読んだ本
稼ぐまちが地方を変える 誰も言わなかった10の鉄則
木下斉
NHK出版新書
2015.05
 

ひとこと感想
経営の視点からまち(商店街)の活性化を議論している。とりわけ「不動産(業)」を重視しているところが木下の特徴である。ここに、歴史や文化に対する見識が加わればどうなるのか、興味がある。

 

1982年東京都生まれ。一橋大学大学院修了。全国各地で自ら投資して事業の立ち上げ・運営に携わる一方、現場で得た知見を体系化し発信している。まちビジネス投資家/事業家。エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、公民連携事業機構理事。単著に「まちづくりの「経営力」」。

 

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「まちづくり」とはいったい何か。

 

商店街の活性化が、まず、経済的な意味で、思い浮かぶ。しかし一方でそうした商店街を持たない地域も無数にある。

また、商店街自体にしても、国内いたるところにある、滅びつつある商店街の再生だけが、まちづくり、もしくは、まちおこし、とみなしていってよいのか、悩ましいところである。

 

たとえばもう少し規模の大きい「百貨店」については、明治以降の興隆を経て、やはり今大きな曲がり角に来ている(初田亨の研究に詳しい)。

 

端的に言えば、「百貨店」とはエピステーメーと同様、その枠組み自体が、ある時代を担ってきたものであり、自ずと今後は風化する。

 

「商店街」というものも、そういう意味では同様ではないだろうか。

大ざっぱな見立てとしては、これまで、江戸時代に整備された街道沿いや寺社への沿道など、「商店街」は現代というよりも一つ前のインフラをもとに広がっていたものである。

 

つまりは、多くの人が歩いて通る場所が、商店街という形式を支えていた。

 

戦後から20世紀後半にかけてかろうじて商店街が生き残れたのは、鉄道の最寄りの駅がハブとなり、そこから住居までの道筋が、これまでの街道と合わせて商店街の「ネットワーク」を広げたからである。

 

最初の転機は「コンビニ」であろう。商店街が個々で担ってきた役割をオールインワン化したため、コンビニのみが生き残り、他の店の大半は消えていった。

 

続いて、ネット通販が、リアルな街道やネットワークに依存しなくても、場合によってはその日のうちに居宅まで荷物を届けくれる仕組みは、物理的な制約が大きい商店街と比べて、利便性で勝った。

 

そんなさなかで、本書の著者である木下は、各地の商店街をネットワーク化し、ある種の成功事例、成功体験を手に入れる。

 

本書を読んだかぎりでは、以下の点に特徴がある。

 

・大学生で起業

・インターネットの活用

・経営学と実践とを融合

・不動産に着目

・ごみ問題に取り組む

 

「繰り返しますが、まず不動産オーナーが本気にならなければ、地域はどうにもなりません。」(77ページ)

 

実際、何よりもおそろしいと思ったのは、某地方都市の駅前商店街が廃れたのち、駅ビルに入っているのは消費者金融ばかりという実態だ。

 

この人たちは、駅前で金を借りて、もう少し大きな中核都市と呼ばれるとこの歓楽街まで出かけて金を使う。

 

そこまで行かなくても、よく目にするのは、パチンコ屋であったが、近年ではこれに加えて、デイケアサービスやマッサージ、整形外科といった高齢者や医療福祉関連の店舗が「商店街」を構成しはじめたことだ。

 

パチンコ屋が並んでいるのよりはまし、とも言えるが、これはすでに「商店街」ではない。

 

なんと呼べばよいのだろうか。

 

あともう一つ、これは「商店街」というよりは、まさしく木下のいうところの不動産オーナーによる挑戦という意味では、リノベーションによる小さなオフィス、アトリエ、デザイン事務所など、これはいわゆる「デザイナー」系の人たちが手掛ける「まちおこし」がある。

 

これも個々には、素晴らしい試みも多々あるのだが、「まち」という全体性、少なくとも、「ストリート」「街」という流れ、または、線、を考えた場合には、もう一歩、広がりというのか、深みというのか、つながり、というのか、そうした「装置」の開発が切実に求められているように思う。

 

他方でパットナムの「社会関係資本」論や、宮本常一の旅物語に登場する「講」や「寄合」などにふれると、単純に「経営」という「お金」の流れを整理することだけで「まちおこし」は足りるのではなく、「人」と「人」とのつながりをしっかりと事業化(社会技術化)しなければならない、ということになるように思う。

 

今思えば、シャッターの上から描かれたストリートアートというものは、そこを通る人に対してメッセージを送ることのできるきわめて重要な試みではないのか。

 

そしてもちろん、それだけではまったく十分ではない。このあとに必要となってくるのは、いかにその土地固有の文化資本(バナキュラーなもの)を活用(文化技術化)するのか、という長期的な展望をもつことである。

 

この次元まで射程に入れられれば、ようやく本当の意味での「まちおこし」が可能になってくるように思われる。

 

 

目次      
序章 学生社長、ハゲる

第1章 まちから「利益」を生み出そう!
 アメリカで学んだ「自立型」まちづくり
 ふたたび“実践”の世界へ
 「まち会社」の顧客は誰か

第2章 まちづくりを成功させる「10の鉄則」
 1 小さく始めよ
 2 補助金を当てにするな
 3 「一蓮托生」のパートナーを見つけよう
 4 「全員の合意」は必要ない
 5 「先回り営業」で確実に回収
 6 「利益率」にとことんこだわれ
 7 「稼ぎ」を流出させるな
 8 「撤退ライン」は最初に決めておけ
 9 最初から専従者を雇うな
 10 「お金」のルールは厳格に

 

第3章 自立した「民」がまちを変える
 金食いインフラを「稼ぐインフラ」に
 行政と民間は緊張感ある連携を
 民間主導でまちを変えていく


人口減少社会でも、経営者視点でまちを見直せば地方は再生する!補助金頼りで利益を生まないスローガンだけの「地方創生」はもう終わった。小さくても確実に稼ぐ「まち会社」をつくり、民間から地域を変えよう!まちおこし業界の風雲児が、心構えから具体的な事業のつくり方、回し方まで、これからの時代を生き抜く「10の鉄則」として初公開。自らまちを変えようとする仲間に向け、想いと知恵のすべてを吐露します。