『奇生虫』 大凪 揺  Continuation14 | 大凪 揺のブログ

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         十六
 眠い・・・眠いのよ・・・。バイトとはいえ夜中に働いてみてわかった、っつうか、初めて実感したことであるが夜中は体力の消耗が激しくそれに反して気分の方は何ゆえにかハイテンションになるゆえ余計に性質が悪い。しかも昼間は熟睡出来ないときてる、いや、きてやがる。「こりゃ死ぬな。うん。きっと僕はこのまま死ぬのだ・・・」などと思いながら半年以上を風邪一つひかずに過ごしておるのであるが、ぼちぼちこの生活ともおさらばします僕、いや、俺。というのも、意気込みだけではどうにもならんというのは重々承知ではあるが、今日は、いや、本日は今までの教訓を生かして厳選した会社の面接日。     して現在。シャワーも浴び、しっかり髭も剃り歯も磨き、一服し・・・って、あかん、また歯を磨きなおさんと・・・まっ、それは行く直前でええわ・・・っといった爽やかな朝の一時を眠気と格闘しつつ過ごしておるところなのである。
 窓の外の空は雲一つなく・・・いや、二つ、三つ・・・っと、あるが快晴。「ええんでない?。うん。ええわな。日頃の行いを改正して面接日に快晴ってな。わははっ」などと言いながら窓を開けるとこれまた爽やかな風が頬を撫で・・・「って、寒ぃな、おいっ」っつって、再び即座に窓を閉めると、なんや突然、らしくもなく緊張してきおった。こんなのは、あの辞めた会社の面接時以来・・・いや、高校入試時の・・・いや待て・・・いずれも緊張をしていなかったとは思えんが、その時だけでなく過去にこれほど緊張したという記憶が、これ、全くと言って良いほど蘇ってこんのである。
う~ん・・・弱りましたな。これ。まだまだ時間があるゆえ焦る事はないのであるが、非常に落ち着かんようになってきおったのよ。うん。そんじゃまあ、ちょいと窓を開けて空気の入れ替えでもして・・・って、だから開けたら寒いっちゅうねんっ。それで気合を入れつつ緊張を掃おうと「ああっ、くそっ。ええいっ、クソッ」などと部屋内でウロウロしながら「クソクソ」言っておったら、今度は急に糞がしたくなってきおって即座にトイレに入り便座に腰掛けたのであるが・・・う~ん、なんやろ、身体を洗って間もない時に糞をすると非常に損をした気になるのよね・・・って、それよりも、ある意味、勝負をする前に『糞』、つまり『運』を落とすって、これ、不吉なんやないやろか?。・・・ん?・・・ならば、指にちょいとつけて『運をつける』・・・って、アホかっ。しかも何が『ん?』やっ。なんで俺はこんな小汚いことに閃き感を通しとんねんっ!。
「あ~~~、あかんのね。いかんのね。僕ぁ子羊なのね・・・」などと言いながら『運』を、いや『老廃物』を流しトイレを出てまた一服。・・・あっ、歯を磨きなおさんと・・・まっ、それは行く直前で・・・って・・・ん?。確かさっきも同じことを考えて・・・んでそのあと俺なにしたっけか?。・・・あっ、窓を開けて「寒ぃ」っつって・・・部屋をウロウロしてクソして・・・って、おいっ。なんで俺は数分前の己の行動をなぞろうとしておるんじゃ?。もうわけわからん・・・このままここで過ごしておっても何も変わらん、っつうか己が壊れていきそうやし面接の時間まではまだ怖ろしく時間があるがとりあえず部屋を出るか、ってんでスーツを着込み、ハンカチとポケットティッシュ、それから『お絵描き帳』・・・って「おれは園児かっ。わははっ・・・ん?。笑うとなんか、ちょい気が楽」っつって、ニタニタしながら『メモ帳』を鞄に入れ部屋を後にしたのである。
寒いのね。まだまだ季節は冬やし、スーツの方は新調でけんかったが、少々値の張ったちょいと厚手のコートを買って置いて正解やったね。うん。それに空は窓越しに見た時と変わらず快晴。太陽も燦燦と輝いておる。太陽だけにサンサンとな。SUN SUNと・・・って、もうええわっ。たいして、いや、全然おもろくもねぇし。そんなことより、まずは駅じゃ。「よ~しっ、あの太陽に向かって・・・って、方向が逆やったわ・・・。よ~し、それじゃ太陽を背にして・・・ん?・・・なんやこれだと気持ちが盛り上がらん、っつうか気持ち的に非常に後ろ向きな感じで嫌な感じやな・・・って、太陽なんか今はどうでもええねん。こんなもんに気持ちを左右されてる場合やないやろうがっ」などとホントどうでもいいことを思いながら己の影の方向へ「寒ぃ、寒ぃ」と何度も口にし自転車で走り出す俺であった。
さぁって・・・これからどうすんべぇかな?。とりあえず駅へ向かうのは良しとして、この後どう時間を潰すのかまでは考えておらんかった、っつうか元々この俺としては異常なまでの緊張感に耐え切れず堪らず部屋を出て来てしまっただけな故そこまで頭が回らんかっただけなのであるが、なんかこう、緊張感を緩和してくれるような落ち着ける場所、もしくは、何か一時的にでも気を紛らわせてくれるようなものが設置してあるような所で時を過ごしたいところである。などと考えておるうちに右手に『準備中』の札をドアにぶら下げておる沙希さんの居なくなった『長寿庵』。程なくして左手に『憩』。そして再び右手に元我社。それらを横目に通り過ぎて行ったのであるが、辞める数週間前に新調したばかりだったこのスーツを着てあの会社の前を通った時は非常に複雑な心境やったね。復帰を断った時は全くと言って良いほど未練を消し去っておったが、あの時、何も考えず美月や葛西に言われるがままに復帰しておったら間違いなくこれを着てここで再び働いておったわけやし、それを考えると決して未練ではないが多少の心の変動は、これ、致し方ないわな。うん。しかしまあええのよ。俺にとっての新しいスタートはここではなかったというだけの話、っつうか、『新しい』と言ってる時点でもうここではない、つまりここへ戻るということは『新しいスタート』というよりも『再スタート』っつうことになってしまうしな。って、だからそれはもうええのよ。今はそれよりも触れたいのがその会社の手前で通り過ぎた『憩』のことである。というのもあそこへは紗希さんと別れた後もバイトの休日の際に何度か一人で訪れておって、最初のうち、つまり数ヶ月前に訪れた際には先客がおったりなんかして「ほうほう珍しいこともあるもんだ・・・あっ、マスターすいやせんっ」などと思ったりしておったのであるが、あれよあれよという間にそれが懐かしいと感じられるほど現在じゃウェイトレスを一人雇っておるほどの変貌を遂げておるのである。毎日通っておったわけではない故どのような経緯があってこのような事態、いや、喜ばしいことになったのかは知らぬがおそらく口コミ・・・いや待て。先日訪れた際にマスターも「あなたが来るようになってから御客さんが一気に増えたんですよ。もしかするとあなたは福の神かも知れませんね」などと満面の笑み浮かべて言ってきおったし、きっとそうなのだ。俺は福の神なのですよ。わははっ。しかしその『福の神』である俺自身は未だに『貧乏神』を背負ってるけどな。ぶひゃひゃひゃひゃ・・・って、笑えねぇよっ。っつうか笑っとる場合やねぇ。俺は変わるのよ、変わらないけんのよ。となればやはり今日は、いや、本日はとにかくベストな状態で面接に挑みたいところである。幸い、というべきかどうかはわからぬがいつの間にやらのこの駅前に着くまでの間の雑念のお陰で気持ちも紛れ大分落ち着いてきたことやし、ここはダメ押しというかなんというか、こういう時は以前、家賃のことで苦悩しながら実家に訪れる前に寄ったアソコが良いのではないか?。うん、良いわな。ってんで行ったのがあの日と同じデパートの屋上である。
う~ん・・・ええね。うん。やっぱええよここ。うん。しっかしなぁ・・・ちょ、ちょいと・・・い、いや・・・はっ・・・はっ・・・ぶぇっくしょんっ・・・ズズズ~・・・っと、説明するまでもないが当然の如く寒ぃのである。これでは気持ちは落ち着くが身体が落ち着かんわ。ってんでベンチではジッとしておれず一服だけした後、暫し身体を温めるべくウロウロしたものの「限界っ」っつってデパート店内へと戻り今度は階段の踊り場に設置してあるベンチにて一息。しかしなんやろな・・・これはちょいとちゃうのよね。これでは寒さを凌いでおるだけで何もここでなくてもいいんやないかっつう話よね。って、それはそうとそれ以前に俺はここへ何をしにきたのじゃ?。ん?。・・・あっ、元々は屋上ね。屋上で更に緊張を解そうとしたら寒過ぎてそれどころではなかった、と・・・うん。「ならば、これ、どうしましょう・・・」ってんで何気に時計を見るとまだ昼前。まあ、多少の緊張感は持っておらんと関西人でもないのにいつもの調子でエセ関西弁を面接時に吐き出してやばいことになるのも嫌やしこれくらいならええんやないか?。っと、あかん。いや、いかん。それだったら今更ではあるがここからは例え脳内といえども標準語で思考しておかなぁ、いや、おかないとボロが出る可能性も大やし、いや、だし、ぼちぼち、いや、そろそろ・・・か?・・・って、まっ・・・まあ大丈夫やろ、いや、だろう、でしょう・・・あはっ・・・あははははっ・・・。などと己の中で東西対決を繰り広げながら未だに残る緊張感からか、食欲はあまり無いが何か腹に詰めておかないと声に張りが出ん・・・出ないでしょう、だろう、ってんで「そやね。いや、そうだね。ここらでちょいと胸焼けをせん・・・しない程度に何かを食べておいた方が良いかもね。うん、いや、はい」っつって、今度はエレベーターは使わずそのまま踊り場からゴツゴツと革靴を鳴らし一気に一階まで降り息を切らしながら「結局、俺はここへ何をしに・・・あっ、そうだ屋上に行きたくて、行ったら寒くて・・・」と、また思考回路をサーキット場化させながら店外へ出ると、上、つまり屋上との気温差により外が先程より暖かく感じられた。まっ、元々快晴で風が無ければこの季節としては暖かい方だし、結局は気温差というか体感温度によるものなんやろう、だろうけどね。うん、いや、はい。まあ、そんな解明はともかく、面接まではまだ時間があるしここいらの適当な食い物屋に入ってもその時間的には問題は無いのであるが、腹を満たしてから電車に揺られるのも、これ、どうかな、っと。元々、乗り物酔いはしない方だがこの緊張感でもしやということもあり得、もしくはこの現在の己の情動では非常に考えにくいことではあるがバイトにより昼夜逆転の生活をしておったゆえ気持ち良くなって熟睡してしまい乗り過ごして大慌て、なんてぇこともまるで有り得ないことではない。と、なれば、やはりここは、これから面接を受ける会社の最寄の駅へ行ってからの方が良さ気、っつうか間違いなく無難であろうな。ってんで早速、っつうか、このようなことを考えていたらもう既に駅前におった、いや、居たんだわ俺、僕、ワタクシ。しかし、この状態ではまだ電車には乗れんのよ、っつうことでマシン、いや、自転車をまず線路沿いの駐輪場、あっ、いや、か、どうかはわからぬが駅を利用なさっている他の皆さんに習ってその場に紛れこま・・・停めさせて頂き、再び駅に戻りここから五駅先の切符を購入。ちなみに以前受けた会社は、ちょいと距離的にしんどい所もあったが、いずれも自転車にて通える範囲内、つまり、今回は距離に関しては以前思考した際の妥協よね。この妥協に当たって何が嫌だったかって言ったら、まあ、そのぶん早起きせんければならぬというのは元より、やはり朝の通勤ラッシュであった。しかし今回選んだ会社はあれが使えるのよ、アレ。・・・あれ?・・・何やったっけか・・・えっと、フレンド、やなくて、フレッシュ・・・うん、確かそんな風な・・・あっ、フレックスや。そうそう、そのフレックスが使えるのよ。これは有難い、うん、有難いわな。っつうか、これもあの会社を選んだ決め手の一つやったわ。わははっ。まあけど、さすがにこの時間に通勤することはないやろうが、ラッシュさえ過ぎれば後はきっとこんな感じになるんやろうな、といった具合のガラガラの改札を抜け、ガラガラのホームで電車を待ち、中がスカスカの電車に乗り込み当然ながらこれもスカスカの椅子に座り・・・後は・・・後・・・は・・・闇の中・・・っと、あかんっ。先ほどの飯を先に食うとか食わんとかの考慮を無にするかの如くもうちょっとで寝るところやったわ・・・。あっ、それはそうとそれとはまるで関係が無いのであるが、さっきからなんとなく、いや、はっきりと自覚はあったが、標準語はどないした?・・・。まっ、まあ、ええか・・・いや、大丈夫。うん。大丈夫や。俺、いや、『ワタクシは本番に強い男であります。よろしく御願いします。』・・・あっ、これをその本番で言うのも有りやな。わははっ。いや、うふふふふっ・・・って、気持ち悪。なんやこの笑い方は・・・っと、そうやっ。笑い方と言えば、さすがに『うふふ』は無いが、相手に好印象を与えるためには男としてはどんな風に笑ったらええのやろか?。女性の場合は『おしとやかに』というのがあるが男の場合は果たして?・・・。男らしさを出すという面では『豪快に』というのがあるが、これもさすがに面接の際に『がはははは~っ』というわけにはいかんやろしな・・・ぷっ・・・しかし、なんかオモロ。これ実際には当然やらんが唖然とする面接官の様子は想像できるわ。わははっ。・・・ん?・・・っつうか、考えてみりゃ、それ以前に面接の際に声を出して笑うような機会なぞ無いのではないか?。まあ、せいぜい表情を緩める程度であろうな。うん。ならば笑い方なぞを気にしても無意味・・・か?。まっ、けど現在に関しては眠気を緩和出来ただけでなく良い暇つぶしになったからええんでない?。ええわな。わははっ。うふふっ。がははっ。などと、またこのように脳内でやっておったらいつの間にか面接場である会社の最寄駅に着いておって思わず寝過ごすどころか、いわば起き過ごす・・・って、アホッ。この場合『見過ごす』という言葉があるやろがっ。っと、己にツッコミながらホームへ慌てて降りるといきなりピュ~っと冷たい風にやられ、これまた寒ぃ。特に首筋が寒ぃ。こいつはそろそろマフラーも必須やな、っつって肩を竦めながら改札を抜けるとこれまた更に寒ぃ。今度は特に太腿が寒ぃ。こいつはぼちぼちズボン下も必須・・・いや、履かん。これは例え若者をターゲットにしたファッショナブルな股引が販売されようともこれは意地でも履かんぞ。っと、どうでも良い決意を胸に「さっ、とりあえず飯や、飯屋」っつって、キョロキョロとやっておると何軒かそれらしき看板が目に入り込んできおったが、どうも俺の趣味、っつうか、好みに合いそうも無い所ばかりなのである。しかし、とうとう、というかなんというか昼時に入りそれなりの人波が出来てきおったゆえ選り好みしておる間にどこも込み入ってしまい食いそびれる可能性も無きにしも非ず・・・か?。まあ、時間的にはまだ余裕があるとはいえ食ってすぐに面接なぞに行ったらゲップで返答してしまいそうやし・・・ぷっ・・・これも、やったら面接官が唖然やな。わははっ。・・・って、笑い事やないやろっ。っつうか、こんなんで落とされたら洒落にもならんわっ。っとなれば、ここはやはり食った後も少しは余裕を持ちたいところやな。ってんで、これから向かう会社の方角に向かってちょいと急ぎ足で移動しておったら「裕介っ!」っつう声が遠からず近からずの距離から聞こえてきおった。しかし、こんな所で、しかも苗字ではなく名前の方で馴れ馴れしく俺のことを呼ぶ奴なぞおるわけないやろうし、それに、それ以前にこんな名前の奴なぞ何処にでもおるわ、っつうことで、あまり気にも留めず更に「飯や、飯屋」っとやっておったら、先程よりも近距離で再び「裕介っ」っつう声が耳に飛び込んできおって「もうっ。何やってんだよ。何処の誰ぞかは知らぬが返事くらいしろや『裕介』っ。俺は今忙しいんじゃアホッ」などと思っておったら今度は、ほぼ真後ろから「大崎裕介っ」っとフルネームが聞こえてきおった。「もう、何やってんだよ『大崎裕介』っ。俺は今忙し・・・ん?。なんや、なんや俺か?俺のことなのか?」ってんで無造作に振り返ると・・・跳ねたね。跳ねました。そこにはなんと・・・「もうっ。さっきから呼んでるのに無視すんなっ」と、相変わらずの口調の白川美月が会社の制服で立っておったのである。