この6月19日に企業のメンタルヘルス対策の充実や強化を目的として、従業員50人以上の全ての事業場にストレスチェックの実施を義務付ける「労働安全衛生法の一部を改正する法案(通称:ストレスチェック義務化法案)」が国会で可決・成立しました。


改正案でのメンタルヘルス対策強化の大きなポイントは次の2点です。


◆年1回の労働者のストレスチェックを、従業員50人以上の事業場に対して義務付ける。


◆ストレスチェックの結果を労働者に通知し、労働者が希望した場合、医師による面接指導を実施し、結果を保存する。


一般健康診断と異なり、プライバシー保護の観点より、検査結果は医師または保健師から労働者に直接通知され、労働者の同意を得ずに検査結果を事業者に提供することはできません。(一般健康診断では、健康診断結果は事業者に通知されます)

【「労働安全衛生法の一部を改正する法律案要綱」の労働政策審議会に対する諮問及び同審議会からの答申について】

1.医師又は保健師等による労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査を行うことを事業者に義務づけます。


2.検査の結果は、検査を行った医師又は保健師から労働者に直接通知されます。医師又は保健師は労働者の同意を得ずに検査結果を事業者に提供することはできません。


3.検査結果を通知された労働者が面接指導を申し出たときは、事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません。なお、面接指導の申出をしたことを理由に労働者に不利益な取扱をすることはできません。


4.事業者は、面接指導の結果、医師の意見を聴き、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮など、適切な就業上の措置をしなければなりません。


法案が定める対策を円滑に実施するためには、ストレスチェック及びフィードバックの仕組みの構築、専門スタッフの確保・育成、組織改善への活用、チェック後のフォローアップ体制、セキュリティ確保など、課題が山積しています。

現状で想定されている課題の一例を解説します。


1.ストレスチェックと健康診断は、合わせて実施して良いのか?


必ずしも健康診断と同時に行う必要がありません。また、データ取扱い方法も異なりますので、セキュリティへの配慮と利便性を確保した実施体制を構築する必要があります。


2.労働者は、自ら面談に手を挙げるのか?


メンタルヘルスの問題は機微なテーマであり、人事・事業者への面接希望を躊躇する従業員が多いことが予想されます。


3.面談する医師の確保は、どうすればよいか?


従業員から面談の要望があった場合、対応できる産業医・医師のリソースの問題が考えられます。


4.本社以外の事業所をどのようにケアするか?


産業医・保健師等の産業保健スタッフが在籍している本社は対応できても、本社以外の事業所、特に従業員50名未満の小規模営業所などの体制づくりが課題です。


5.チェックを受ける人、受けない人がばらついてしまうのではないか?


ストレスチェックは事業者には実施義務がありますが、従業員への受診義務は課されません。従業員の回答率を高めるためにストレスチェックの実施を促進する周知活動や、教育啓発機会を設けることが望まれます。


法律では対象は50人以上の企業ですが、国は、50人未満の企業にも「努力目標」という表現で、ストレスチェックを行うことを推奨しています。

これから企業や団体などが、どのようなかたちで動き出すのでしょうか。すでに対策を実施しているところではあまり変化はないと思いますが、今回の改正によってメンタルヘルス問題が、世の中の土俵にのぼっていくのは間違いないでしょうね。