以前、長崎県の島原半島にある食品会社の社長から、硝酸性窒素による地下水汚染のことで相談があり、長崎へ飛んで行きました。


島原半島は河川がなく、ほぼ100%地下水を飲用水として利用していました。その食品会社はソーメンなどを作っている会社で、自社内に井戸を掘り、地下水を汲み上げていたのですが、そこから硝酸性窒素が基準値をかなり超過して検出されたらしいのです。この原因は、上流の畜産農家から排出される窒素肥料や家畜の糞尿だろうということで、現地でいろいろ調査を行ってきました。


長崎県や地元の自治体は、島原半島の産業新興の一貫として、10数年前から補助金を出して、兵庫や鹿児島、宮崎から畜産業を営む企業を誘致してきたとのこと。半島の中心部にはかなりの数の牛、豚、鶏がいましたね。半日かけて、その状況を見て回ったのですが、家畜の排水処理施設はあるにはあっても、家畜の増加に伴う設備投資が不充分で、未処理のまま地下浸透しているケースが多く見られましたね。


地元の行政担当者の話では、「硝酸性窒素による地下水汚染は承知している。基準値のオーバーしている場合には、地上で処理して使うよう指導している。また、公共水道もほとんど地下水なので、新たに深井戸を掘って、現状超過している水と混ぜ合わせ希釈して使っている」とのことでした。


水を大量に使う食品会社としては、汚染によって問屋や小売店との取引りが停止になることもあり、死活問題であるとして、地元行政に対して何らかの対策を求めていったのですが、行政としても畜産農家を誘致した手前、なかなか的確な指導に至らず、その後も膠着した状態が続きましたね。


この島原半島での地下水汚染問題は、氷山の一角で、環境省が行った硝酸性窒素による地下水調査では、2001年時点で、全体の5%の井戸から、基準超過の地下水が検出されたとか。


トリクロロエチレンなどの化学物質による汚染であれば、その原因や企業の責任の所在が明らかですが、硝酸性窒素の場合、原因の多くが農家や家庭などに及び、責任の所在も不明確になりますから、『ノンポイント汚染』として対策を立てるのもたいへん難しいのですね。


対策技術は、島原でも実施されましたが、地下水を汲み上げて地上でイオン交換樹脂や、逆浸透膜などを使って硝酸性窒素を除去する方法がありますが、何しろ、コストが高くつきます。


わが社では、現在、トリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物(VOC)を地中に生息する微生物を活性化させ分解する技術により浄化を実施し、今までかなりの実績を上げてきましたが、この物質による地下水汚染も、嫌気的な環境で窒素をエネルギー源としている脱窒菌という地中のバクテリアを利用して浄化する工法を活用しようと研鑽を進めているのです。


環境ビジネスで最も難しい課題のひとつに、「責任の所在が誰で、お金をいったい誰が出すのか」という提議があります。硝酸性窒素による地下水汚染は、まさにその代表選手ですね。費用を負担するのは、国なのか、地方自治体なのか、農家なのか、個人なのか。

この問題は、現在、日本だけでなく、開発途上国でもかなり深刻化しており、汚染対策が急務となっているのです。


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