この作品には法令も法律もない!あるのは熱量だけだ!
1979年 監督/ 長谷川和彦
とんでもない事が起きている!そんな胸騒ぎで駆け抜けた147分(観るたびにその尺を感じさせないのもスゴい)。こんな飛び抜けた作品には、長い人生でもそう簡単に巡り合えるものではありません。
日本映画に、そんな無限のパワーと可能性があることを知らしめたのは長谷川和彦監督。
だから映画は面白い!だから映画はすごい!
常識破りのエンタメで日本映画界に風穴を空けたと呼べる作品は、三池崇史監督作品『DEAD OR ALIVE 犯罪者』と、本作『太陽を盗んだ男』だけだと思います!
本作で展開される破天荒ぶりも、あと一歩踏み込めばコメディになりますが、これをギリギリの線で均衡を保った長谷川監督のセンスは、まさに日本映画界の宝です!
そして、本作には破天荒な作風をも凌駕する、制作にまつわる伝説がいくつも残されています。
皇居広場にバスを突っ込ませ、国会議事堂を盗み撮り、首都高速道路を無断封鎖、東急百貨店屋上から大量の偽札ばら撒きなど、これらすべてがなんと無許可のゲリラ撮影とのこと!その結果、逮捕されたスタッフはなんと30名にも上るそうです。そう、本作は、本物の狂気と情熱が焼きつけられた作品なのです!
他人事なので言ってしまいますが、日本映画界を揺るがす奇跡が誕生したのだから、逮捕された30名のスタッフも本望でしょうね!
【この映画の好きなとこ】
◾︎城戸誠 (沢田研二)
中学校の理科教師。遅刻する、試験中に眠るなど、まるでやる気の無い脱力系変人だが、原爆を作ってしまう天才でもある。しかし、野望はない。
◾︎沢井零子 (池上季実子)
城戸の魔力に吸い込まれるように接近するラジオDJで、ニックネームはゼロ。城戸に肩入れする理由は描写されずとも、池上の演技が説得力を持たせた。その魅力は、沢井零子という女性を掘り下げて見たくなる程!
◾︎プルトニウム強奪
コミカルなストップモーション処理と、ディスコを意識して作ったという原子力発電所のセットが醸し出す異空間。
◾︎原爆製造
本来であれば陰湿で緊張感に溢れるシーンになりそうなものの、演じる沢田のアドリブ全開のハイテンション演技は、作品の方向性さえ決定づけた。
◾︎要求
原爆を完成させた城戸。国家を相手にどんな恐喝でも出来そうなものだが、目的も野望もない城戸が思いついたのは、野球ナイターのテレビ放映延長という現実感。
◾︎9番とゼロの共犯関係
唯一爆弾魔の素顔を知るゼロは、警察のモンタージュ写真作成に協力するも、結果的に警察を欺いてしまう。城戸と運命を共にする予感に胸騒ぎ。
◾︎デパート脱出
警察の包囲網にかかり行き場を失った城戸が、カウントダウンが始まった原爆と引き換えに、脱出を要求するサスペンスフルな見せ場。そして5億円の意外な使い途。
◾︎原爆奪還
ターザンロープ(!)で警察署に突入した城戸が原爆を奪還し、再びターザンロープで去ってゆく!作戦成功を喜ぶゼロは、城戸になんらかの思いを託しているのか?
◾︎カーチェイス
想定外の事故も、アドリブで乗り越えながら完成された豪快なカーチェイス。とりわけ成功の余韻と束の間の解放感に浸るゼロが印象的。やっぱり彼女の過去を遡ってみたい!
◾︎ゾンビ警部
城戸を追い詰める山下警部のタフな姿には、笑いと感動が入り混じった興奮がある。ここから映画は更に加速。人間の領域を飛び出した二人の対決は完全に予測不可能となる。
◾︎9番とゼロ
原爆を奪還し、警察を振り切った2人が初めて交わす笑顔。「ガム食べるか?」「うん」の短い会話が、先出のキスシーンよりもラブシーンぽくて断然好き。
◾︎日本武道館
"肉体など無意味"と言わんばかりの精神世界での戦いを見せる山下警部。そして、しぶとく生き残る城戸の生命力には、人類のネクストステージを垣間見るほど。
◾︎長谷川監督の反骨精神
被曝した城戸が、抜け落ちる髪の毛を吹き飛ばすシーンは、胎内被曝者として生まれた長谷川監督の「原爆がなんだ、うるせえバカヤロー。原爆に泣いたりしねえぞ!」というメッセージだという。
本作を撮った広島生まれの長谷川監督は、5ヶ月の胎児だった時に、体内被爆者となりました。
小学生の時に体内被爆者は長生き出来ないことを知り、20歳を迎える事は出来ないだろうと子供なりに覚悟していたそうです。
そんな長谷川は助監督時代を経て、30歳の時に『青春の殺人者』で監督デビューを果たしました。
そんな背景からか、本作も含め、生きながらえたことで迷える若者を描いたのは必然であったのかもしれません。
しかし、被爆者としての恐怖、悲哀を敢えて表に出さず、エンタメ色の強い作品に仕上げた長谷川はインタビューでこう答えています。
「真面目な反核映画が嫌な訳じゃないけど、そういう映画は必ずしも俺を元気づけないんだよな」。その生命力、まざまざとフィルムに焼き付けられていますよ!
映画ファンにも評価、支持された『青春の殺人者』はキネマ旬報1976年ベスト10の第1位に、『太陽を盗んだ男』は1979年ベスト10の第2位に選出され、最も次回作が楽しみな映画監督とされ、華々しいスタートを切った長谷川監督ですが、それ以降現在まで長編を発表していません。
しかし「もう一本撮らないと死ねない」と今年のインタビューで答えていますので、心から安心、そして心から期待しています!
長い時間の中で、グツグツと煮詰まった企画や構想がいくつもあるはず。
マジで撮ってくださいね!!