『奇生虫』 大凪 揺  Last Continuation | 大凪 揺のブログ

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「なっ?・・・ななななっ・・・」
「『ななななっ』ってなんだっ!」
「えっ?。ええええ~っ!」
「おいっ、いい加減にしろっ、そのリアクション」
「だ、だって・・・何で?・・・えええ~っ?」
「・・・まあ、予想外の所で、しかも久しぶりに会って驚くのはわかるけど、お前は大袈裟過ぎんだよっ」
「い、いや、そうですかぁ?・・・。って、と、ところで何で美月ちゃんがこんな所に?」
「それは、こっちのセリフだっ。私の方は会社の御使いでここへはよく来てるんだから」
「そ、そうなんですか?・・・」
「ところであんたは?」
「はい?・・・」
「だから何でここに・・・あっ、スーツなんか着てるし、ひょっとしてここらへんの会社に就職でもしたの?」
「あっ、いえ・・・まだ予定でして・・・」
「ん?・・・予定ってことは・・・あっ、もしかしてこれから面接かなんか?」
「は、はい・・・いちを・・・」
「ほうほう、お前もとうとうやる気になったか。感心、感心」
「あっ、いや、やる気だったらもう半年も前からありましたって・・・」
「嘘つけっ!」
「ほ、本当ですって。あれからバイトもやりながら、面接だって何社か受けてたんですから」
「ふ~~~ん・・・」
「『ふ~~~ん』って・・・」
「どうせ彼女かなんかにハッパでもかけられて仕方なくだったんでしょ?」
「へっ?・・・彼女・・・って?誰のことですかぁ?」
「ほらっ、前に会うとか言ってた娘のことよ」
「へっ?・・・ん~~~っと・・・あっ、ああっ。沙希さん・・・って、名前言っても美月ちゃん知らんかったか・・・って、だ~から、あの娘とは何でもないって・・・」
「『だ~から』って言われても、あの日以来あんたとは会ってないし、あの後どうなったか私は知らないんですけど・・・」
「あっ・・・ああっ、そうそう、『あの後』といえば、あの天然娘はどうなった?」
「ん?。麗子ちゃんのこと?・・・っていうか、あんたまた話を逸らしてないか?」
「へっ?、あっ、いやいや、だから俺と沙希さん、いや、あの娘とはホント何でもなくて、っつうか、あの娘、あの後すぐに名古屋の実家に帰ってしまったから、あれ以来会ってもいないどころか連絡すら取ってませんよ」
「ふ~ん、じゃあフラれたんだ」
「ふ、『フラれた』って・・・美月ちゃん・・・ちゃんと話聞いてます?」
「あっ、そういえばあんた時間大丈夫なの?」
「なっ?。何、何?、美月ちゃんだってそうやって話を逸らして・・・」
「違うわよっ。あんた面接行かなくていいの?」
「あっ、ああっ、それならまだ時間あるから御心配なく。あっ、それはそうと美月ちゃんの方こそ大丈夫なの?会社に戻らなくて」
「えっ・・・っと、そうよっ。そうそう、私ここでお昼食べてから戻ろうと思ってたんだわ。早く食べに行かないと・・・」
「わぁ~、お昼ですかぁ~、やったぁ~~~」
「や、『やったぁ~』・・・って、何がよっ?」
「あっ、俺、いやワタクシもお供しようかと・・・」
「えっ?・・・」
「『えっ』って?・・・大丈夫ですよ、お金だったら自分でちゃんと・・・」
「いや、そういうことじゃなくて・・・まっ、まあ、もうグダグダやってる時間も無いし・・・どうせダメだって言ったって付いてくるんでしょっ?」
「はいっ。もちろんっ!」
「・・・っのやろうっ!」
 っつうことで、何にせよこれから久しぶりに美月と一緒の食事である。しっかし、それはそうとホントなんたる偶然やろか。まあ、さっき美月が「ここへはよく来る」と言っておったから確率としてはまるっきりのゼロというわけではないのであろうが・・・にしても、俺の方はそんなことは知る由も無かったわけやし、しかも半年振りに会ったのが大事な面接日だというのもこれまた・・・ひょっとしてこういうのが『運命』・・・というものなんやろか?。うん。そやね。きっとそうかもね。やっぱ美月ちゃんと俺は運命の糸で結ばれて・・・って、ちょっとぉ~、美月ちゃん歩くの速過ぎ・・・。
 時間にしたら駅から約三分程度といったところであろうか、美月の後を必死に付いて行った先にあったのは、外観が良く言えば『味のある』、悪く言えば『古臭い』、はっきり言ってしまえば『小汚い』、おそらく、いや、これまた小汚い看板に『定食』と書いておるゆえここは『定食屋』そのものであることには違いない。そこへ何の躊躇いも無く引き戸を開け入って行く美月。「う~ん・・・この店への入り方といい、それ以前にここまで一直線に来たっつうことは・・・美月にとっては通い慣れた場所、っつうか、外観については既に触れたが、この店自体も駅の近くとはいえ、車が入って来れぬどころか自転車でも擦れ違うのがやっとといった感じの路地沿いにあり、つまりは非常に目立たぬところにあるゆえ、これは常連の域にまで達しておるとも思われる。しっかし・・・なんっつうか、それはそうと大丈夫なのか?ここ・・・」などと思いながらなんともいえぬ躊躇を持った分、美月よりもちょっと遅れ気味にノソ~ッと入って行くと、非常にドスの利いた、いや、飽く迄もこれは俺の脳内のイメージであって・・・物凄いハスキーボイスで強面の男、いや、おそらく、いやいや、間違いなくここの店主に「らっしゃいっ!」と威勢よく言われ、一瞬仰け反りそうになるのを堪え小さくなって既に美月が座っておったテーブル席へと案内されることも当然無く着いたのである。するとその俺の様子を見ていた美月が「何、ビクビクしてんのよ、あんたは」っつって、イキナリ噴出した。それで「へっ?・・・べ、別にビクビクなんかしてないっすよぅ・・・あはっ・・・あはははっ」などと、強がりながら言うと「ほらっ。眉毛触ってる」っつって更に噴出してきおって、それに対し今度はやや不貞腐れながら「ち、違いますよ、これはちょっと眉毛が痒かっただけで・・・」っつうとその言葉を遮るように顔を近づけてきて「実はね、私も最初はそうだったのよ。ふふっ」っと今度は小声で言ってきた。
「へっ?・・・最初?・・・ですか?」
「うん。実はここね、以前、今行ってきた会社に先輩と行った帰りに、その先輩に連れてこられた、というか、誘われて来たのが最初だったのね。それであんたも感じたと思うけど、ここってはっきり言って場所自体もそうだし、外観からいっても凄く入りずらい雰囲気じゃない?。しかも入ったら入ったで・・・その後はあんたと一緒でビクビクしてたら、私も先輩に笑われたってわけよ。うん。けどね、味は絶品よ。だから、私も含めうちの会社の人はこっちに来た時には大抵ここに寄るみたい。って、それはそうと早く注文しないと・・・私は決まってるけどあんたは何にする?」などと一気に喋ってこられて暫し注文のことなぞすっかり忘れ「ふん、ふん、ふん」と相槌を打っておった俺は慌てて壁に貼られた手書きの小汚い、いや、味のあるというか年季が入ったメニューに目を向けたのであるが、すぐには決められぬほどのバラエティーさだったゆえ、ここは、俺はともかく美月の方の時間が無さ気やし無難というかなんというか美月と同じ『生姜焼き定食』ということで収まったのである。
 う~む・・・しっかし何やろ・・・それにしても何やろか?。さっきからこの雰囲気、っつうか、己の中から湧き出してくるような不快、いや、決して不快というわけではなかろう、このモヤモヤ感。以前どっかでこれと似たような状況を経験したような気がするのであるが・・・ん?・・・んんんっ~・・・あっ、あああっ、そやっ。『憩』や。そしてその『憩』にてビクついておったのは俺自身ではなく葛西の野郎だ。そうかそうか、それでこれを『不快』とも取れず『モヤモヤ感』として引っかかったというわけか。いや~、そうか、そうなのね。やれやれこれでやっとスッキリ・・・っと、待てっ。っと、いうことはだな、現在の俺はあの日の葛西、つまり『小心男』ということになるのか?。なんや、なんや?。これは実に『不快』。『モヤモヤ感』ではなく確実に『不快』。などと思っておると「ところで裕介?」と普通の会話のトーンで美月に話しかけられたにもかかわらず『ビクッ』。「・・・いやっ。いやいや。今のは違う。今のは違うのよ・・・」っと、必死に今の己の反応を己の中で否定し何事もなかったかのように「な、なな・・・何だい?。み、美月君」・・・って、思いっきりドモってるやん。そして即座に、その俺に追い討ちをかけるかの如く「はははっ。何ビクついてるの?裕介?。それじゃまるであの日の・・・え~っと・・・なんていったっけ?。あんたの同僚だった人・・・」と言ってくる美月。「いやんっ美月ちゃん。それだけは言葉に出して言わないで~。いやんっ、いやんっ」と、脳内で腰をクネクネやっておると「まっ、そんなのはどうでもいいけど・・・」とすぐにその話題から離れビクッ、いや、ホッ。それで「しっかし『そんなのはどうでもいい』って、それって葛西自身の事とも取れるよな?・・・にひひっ」などと思っておると「今までにも面接を受けてきたってさっき言ってたけど・・・ひょっとして全滅・・・だったの?」と全く別の話題に触れてきた。
「はいっ?・・・あっ、いや、受かった所もあったんやけど・・・」
「えっ?。そうなの?。じゃあ何で・・・」
「まっ、まあ、その疑問はごもっともやと思いますが・・・なんて言いましょうか・・・その当時は非常に焦っていたとでも申しましょうか・・・」
「ぷっ・・・あんたでも焦るなんてことがあるんだ?。あははっ・・・」
「しっ、失敬なっ!。俺だって焦る時くらいあるわいっ・・・って、あっ、そうだっ」
「あははっ・・・何よ?」
「そういえばさぁ・・・美月ちゃんってまだ『処女』・・・」
「だっ!・・・なっ、何よいきなりっ!。っつうか、それはもうやめろ馬鹿っ!」
「ほらっ、美月ちゃんだってそうやって焦ってるじゃな~いのぅ。ぶひゃひゃひゃ・・・」
「ば、馬鹿っ・・・この焦るは種類が違う・・・っていうか、焦ってないわっ!。アホッ!」
「あはっ。みっつきちゃん、か~わいい~~~」
「てっめぇ、ぶっとばすぞっ!」
 っと、やってるところで「生姜焼き、お待ちどう様でした」っつって先ほどの強面の店主自らが注文の品を運んできて、仰け反って笑っておった俺は一気に恐縮し「あっ、こ、これはどうも・・・」っつって小さくなり、その様を見ていた美月は「わははっ」っつって、一瞬にして立場が逆転しおった。それで「これでは、本当にまるであの日の葛西ではないかっ。くっそぅ~、これは不快。なんとも不快。やっぱり不快」などとまた思っておると「あっ、もうこんな時間っ。早く食べなきゃ」っつった後、食べながらすぐに「けどさぁ、焦ってたんなら尚更なんですぐにその会社に決めなかったの?」などと聞いてきた。
「はっ?・・・はいっ?・・・」
「だ~から~、さっきの話の続きで・・・」
「あっ!。あぁ~、その話ですね?」
「?・・・そうよっ、他に何が・・・」
「あっ!」
「なっ?・・・こ、今度は何っ?」
「これ、これっ。この生姜焼き物凄く美味いっ」
「な、何よ・・・そっちの話かいっ」
「?・・・そうですよ、他に何が?」
「ってめぇ~、だ~から、さっきの会社の話しでしょうがっ!」
「あっ、ああっ、そうでしたね。えっと・・・ところで・・・どんな話でしたっけ?。いや~美味い物を口にすると嫌なことってすぐ忘れちゃいますよね。あはっ、あはははっ」
「・・・まっ、まあいいや、別に私あんたになんかそれほど興味ないし・・・」
「ちょ、ちょっとぅ~、美月ちゃ~ん」
「私の方はもうあんまり時間が無いのっ。これ食べたらすぐ行くからねっ」
「もう~、わかりましたよ。あのですね、なんで受かった会社を蹴ったかと申しますとですね、自分の趣味に合わなかったと申しましょうか、それほど興味の湧かない仕事だったもので・・・」
「だったらそんなところ最初から受けなきゃいいじゃない?」
「だ~から、さっき言ったじゃないですか、焦ってたって・・・」
「?・・・?・・・あんたの言ってることよくわかんないんだけど・・・」
「つまりですね、焦ってたっていうのはですね、職に就くことに焦っていたというよりも職を選ぶ事に焦って仕事の内容を重視せずに『なんでもかんでも』といった感じで受けてしまっていたもので・・・それで受かってから我に返ったという感じになってしまったとでも申しましょうか・・・」
「んでっ?・・・」
「・・・はいっ?・・・『んでっ』って、言われましてもこれ以上話は進まない、っつうか、これが受かった会社を蹴った理由ですけど?・・・」
「そうじゃないわよっ」
「いや、そうですけど・・・」
「違うわよっ」
「いや、違いませんけど・・・」
「・・・てめぇ・・・それはワザとかっ?」
「?・・・はっ?・・・はいっ?」
「あのねぇ~、『んでっ?』って聞いたのは過去の事じゃなくて現在、というか今日の事よ」
「はっ?・・・はぁ・・・」
「つまり今日受けるところはちゃんと自分に合うかどうか選んで決めたの?っていうことよ」
「あっ・・・ああっ、そういうことですか。だったら、そりゃもちろんっ。しっかり選んで決めましたよ。はい」
「そう。・・・だったら頑張りなよ。ねっ」
 っと、ここでそう言った、というかこの話を締めくくった彼女は、美月は、今まで見たこともなかったような飛びっきりの笑顔を俺に向けてきた。・・・これには仰け反ったね。うん。ドキッとも来たがそれだけでは収まらず仰け反りました。そして、そんな俺をよそにそこで「さぁ~ってと」っつって無造作に立ち上がった美月。
「あれっ?・・・美月ちゃん何処行くの?」
「はぁ?・・・何処って、食べ終わったから会社に戻るに決まってるじゃないっ」
「へっ?・・・あっ、ああっ、そっか・・・」
「・・・あんた、ホント大丈夫?」
「はいっ?・・・何がですか?」
「なんかボ~っとしてない?。あっ、ガラにも無く緊張してきたとか?。あははっ」
「ち、違いますよ・・・」
「まっ、いいわ。とにかく今日は頑張りなよっ」
「あっ!」
「ちょ、ちょっとぅ。今度は何?」
「あのぅ・・・ここは俺が払いますんで美月ちゃんそのまま行っていいですよ」
「?・・・えっ?ええっ?。珍しい~~~。こりゃあ、今日は鋼鉄の傘でも特別注文して帰らなきゃ。あははっ」
「あっ!、あ~っ」
「ちょ・・・冗談よ、冗談」
「いや、そうじゃなくてですね・・・」
「何?・・・ホント、もう時間がやばいんだけど・・・」
「あの・・・美月ちゃん?」
「だ~から、何っ?」
「『雨が上がったら』また会いに行ってもいいですか?」
「・・・うん。わかった。『雨が上がったら』ね。雨が上がったらいつでも歓迎してあげるわよっ」
 っと、そう言って、先ほどと同じ、いや、先程よりも更に飛びっきりの笑顔を俺に向けた後、再度「じゃあ、頑張って」っと言いながら手を振って店を出て行った美月。

 ちなみにこのとき外は未だ快晴。全く雨なぞ降るような気配すらないほどの快晴である。つまり俺は『雨が上がったら』というのを『就職が決まったら』という意として示したのである。
やはり美月は他の娘とは違うのねん。この言葉の意をあのように即座に理解できた彼女は『ロマン』というものをわかっておる。いや、熟知しておると言っても過言ではない・・・多分。いや、きっと・・・。
そして「くっ、クワァ~~~っ!。やっぱロマンのわかる女が一番っ!。やっぱ美月は最高じゃ~~~っ」っと脳内で叫びながら調子に乗ってここの店主に「マスターっ!。御飯おかわり~っ」と叫びに近いような声で言った後、脳内で「あっ、やべっ」っつって、「御免なさい」っつって「すいません、御代わりを御願いします」と小さくなって再度小声で言い直す俺であった。




                                    おしまい