父 | 自分ブランドで生きる ~世界一シンプルな私の創り方~

自分ブランドで生きる ~世界一シンプルな私の創り方~

自分で決めて、自分で生きる。
自分を愛して、自分を生きる。

子供の頃の私は、父と折り合いが悪かった。
かといって、口をきかない、というような関係にもならず、話はよくしたと思うが、結局最後はけんかで終わっていたような気がする。
どんな内容でそんなにしょっちゅう喧嘩ばかりしていたのかは、まったく思い出せない。

ただ、子供の頃の自分は、我ながらいやな子供だったなぁと思う。

たとえば、学校で労働基準法のことを習えば、「おとうさんはなんで休まないの?最低でも週に1回は休暇を取らないと、法律違反なのに。なんで?」などと、大まじめに聞く子供だった。

父との口論の具体的な内容は覚えていないのだが、そのころの自分が父に対して感じていたことを、最近、思い出した。
思い出した、というより、ずっと覚えてはいたのだけれど、意識の上にはのぼらせずにきたこと。
それが、意識の上層部に浮かび上がってきて、ああそういえば、と。


この人は、私のことをどれだけ知っているのだろうか?
私が何が好きで、何が嫌いか知っているのだろうか?
どんな食べ物が好きで、どんなアイドルにあこがれていて、どんな本が好きで、どんな歌が好きなのか。
私が何を大切に思っているのか、知っているのだろうか?

本当に私のことが好きなんだろうか。
自分の「娘」である私を好きなだけじゃないんだろうか。
それも、「娘は愛するものだ。」という概念だけで、好きだと思い込んでいるのではないか。
娘が好きなのは当たり前だから、本当の本当に好きなのかなんて、一度も考えたことはないんじゃないか。

この人が好きなのは、「娘である私」であって、この「私」ではないのでは?
自分の娘ではなくて私と知り合いになったら、私を好きになれるのだろうか?

私から、「娘」というレッテルをはがして、先入観を捨てて、何もかもはがした何もないただのひとりの人間としてみたら、この人は私を愛するのだろうか。
はだかのまっさらの、わたし、という存在そのものとなったら、この人は私を愛するのだろうか。

そんなふうにこの人は私を愛さない。

そう気がつき、私はひとりで泣いていた。



高校を卒業して家を出て物理的な距離ができ、大学を卒業して社会人になり、経済的にも独立することでさらに距離ができ、父と衝突することもなくなっていった。
そもそも、年に数回しか会わないのだから、そう喧嘩になることもなくなった。
父も歳を取るにつれて、家族も親戚も驚くほど、角がとれて丸い人間になっていった。



20代の始め、親しい友人で初めて母になった子に聞いたことがある。
自分の子供でなかったとしても、その子はかわいいと思うか?
愛していると無条件で思うか、と。

その友人はしばらく考えてから言った。

わからない。
そもそも、そんな概念ではない。
親と子というのは、そんな理屈ではなく、そんなことを考えようということすら思いつかないようなものだと。


その後は、一度もこのことを誰かに話したことも無く、自分の中で思い出すこともなかった。


なんでまたこんなことを思い出したのかはわからないし、突然思い出したわけでもなく、ふと気がつけば意識のすみにいて、それがいつかだんだんと上層に浮かんできていた。

そしてあるとき、急に、自分の頭の中に疑問が浮かんだのだ。


「それで、私自身は父を愛していたのだろうか?
私は父の何を知っていたのだろうか?」


何も知らなかった。
そして恐らく、当時の私もまた、父を、ひとりの存在として愛してなどいなかった。

子供の無邪気さはなんて傲慢なんだろうか、と、今、思う。
一方的に与えられることを当たり前のように求め、与えられないことにすねていた。

私だって何にもわかっちゃいないし、愛してなんかいなかった。

それを事実として受け入れるのはむずかしいことだった。
でも、自分はどうなのか?ということはいっぺんだって考えたことなど無かったじゃない!

それはまさに、「驚愕の事実」だった。



一度だけ尋ねた友人との話は、「あなたも産んでみればわかるわよ。」で終わったのだが、結局、私は子供を産み育てるという機会を持たなかったので、一生その気持ちはわからずじまいだ。

でも、たくさんの経験を経て、大人になった今の自分がいる。
今の自分から当時の自分を、そして当時の父をながめると、もう何もかも仕方がなかったんだ、と思える。
誰も彼も何にもわかっちゃいない。
あんまりにもわかっちゃいなくて、もうバカでバカでしょうがないなぁと思う。
あんまりにもバカで、あんまりにもいとおしくて、泣けてきちゃうほどだ。



話をきれいにまとめたくないなあ、と思う自分がいる。
そんな簡単にわかっちゃ困るのよ、と思う自分がいる。

ああ、ややこしい自分...