底辺に蠢めく男たち
1981年 監督/ バート・レイノルズ
"バート・レイノルズの主演作品にハズレなし"という確信めいたものが、幼少期より心に根付いていました。昔は『ロンゲスト・ヤード』『トランザム7000』『グレートスタントマン』などが、頻繁にテレビ放映されていた為、レイノルズは娯楽映画のキングという印象が強く刷り込まれていたのです。
そんなレイノルズが主演と監督を務めた『シャーキーズ・マシーン』は、麻薬課から風紀課に降格異動させられた刑事の物語。
しかし、悲哀を感じさせることなく、時にユーモラスに、時に熱く奮闘する様をポジティブに描いた作風は、映画ファンからの多大な共感を得たはず。
高級売春婦を調査する主人公シャーキーとその仲間が、やがて闇組織が絡む殺人事件へと発展するも、他部署(殺人課)に事件を渡さず、風紀課のプライドをかけて解決に挑む姿に揺さぶられます!
本作最大の魅力は、主人公以外の端役まで丁寧かつ魅力的に描写されている事だと思います。監督の職権を乱用し、ワンマン映画にしなかったレイノルズの映画愛をここに強く感じます。
80年代ならではの刺さる音楽の数々とゴージャス系美女、そして狂える悪人(特に殺し屋カルロ)たちの魅力が相まった娯楽作品です。
レイノルズ主演の刑事ものでありながらアクション控えめ。しかし見どころ満載、感動も満載。デキる映画監督レイノルズの手腕に震える傑作です!
【この映画の好きなとこ】
◾︎タイトルシークエンス
ランディ・クロフォードの名曲『ストリート・ライフ』の素晴らしさはもちろんのこと、舞台となる高層ビルの空撮から、ひた歩く力強く美しいレイノルズの姿を捉えるまでの強引なカメラワークに痺れる。
絶対観てね聴いてね!◾︎風紀課の美術
狭く薄暗い乱雑な部署。留置所が隣接された劣悪な環境は、荒んだシャーキーの心象のようでもある。
◾︎ドミノ
監視対象者の高級娼婦ドミノにのめり込んで行く様は、ヒッチコック監督の『めまい』を思わせるが、そこはレイノルズ監督のこと。恋にときめく様を軽妙に描いている。
◾︎階段
殺し屋カルロとシャーキーが、ジリジリと間合いを詰め、にじり寄る様がサスペンスフルに描かれる。上階と下階を切り替える編集も上手く見応え十分。
◾︎接触
高級売春に加担するホッチキンス議員へ接触するシャーキー。鍵となる"ドミノ"という名前だけの音声を立たせ、それ以外の会話音声はオフにする大胆演出が効果的。
◾︎野球場
なぜかイジられるフリスコー部長。普段の威厳をかなぐり捨てて、こんな息抜きで楽しませてくれる。舞台の表裏共にチームワークの良さが感じられるシーン。
◾︎毒牙
牙を向いた組織がシャーキーの仲間を始末していく。なごやかムードから一転悲劇の幕開けで緊張感が走る。
◾︎静かなる対決
シャーキーに脅しをかけられ青ざめる売春組織元締めのビクター。シャーキーの見せる笑顔が痛快で、この後の展開が楽しみで仕方なくなる。
◾︎裏切り者との対面
囚われの身となったシャーキーの前に現れた裏切り者の正体に驚愕。裏切り者を暗がりに浮かび上がらせる不気味演出と、これから行われる拷問を暗示する恐怖演出がスゴい。
◾︎脱出
監禁された船室から脱出するシャーキー。陸上で使用する水中銃は、拳銃を使うよりも怒りの度合いが増幅されて伝わる。更に敵を仕留めた時の痛快さは観客と共有が出来る。
◾︎最後の対決
怪物カルロと共に傾れ込む、緊張と興奮のクライマックス。カルロとアーチーの血まみれ決戦、そしてシャーキーとの対決。舞台の超高層ビルを上手く利用した極上見せ場!
◾︎ラストシーン
激しいクライマックスから一転、ドミノと仲睦まじく過ごすその後のカットを投入するセンス!事件解決でブツっと終わらせたらジョン・フランケンハイマー監督作品だが、このワンカットを入れた事で余韻が深まった。
カリスマ俳優であり、名監督のレイノルズが生涯で演出を手がけた作品は本作含め5本。『シャーキーズ・マシーン』の面白さを再確認した今、他にどんな名演出をしたのか俄然気になってきました。これからレイノルズ監督作品も追いかけてみたいと思います。
一方、俳優としては絶頂期の80年代以降は人気が低迷するも、1997年にポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』で、ゴールデングローブ賞を始めとする11もの映画祭で最優秀助演男優賞を受賞し、演技派として鮮やかなカムバックを果たしました。
以降、順調に第二の黄金期キャリアを築くも、2018年にクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の撮影開始前に他界。まさにうってつけのキャスティングだっただけに残念でなりません。
レイノルズ作品から離れて久しいので、これを機にまた観直してみようかな。まずは『トランザム7000』シリーズ、『グレートスタントマン』、他に愛すべき永遠のダメ映画『キャノンボール』なんかもいいなあ。
やっぱりレイノルズは娯楽映画のキングだな、永遠に。