、
こちらに丸投げ。
居住者は、
普通の人なら気にしないレベルのことまで
異常なほど細かくクレームを入れてくる。
手配に日数がかかれば、
それだけでさらに怒られる。
派遣先からも文句。
業者からも文句。
ストレスが溜まらない方がおかしい。
それでも、
「辞める」と決めた途端、
不思議と気持ちは楽になった。
解放されると分かるだけで、
人はここまで違うのかと思う。
だから今は、
できるだけ早く辞めたい。
これからは、
無理なく、好きなことをしながら
自由に働こう。
そう決めた日だった。