読んだ本

日本は世界一の「医療被曝」大国
集英社新書
近藤誠
2015.06
 

近藤は1948年生まれ。73年慶應義塾大学医学部卒、同大学医学部放射線科入局。83年に
講師となり、2014年同大医学部を定年退職。現在、近藤誠がん研究所・セカンドオピ
ニオン外来を運営。医師。著書「患者よ、がんと闘うな」など。


原発事故の被曝を恐れるのであれば、医療被曝ももっと恐れたほうがよい、それが、著者の主張である。

 

著者の主張の真偽はさておき、少なくとも重要な論点の一つ、「医療被曝」と「原発事故被曝」は「被曝」として同じである、ということは、疑いようのない事実である。このことには私も同意できる。

 

しかし「同じ」という意味は、あくまでも純粋に「線量」とその「影響」の次元での話である。

医療被曝は自ら進んで(リスクを理解したうえで)選択したものである一方で、原発事故被曝は自らが望んでいないものである、ということも、少なくとも、疑いようのない事実といえる。

 

さらに、原発事故被曝が、かなり厳密に被曝許容量というものを定めているのに対して、医療被曝には制限がつけられていない、ということも、疑いようがない。

 

そのため、医者たちのなかには、被曝による健康被害に対して「軽視ないし無視する風潮がある」(194ページ)ことも確かであろう。

 

また、もう一点、現状行われている放射線を使った検査や治療がすべて、良いわけでも悪いわけでもない。

 

「行われている医療検査のすべてが必要なわけでも、利益があるわけでもない」(15ページ)

 

要するに「総論」的には、間違ったことは言っていないのだが、主張自体は、そうした事実の積み重ね以上のものへと、知らぬ間にジャンプアップしている。

 

たとえば、CT検査の被曝線量が高いことは間違いないし、たった一度検査を行っただけでも発癌して死亡するリスクがあることも事実だとしても、それがそのまま「CT検査」は「危険」「不要」とはならないはずであるが、著者は最終的には「がん治療」自体を否定するような主張を行っている。

 

さらにはこの問題を単に「医療被曝」の範疇に収めるのではなく、原発事故被害に対しても延長させている点も、大きな問題を生み出す。

 

「福島県は、確かに放射線量が全国一高くなってしまいましたが、病院でCT検査を一回でも受けた人は、福島県の人たちが置かれている状況と大差ないというより、その何倍も被曝していることになるのではないでしょうか。福島の放射線量を怖がるならば、CT検査もきちんと怖がるべきです。」(191ページ)

 

ロジックがねじれている。

 

現在、避難指示のある地域の年間線量よりも医療被曝の方が大きい、ということから、たとえば浪江町の避難指示解除準備区域の人たちの半数は、医療被曝よりも圧倒的に低い数値であっても帰還したくないという気持ちでいると揶揄している。

 

「原発被曝を恐れている人たちは、医療被曝も恐れるべきだ」というメッセージの裏側には、「3.11」以後の原発被曝は、医療被曝と比べれば、それほどたいしたことはない、というメタメッセージが発せられているようにも読める。

 

それとも端的に、原発被曝を恐れている人たちに、医療被曝を恐れてほしいということが、著者の願望なのだろうか。

 

おそらくは著者はこのことしか念頭にはない。しかし、メタメッセージは、著者の考えとは別に影響を与えることもある。
 

目次      
第1章 世界一の医療被曝大国、日本

第2章 低線量被曝の危険性

第3章 大人より深刻な子どもの被曝

第4章 放射線検査の種類

第5章 自分の被曝線量を知るには
第6章 無用な被曝を避けるために

第7章 日本で医療被曝が横行する理由

第8章 医療被曝の今後

 

放射線検査による発がんリスクは世界一!たった1回のCT検査でも発がん率は上がる! これまで「がん治療」に警告を発してきた著者が、専門である放射線科の知識を駆使し、医療被曝の闇を暴く!

 

日本は放射線を利用した検査数が世界一。たった1回の腹部CT検査で、原発作業員の年間被曝線量の限度値を超えることも。レントゲンやCTなど、有害な被曝を避けるための知識と自衛手段を伝授する。