世界にこだまする叫び

1979年 監督/ マーク・ライデル

第一回主演作品となったこの『ローズ』で、ベット・ミドラーは全米映画批評家協会賞とゴールデングローブ賞で主演女優賞を獲得。またグラミー賞では、同作主題歌にて最優秀女性ボーカル・パフォーマンス賞を受賞しています。初主演作で、女優としての才能を開花させたミドラーの演技には、きっと誰もが脱帽する事間違いなし!

多忙な毎日から逃れたい女性シンガーのローズ。それを良しとしないマネージャーのラッジ。そして狂った生活からローズを救い出そうとする恋人ヒューストン。それぞれの思いが交錯し、ついては離れ、離れてはついてを繰り返す物語。劇的展開が用意されない脚本でありながらも、その様は現代社会人の日常にも通じるものがあり、観るものの心に揺さぶりをかけます。

スター歌手を、等身大の女性として描いたのはマーク・ライデル監督。仕事仲間や恋人、そして親子のリアルな距離感と共に、ストレスを抱えた脆い女性を繊細に描いています。そこに共感が生まれ、多くの支持者を増やして来ています。

女優であり歌手であるベット・ミドラーの魅力で一気に駆け抜ける作品であり、ローズの人生に寄り添える至福の135分です!



【この映画の好きなとこ】

◾︎ローズ (ベット・ミドラー)
破天荒ながら脆く繊細。ジャニス・ジョプリンをモデルにした魅力的なキャラクターだが、演じるミドラー自身が最高に魅力的。
きっと誰もが好きになる

◾︎When a Man Loves a Woman
多くのミュージシャンに歌われたパーシー・スレッジ1966年のデビュー曲。ミドラーが歌うこのバージョンが一番好き!

フルでYouTubeアップが出来ない為、音源とイメージ動画でご覧ください!


◾︎ヒューストンとの出会い
大御所歌手ビリー・レイに恥をかかされたローズが、停車していた車に乗り込み強引に出発させる。奪った車がビリー・レイ専用車である所がローズらしい。
いいから出してよ!!
泣き崩れるローズに「わかったよ、これはあんたの専用車だ」。デキるイケメン運転手ヒューストン

◾︎古巣でのライブ
デビュー前に出演していたパブを訪れたローズ。期せずして行われていたローズのモノマネショーに参加し、仕事を忘れ心から歌を楽しむローズが印象的。
そっくりさんの"ご本人と一緒"はもしかしてここから?

◾︎両親との確執
凱旋ライブの為、フロリダに帰省したローズ。実家の両親を見かけ、車中で隠れてしまう様が絶縁関係を匂わす。真相を描かれない事により"聞いてはいけない大人の事情感"を醸し出し、リアルな家族関係を想像させる。
凄く伝わる気まずい空気

◾︎フロリダの日用雑貨店
昔通った雑貨店を訪れるも、店主はローズに気づかないばかりか、地元でライブが行われる事すら知らないという現実。
苛立つローズ。こういう演出なかなかない

◾︎去りゆくヒューストン
幾度となく衝突を繰り返して来た恋人ヒューストンとの別れ。もうやり直しがきかない事を思わせる辛辣なシーン。
2人の人生より唄を選んでしまうローズ
もはやかける言葉もないヒューストン
みんなどこいくのよ!
瞥をくれるヒューストン。響くトラックのエンジン音が妙に生々しい

◾︎電話ボックス
猛烈な孤独感から逃れる為、ドラッグに手を出してしまうローズ。朦朧とする意識のなか、電話をかけた相手は両親。疎外感と愛情が交錯する名シーン。
孤独感を増幅させるひとりぼっちの電話ボックス

◾︎ラッジのキス
コンサート会場に来てくれたローズに、アーティストへの尊敬を込めたキスをするラッジと、お返しをするローズ。お互いを認め合い、わだかまりが溶けた瞬間。
さあ!コンサートが始まるぞ!

◾︎コンサート会場
圧巻のクライマックスは、実際に集めた数千人の観客の熱気を伴い最高潮を迎える。実家に帰ったかのようなローズの笑顔が印象的。
この群衆の熱気はCGでは作れない
涙で落ちたマスカラ。パンダ目のローズが悲しくも可愛らしい。ローズの居場所は、やはりステージなのだ

◾︎Stay With Me
本作の主題、そしてローズの思いの全てが込められた曲。この歌はローズの魂の叫び。"演技でここまで出来るのか?"と思わせるほど鬼気迫るミドラーのステージアクト。そこにいるのは紛れもない"ローズ"! ※こちらもフルでアップが出来ない為、本編映像を交えたオリジナル編集バージョンですが絶対観て聴いてください!

魂の叫びに涙が止まらない!ミドラーは凄い!

◾︎The Rose
エンディングテーマの"The Rose"は、ローズの鎮魂歌であり人生の賛美歌。本編から直結する素晴らしい締め括り!

多数のアーティストにカバーされるほど、世界中で愛された名曲です!大好き!

ローズの気持ちが痛いほど伝わる作品です。愛情を求めながらも、アーティストとしての日常に忙殺され、そのストレスから出会う者すべてと衝突を繰り返すローズの精神状態は、ギリギリの所にある事がわかります。ローズの痛みがダイレクトに伝わり相当泣かされますが、疾走感しか残さないライデル監督の手腕は見事というほかありません。

ミュージシャンを主人公にした映画は数あれど、ボクのベストは本作です。ほとんどの作品で描かれる栄光と挫折も、本作ほど繊細には描かれていません。歴史を駆け足でなぞったような印象しか残らない作品が多く、主人公に心から寄り添えるような作品を本作以外に知りません。

本作を観終えた時、きっとあなたの人生に"ローズという友人"が増えているはずですよ。


※2019年3月8日の投稿記事をリライトしました