鮮烈!様式美の極み!
1957年 監督/ 黒澤明
これちょっとスゴい!!ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『マクベス』を日本の戦国時代に置き換え、能の様式美で繰り広げられる黒澤明監督作品です!

20代前半の頃、黒澤明監督作品は本作含め8割ほど鑑賞済みだったのですが、この『蜘蛛巣城』のような非娯楽活劇は正直あまり印象に残らなかったんです。だいぶ大人になった近頃、なんだか気になり再鑑賞してみたら…いや凄かったです!いや凄すぎた!圧巻の映像は勿論なんですが、ストーリーやキャラクター描写の素晴らしさにも心を奪われました!ボクはシェイクスピアも能も知りませんが、ホントにおもしろかった!いや、心酔しました!

黒澤俳優といえば三船敏郎『七人の侍』『用心棒』など活劇作品のイメージが強い三船ですけど、コレも代表作と言っていいでしょ!また妻を演じる山田五十鈴も同様に素晴らしく、映画史上最も好きな夫婦リスト(存在しませんけど)に加えられましたよ!
能面をイメージした表情、能を取り入れた立ち回りと佐藤勝の音楽!なんとも摩訶不思議な異空間にいざなってくれます!

これを日本人が知らないのはどうかと思います!


【この映画の好きなとこ】

◾︎オープニング
蜘蛛巣城の城跡柱に霧がかかる。やがて霧が晴れると、かつての蜘蛛巣城が出現する興奮度の高い映像!秒で取り込まれます!
霧が立ち込め…
あたりを包むと…
じゃじゃーん!時を越え蜘蛛巣城登場!

◾︎もののけが住まう山
慣れたはずの帰り道、もののけに惑わされ迷子になる武将鷲津武時と三木義明。もののけ登場までの描写も素晴らしく、突如異次元世界に放り込まれます!
「人間はおかしなものよのう。自分の心の底を覗くのが怖いのじゃ」
深い霧の中、彷徨い続ける様を2分45秒間セリフ無しで描写!圧巻!スゴい!

◾︎フェイド・トゥ・ブラック
武時に謀反をそそのかす浅茅が暗闇に消え、闇から再度姿を現す魔に魅入られたかの様なショット。その壺に何が入っているのか?浅茅は何を企んでいるのか?台詞説明無くとも全て読み取れる素晴らしい演出!
闇に飲まれていく浅茅…こわい
もしかしてデヴィッド・リンチ監督得意の暗闇ショットはここから?暗闇に消えまた現れるまんまのシーン『ロスト・ハイウェイ』でもやってるしね

◾︎幻覚
幼馴染みでもある武将三木義明に刺客を放った武時。事の顛末を聞かぬうちから三木の亡霊を見るなど自滅の匂い。
ギョギョっ!

◾︎終わりの始まり
三木義明の息子義照を逃した武者を斬りつけてしまう武時。構図、振付け、音楽まで何もかもカッコいい!
これも能?

◾︎死産
三木義明の息子義照と養子縁組をするも、予定外に妻浅茅が懐妊。三木親子、そして武者まで始末するも迎えたのは息子の死産。
「馬鹿者ー!」そして高笑い…

◾︎鳥の乱入
城内に無数の野鳥が押し寄せる。「不吉…」との言葉洩れる中、もはや自暴自棄の武時は「吉兆だ」と豪語!
全編を通し響く怪鳥の鳴き声が呪われた作品世界を形成

◾︎落ちない血
マクベスと言えばこれ。浅茅が「手についた血が落ちない」と洗い続ける場面!「このカットほど満足したカットはない」と黒澤監督に言わしめ、ヴィヴィアン・リーも心酔した女優山田五十鈴、伝説のシーン!

◾︎武時の最期
武時に放たれる無数の矢!ここホント仰天の迫力映像!こんな映像を作り出すなんて黒澤明は狂気の映像作家だ!
撮影前夜恐怖で眠れなかった三船は、撮影後酒に酔い怒り心頭で散弾銃を手に黒澤邸へ押し掛けたそうです
『スカーフェイス』のラストにも引けを取らない圧巻壮絶な最期!

いやあ、改めて黒澤は凄いなあ…。これ1957年の作品ですよ!ホント信じられない。やっぱり黒澤明は神ですよ!どんなに撮影技術が進化しようとも、人類は黒澤を超える事が出来ないんですよ。

20代前半にボクが初めて観た黒澤作品は『生きる』。この作品がきっかけで黒澤作品を追いかける事になりましたが、その時の衝撃再びです。こうなると以前響かなかった黒澤作品を再鑑賞したくなるものですよね。とりあえず次は『羅生門』かなぁ。