読んだ本
反原子力の自然哲学
ポイエーシス叢書
佐々木力
未來社
2016.06

 

ひとこと感想

正直に言うと、あまり良い本とは言えない。科学史家というものを誤解していた。佐々木力を神聖視していた。本書は「半原子力の政治哲学」としてなら、とてもよく理解できるが、「自然哲学」もしくは「科学史」ではない。率直に言って、心情的な反原発論にすぎない。尊敬している著者であるがゆえに、とても残念である。

 

著者は1947年宮城県生まれ。東北大学理学部および同大学院で数学者になるための修練を積んだあと、プリンストン大学大学院でトーマス・S・クーンらに科学史・科学哲学を学び、Ph.D.(歴史学)取得。1980年から東京大学教養学部講師、助教授を経て、1991年から2010年まで教授。定年退職後、2012年から北京の中国科学院大学人文学院教授。中部大学中部高等学術研究所客員教授。東アジアを代表する科学史家・科学哲学者。著書に、『科学革命の歴史構造』ほか、日本獨秀研究会会長、環境社会主義研究会会長。

 

内容については次のように書かれている。

 

「近代科学思想が誕生した17世紀ヨーロッパ科学史を専門とする著者が、恩師トーマス・S・クーンの「歴史的科学哲学」を発展深化させ、新規に「文化相関的科学哲学」の学問的プログラムを構想。2011年春のフクシマ原子力発電所事故の悲劇を受け、荘子と司馬遷を先蹤として、近代西洋の機械論的自然観に代わる自然哲学構築に挑戦しようとする。原子論自然哲学をとらえ直す一方で、原子核科学についての厳密な科学的検討を経て、危険きわまりない原子力神話の虚妄を撃つ!」

 

気持ちはわかるが、それでは「原子力神話」の虚妄は撃てないのではないか。

 

目次      
序論 「ヨーロッパ諸学の危機」認識からの出発
第1章 文化相関的科学哲学のイデーン
第2章 ベイコン主義自然哲学の黄昏
第3章 近代ヨーロッパ機械論自然哲学への懐疑―数学的自然学と原子論哲学
第4章 東アジア伝統自然哲学の可能性―エコロジカルな自然観と伝統中国医学
第5章 東アジアにおける環境社会主義―ブータン的文明と
現代日本資本主義の破局的未来
結論 東アジア科学技術文明の在り方の大転換を!