痛々しくも熱い60'sロンドン

2021年 監督/ エドガー・ライト

1960年代にタイムリープするというSF的要素が肌に合いそうになく、長らく鑑賞を見送っていた作品です。

今回鑑賞に踏み切った理由は、劇中で007シリーズ第4作『サンダーボール作戦』の絵看板が映るから!それと『女王陛下の007』のボンドガールを演じたダイアナ・リグが出演しているから!そのうえ監督がエドガー・ライトなら、一応観ておこうかなと思ったわけです。だから内容に関してはまったく期待していませんでした!そんなんで、はたして最後まで鑑賞出来るのか??


それがまさか!

まさかこんなに面白いとは!!


ラストナイト・イン・ソーホー』は一体誰の物語なのか?そして物語は何処へ向かっているのか?我々観客はまるで本作の主人公エロイーズ・ターナー同様に、突如1960年代(『サンダーボール作戦』が上映されているから1965年だよね?)のロンドンに放り込まれ、見知らぬ女性の人生を側から眺める事になるのです。

しかし本作の脚本・監督はエドガー・ライト。観る者を翻弄させながらも、60年代のポップスとイマジネーションの連打で一瞬たりとも退屈をさせず、怒涛のクライマックスまで畳み掛けるのです!


エドガー・ライト、マジ恐るべし!!


エロイーズを夜な夜な引き込む1960年代のロンドンの風景に、ライト監督独自のホラーテイストを交えて描くビジュアルは斬新そのもの。ライト監督は本作で新境地に到達しましたね!


そして本作最大の特長は、これまでのどのライト作品よりも登場人物のキャラクターがしっかりと作り込まれていることです。

特にサンディを演じるアニャ・テイラー=ジョイとコリンズを演じたダイアナ・リグは、本作に異様なパワーをもたらした最大の功績者であると断言します。


怒涛のクライマックスで観るものを叩きのめす新たな映画界の傑作。ガールズムービーでありながら、その痛々しさと情念が爆発する熱量に完全に絆されました!!




【この映画の好きなとこ】


◼︎サンディ (アニャ・テイラー=ジョイ)

圧倒的な存在感で作品を支配した。ズタボロの心情を涙で表現することなく、強気な姿勢を崩さないカッコよさ!演じるテイラー=ジョイの魅力と共に映画ファンの心を掴んだ。

次は『マッドマックス:フュリオサ』の主役だ!



◼︎コリンズ (ダイアナ・リグ)

圧倒的なオーラ、品格、そしてその美しさに吸い込まれた。絶大なインパクトで永く映画ファンに愛されるキャラクターを創造し、人生最後のキャリアを見事に飾った。

本作が遺作となった事にボクは拍手を送りたい!



◼︎色彩感覚

街並みに溢れるネオン管のポップな色合いが全編を彩る。サイケデリックな色彩は、揺れるエロイーズの心情を映し出している。

ライトは『サスペリア』ファンなのか?70年代だけど
執拗に繰り返される赤と青



◼︎音楽

主人公エロイーズが憧れる60年代のナンバーで全編を構成。本作でもすべての選曲を行ったライト監督はタランティーノ並みにDJの才能を発揮している。

とりわけこの曲が好き!



◼︎ホラーテイスト

映画『シックス・センス』を彷彿とさせるスピリチュアルシーンが随所に盛り込まれ、物語の全体像をくらませる。一体何が起こっているのか観客に示唆せずに引っ張る演出力!

ホラーじゃないので怖くないからね
おじさんの幽霊部隊は一体何者なの



◼︎階段

すべての伏線が回収される映画的でドラマティックなクライマックス!被害者であり加害者でもあるサンディを同じ女性として受け止めるエロイーズに涙!胸熱必至!

ラストは感情のごった煮だ!
エロイーズを抱きしめるサンディ
囚人の様な人生だった」と語るコリンズには一体何が
弔いの炎か、それとも地獄の業火か



◼︎エンディング

「この映画はホントに素敵だ!」そう言わずにいられないほど粋でハッピーなエンディング。このシーンにエロイーズの母とサンディの存在は必須。

母さんも
サンディも




ライト監督作品には、いつも映画への飽くなき愛情が込められています(オマージュなどという生優しいものではない!)。本作でもそれは随所に見受けられますが、とりわけ007シリーズファンのボクとしては、先述した『サンダーボール作戦』の絵看板登場、『女王陛下の007』でボンドガールを演じたダイアナ・リグ、そして『ゴールドフィンガー』に出演したマーガレット・ノーランが重要な役柄に起用された事は大きな喜びです。同時に2人のボンドガール最後の出演作品となった事すら嬉しく思える程『ラストナイト・イン・ソーホー』は傑作です。きっと永く愛される作品だから、2人の姿も永く映画ファンの心に刻まれると思えば喜びもひとしおです。


この作品の製作には、近年社会現象となったMe Too運動が根底にあると思われます。不当に女性を搾取し続けた古い時代の男どもを、現代映画人が成敗した作品であると捉えています。

しかし、男性を成敗しサンディを救済するだけではなく、60年代に蔓延る罪を裁いたものであり、そこには愛情が込められているのです。時代に翻弄されたすべての男女を、さも愛しく弔うかのように。

本作におけるライト監督の立ち位置は、未来から来た救世主のようにすら思えました。

すべての人類を次の時代に移す為に。

そう、時代は変わったのです。


大好きな映画がまたひとつ増えた!!