ベストセラー小説の原作をあえて読まないという選択。
読まないという幸せ。
1990年 監督/ ブライアン・デ・パルマ
この作品にまつわるネガティブなエピソードは山ほどあるけれど、とりわけ数字が示した事実は3,200万ドル。この額は興行収入ではなく製作費4,700万ドルに対しての損失額です。つまり興行収入はわずか1,500万ドルにとどまった大赤字作品ということです!
このブライアン・デ・パルマ監督作品『虚栄のかがり火』はデ・パルマ史のみならず、アメリカ映画史においても大爆死事件として不名誉ながら名を轟かせた作品なのです。
トム・ウルフの世界的ベストセラー小説『虚栄の篝火』を原作にしながら、何故ここまで失敗したのか。いや、何故ここまで失敗出来たのか。
作品の裏側にはまったく興味が無く、普段から詮索をしないボクですが、さすがに興味が湧いて調べてみたら、デ・パルマの意見を無視したキャスティング、勝手な脚本の改訂、そしてデ・パルマから編集権さえ取り上げたワーナー・ブラザースの謀略であったことがわかりました。
『虚栄のかがり火』を巡るデ・パルマとワーナー・ブラザースの泥沼の戦いは、本編以上に激しい火花を散らしていたようです。
※この製作裏話をまとめたドキュメンタリー著書『The Devil's Candy』が出版された(日本未発売)
本作にブーイングを送った原作ファン、そして鑑賞をボイコットした原作ファンの気持ちもわかります。主演を務めたトム・ハンクスとメラニー・グリフィスは、原作が描く登場人物とはまるで正反対のキャラクターだし、ブルース・ウィリスは役柄を無視した、ただのブルース・ウィリスでした。
"誰もが欲にまみれ、誰もが救いようのない"。そんな辛辣な世界観が支持された物語に、スタジオは好感度の高い人気俳優をキャスティングし、脚本を書き直させ、主要人物を中途半端な善人に改訂し、中途半端にハッピーエンドをでっち上げたのです。
もはやトム・ウルフの描いた『虚栄の篝火』の世界は、この時点で別物に変えられてしまっていたのです。
なぜデ・パルマに任せなかった!!
しかし、幸いなことに原作を読んでいないボクはこの映画を偏見無く楽しむことが出来るのです。正直に言えばトム・ウルフの原作小説にはたいへん興味をそそられました。しかし、デ・パルマに添い遂げたいボクは敢えてこの傑作小説を読まずに、この歴史的爆死映画を愛していこうと思うのです。
【この映画の好きなとこ】
◾️ベイコン牧師 (ジョン・ハンコック)
私利私欲にまみれた牧師。エキセントリックな性格がいかにもデ・パルマワールドの住人らしい。バックコーラス隊が常に付いているのも胡散臭く最高。
この人で一本撮りませんか監督!
◾️フォックス弁護士 (クリフトン・ジェームズ)
ベイコン牧師と共謀し病院への訴訟を企てる。演じるジェームズは007シリーズの2作品でコメディリリーフを務めた。『アンタッチャブル』にも出演した彼はデ・パルマのお気に入り?
『死ぬのは奴らだ』『黄金銃を持つ男』の保安官ね
◾️ワイス検事 (F・マーリー・エイブラハム)
ニューヨーク市長の座を狙う地方検事。白人ミリオネアのシャーマン・マッコイをマスコミに放り投げ、多くのアフリカ系市民の投票を獲得しようと目論む。
『スカーフェイス』『アマデウス』でお馴染み!
◾️オープニング 光のリレー
富と権力渦巻くマンハッタン。超高層ビルやタワーマンションの灯りが流星群となりタイトルを形成。摩天楼の光がリムジンのヘッドライトになり、カメラフラッシュが雷の閃光となり主人公宅を照らす!凄い!
摩天楼の光が流星群となり…
じゃじゃーん タイトル登場!
リムジンに乗るのは時の人ピーター・ファロー
当時最高と言われた5分間の長回し!
フラッシュの閃光が…
雷となり摩天楼に暮らす主人公宅を映し出す!
◾️スプリットスクリーン
ベイコン牧師のTV演説中継を見るワイス検事にリレーされる交替劇。誹謗中傷されたワイス検事をシニカルに描いた。デ・パルマ得意の手法だが変化球で楽しませてくれた。
オシャレしてTVカメラ前に立つベイコン
テレビで悪口言われるワイス検事 かわいそう
◾️大階段にて
マッコイが雨傘を持った大勢の記者に囲まれる様はヒッチコック監督作品『海外特派員』のオマージュ。手錠をかけられたマッコイが罵声を浴びながら裁判所に向かう様を主観撮影で行い、パニック心理を見事に演出した。
『海外特派員』大好きです
容赦ないヤジの嵐
かわいそうなシャーマン
◾️ブロンクス最高裁判所
録音テープがもたらした逆転劇は『ミッドナイトクロス』の悲劇を乗り越えた着地点か。大騒動の法廷は『アンタッチャブル』を彷彿とさせ、デ・パルマファンには感慨深い。
不適な笑みの裏側にはどんな秘策が!?
法廷で大騒ぎは名画の条件!
モーガン・フリーマンかこいいぜ
歴史的失敗作としての烙印を押された『虚栄のかがり火』ですが、その製作裏話からデ・パルマの情熱を知ることで、結果的にボクの『虚栄のかがり火』への愛情はより強固なものになりました。
本作の失敗によりハリウッドで干されたなどという不名誉な噂もありました。
しかし、デ・パルマは何度でも戻ってくる。
そして何度でも成功する。
事実、ボクも『虚栄のかがり火』を過小評価してきましたが、この度の再鑑賞により多くの魅力に気づくことが出来たのです。
デ・パルマは本作を「自身の作品ではない」と言うかもしれませんが、『虚栄のかがり火』にはデ・パルマの確かな足跡が残されています。魅力的なキャラクターとデ・パルマにしか撮れない映像がフィルムに焼き付けられています。だからボクは本作がどれだけ酷評されようとも、これからも繰り返し『虚栄のかがり火』を観続けます。デ・パルマファンとしてこの作品のいいところなんていくらでも見つけてやりますよ!
ブライアン・デ・パルマについて
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