走り続ける男の哲学と美学。
2009年 監督/ 増田久雄
世の中には二人といない男がいる。ひとりはブルース・リー、ひとりはマイケル・ジャクソン、そしてもうひとりが矢沢永吉。
日本ロック界を牽引し続ける矢沢は現在73歳。衰え知らずのバイタリティで日本ロック界の頂点に君臨している。その人気に翳りは見られず、常に新しいファンを獲得し続けており、コンサートチケットは毎回争奪戦が繰り広げられている。
なぜこれまでに矢沢の音楽、そしてステージは愛されるのか?
矢沢のステージは映画や舞台劇によく似ている。拘りのセットリストと演出で紡ぐ物語がどれほどドラマティックなことか、一度でも矢沢のステージを観たことがある方ならば分かるはず。
そして、楽曲=物語の主役を担う矢沢は最高の役者だ。矢沢は単に歌っているだけではない。演じているのだ。
だから、矢沢のステージを観て涙を流すファンは少なくない。人が繰り返し矢沢を求める大きな理由のひとつがここにある。
稀代のスーパースターである一方、矢沢は自主レーベルとコンサート、映像制作会社のプロデューサーとしての顔も併せ持つ。そんな男に迫ったドキュメンタリー作品『E.YAZAWA ROCK』には、激動の時代でもがき続けて来た男の美学、そしてトップを走り続ける一流の男の哲学が溢れている。
【矢沢語録】
◾︎ 繰り返すことの凄さ。マンネリにならないで、もがきながら。でも繰り返していく。
◾︎ 神様は全部はくれないんだよね。それをしたらしたで何かを失っている。
◾︎ この感じどう?カッコいいよね。今年はロックしたかったのよ。ロックンロール!
◾︎ 何かしたい気持ちがあるのよ。何かしたい。
◾︎ 80〜90%は歌謡曲で、フォーク、ロックの順番でしょ日本は。アメリカは逆だよね。90%ロックだよね。ちょっとずつね、行きます。
1979年のインタビュー。この気持ちは今も続いている
◾︎ 僕が得たものは一般の人は得られないかもしれないけれど、一般の人が物凄くいっぱい持っている物を僕は持っていない。そう思ったらさ、まあ僕も、誰も、彼も、あそこの人も、そこの人も結構イーブンだなと思えたら、これはありがたいことだと、良しとしなけりゃいけないんだろうな。
◾︎ 欲しいものは取るんだって30年間言い続けて来たのに、後ろからぶん殴ってガッサリ取るってことは絶対にあり得ない。僕は取る時は前からまっすぐ取りますから。
◾︎ ライトの人、矢沢が立ち上がったらブルーライト当てるのが早い。どこで当てるか教えてあげようか?
◾︎ ……。
◾︎「永ちゃんの武道館を観て俺頑張るよ」「また頑張れるんだ」って言ってくれた時、物凄く嬉しいのね。それでいいと思うの僕の音楽は。
◾︎ もし矢沢のいいところが一つあるとしたら、僕はねすぐ怒る、すぐ頭にくる。給食ただで食べさせて貰って、教科書ただで貰ったあの時のことを忘れない。もうこんな屈辱はないと思った。絶対これは上に行かなきゃダメなんだと思った。
◾︎ 俺、いっぱいの人に…たくさんの人と交わって愛されて来たんだなあ。
矢沢は絶対に手を抜かない。妥協を許さぬ探究心と仕事に懸けたプライドはまさに一流の証し。手抜き仕事が人に見抜かれることを矢沢は知っている。そして手抜き仕事に人が感動しないことも。
そんなプロのエンターテイナーとしての姿から一転、本作では人としての弱さ、脆ささえも曝け出す。綺麗事だけでは観客の心を掴めない事も知っているからだ。
百戦錬磨のステージをこなして来た矢沢でも、おそらく毎回客を食うか、客に食われるかの真剣勝負なのだろう。
その姿勢は、映画製作においても変わることは無かったようだ。作品の出来に納得しなかった矢沢は、公開を一年遅らせ追加撮影と再編集を希望したという。その理由は"自分を曝け出し切っていないから"。
矢沢はファンをナメていない。人をナメていない。地に足のついたスーパースターだ。
それが"80億人に1人の男"である理由のひとつでもあるのだろう。






















