読んだ本
流動化する民主主義 先進8カ国におけるソーシャル・キャピタル
ロバート・D.パットナム 編著
猪口孝 訳
ミネルヴァ書房
2013.07
Democracies in Flux: the Evolution of Social Capital in Contemporary Society
Robert David Putnam
Oxford University Press
2002
ひとこと感想
さまざまな人々が自発的に集まり何らかの目的をもって活動を続けてゆくことが、民主主義の成熟、すなわち他者の多様性を認め合い、複数主義を打ち出した地域社会の創出のみなもとである、というのがパットナムの見解であり、本書はそれを実際の8ヵ国に落とし込んで実証しようとしている。当然次のステップとして「文化」と「政治」が射程に入ってくる。
パットナムは1941年生まれ。ハーバード大学公共政策教授。市民的関与のサグアロ・セミナーの創設者。
猪口は1944年生まれ。東京大学名誉教授。上智大学、東京大学、中央大学で教鞭を執る。そのほかにも世界中の多くの大学で客員教授を務め、95-97年国連大学本部で上級副学長として勤務する傍ら、国連事務次長補を務める。2009年より新潟県立大学学長。
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本書は「過去50年間に市民社会の性格はどのように変貌したのか、また、その理由は何か」(1ページ)をテーマに「先進民主主義8ヶ国」すなわち、オーストラリア、フランス、ドイツ、英国、日本、スペイン、スウェーデン、米国の場合について、統計的データに基づいて現状と分析が述べられている。当然、キーワードはソーシャル・キャピタルすなわち社会関係資本である。
序章でパットナムは「社会関係資本」概念の変遷をたどっている。
1950年代 ジョン・シーリー(カナダ)
1960年代 ジェーン・ジェイコブズ(米)
1970年代 グレン・C・ルアリー
1980年代 ピエール・ブルデュー(フランス)
1984年 エッケハルト・シェーリヒト(ドイツ)
1980年代 ジェームズ・S・コールマン
論文の数は1970年代に急増、社会学、政治学は言うに及ばず、経済学、公衆衛生学、都市計画学、犯罪学、建築学、社会心理学など広範囲で用いられている。
さて、なぜこの概念が重要なのか。
「地域社会の問題の市民の積極的な参画が民主主義自体にとって不可欠」(4ページ)と考えられているからである。
社会関係資本は、個人化レベルでは就職や人生における豊かさの鍵であることは言うまでもない。だが、そればかりでなく、社会(地域)の「公共財」としても機能するのである
もちろんこうした「公共財」は必ずしもポジティブな価値だけをもつわけではない。以下、4つの分類基準が提起されている。
・公式/非公式
・太い/細い
・内向的/外向的
・橋渡し型/接合型
つまり、量的な評価のみならず質的な評価も必要である。何よりも社会学の基本的な歴史認識には、近代化、工業化(産業化)、都市化が地域社会の「絆」を衰退させた、とみなしている。
例えば日本においては、1)過去50年間、民主主義体制が続いたが、これは社会関係資本の増加をもたらしてきた、2)数世紀前と比べるとそれは「集団主義」から「個人主義」的になってきた、といえる。
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社会関係資本とは何か、もう一度、整理をしておこう。
「様々な社会的ネットワークと、それらに関わる相互依存の規模」(1ページ)
「社会的な単位を構成する個々人や家族間の善意、仲間意識、同情、社会的交わり」(2ページ)
これは要するに、日本の民俗学ではしばしば言及されてきた「寄合」や「講」などと連なっているということである。
ハンファンによれば「ある特定の地域社会の住民たちが互いに懇意になり娯楽、社会的な交流、個人的な楽しみのために時折寄り集まる習慣」(2ページ)であるからだ。
ちなみに本書におけるブルデューの説明としては「多かれ少なかれ制度化された相互交流や面識の関係の持続的なネットワークの所有――言い換えれば、ある集団のメンバーであること――に結びついた、現実のあるいは潜在的な資源の総体」(3ページ)とある。
これは以下が出典となっている。
Bourdieu, P. (1983) “Ökonomisches Kapital, kulturelles Kapital, soziales Kapital,” in Soziale Ungleichheiten (Soziale Welt, Sonderheft 2), edited by Reinhard Kreckel. Goettingen: Otto Schartz & Co.. 1983. pp. 183-98.
Bourdieu, P. (1986) The forms of capital, tr. by Richard Nice, In J. Richardson (Ed.) , Handbook of Theory and Research for the Sociology of Education (New York, Greenwood), 241-258.
これまでの説明は、ある程度の普遍性があるとみられるのだが、問題はその内実と量的比較の可能性である。
第一に内実はきわめて多様で、それぞれの地域社会に独自の形態がありうる。そして第二に、量化というのは結局は資本という概念を使う以上既存の経済の領域に少なくとも一石を投ずるつもりがあるわけだし、そういった期待があるからこそ、この概念は世界的に起爆剤として作動しているように思われる。
英国――研究者はどういった「内実」「に焦点をあてているのか、ボランティア組織、教育や階級の影響、政府の影響、TVの影響
USA――結社(所属組織)、サークル、倶楽部、組合、愛好会、ボランティア、宗教団体
フランス――教会から結社へ
ドイツ――社会関係資本
スペイン――シビル
(以下省略)
*1点気になるのは、他者への「信頼」に関する注目が高いことである。これは「社会関係資本」がどれだけ「有効」に作動しているのかを明示しなければならないという「都合」によるのではないかと思う。つまり、この概念の正当性に関する議論ではないだろうか。この部分はなかなか関心を持ちにくかった。
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目次
序章 社会関係資本とは何か ロバート・D.パットナム、クリスティン・A.ゴス
第1章 イギリス―政府の役割と社会関係資本の分配 ピーター・A.ホール
第2章 アメリカ合衆国―特権を持つ者と周辺化される者の橋渡し? ロバート・ウスナウ
第3章 アメリカ合衆国―会員組織から提唱集団へ シーダ・スコッチポル
第4章 フランス―新旧の市民的・社会的結束 ジャン=ピエール・ウォルム
第5章 ドイツ―社会関係資本の衰退? クラウス・オッフェ、ズザンネ・フュックス
第6章 スペイン―内戦から市民社会へ ヴィクトル・ペレス=ディアス
第7章 スウェーデン―社会民主主義国家における社会関係資本 ボー・ロートシュタイン
第8章 オーストラリア―幸運な国をつくる イヴァ・コックス
第9章 日本―社会関係資本の基盤拡充 猪口孝
終章 拡大する不平等 ロバート・D.パットナム
過去50年間に市民社会の性格はどのように変化したのか、またその要因は何か。本書では、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、オーストラリア、日本という八カ国を取り上げ、現代の脱工業化社会において社会関係資本がどう変化しつつあるのかを論じる。第二次世界大戦終結後から20世紀末までの期間にわたる、初の定量的・定性的な検証の成果。
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