読んだ本
水をめぐる人と自然 日本と世界の現場から
有斐閣選書
嘉田由紀子 編
有斐閣
2003.05
 

ひとこと感想
世界的な「淡水」という資源は国内のみならず全世界において根本的なものであることはいうまでもない。本書では、水量・水質などの物質的側面、配分と管理のための政治経済・制度の問題、保全の実践につなげるための精神文化的問題という3つの視点から、その構造を考えるとともに、将来展望を探っている。環境社会学、生態学、政策、NPO、これらによる水の研究調査集。


嘉田は、1950年埼玉県生まれ。琵琶湖博物館の開館後、総括学芸員に。2000年より京都精
華大学教授、琵琶湖博物館研究顧問。水と文化研究会世話役、世界子ども水フォーラム実
行委員。そののち、滋賀県知事を2期務める。

***
 

大きなテーマのタイトルである。しかも日本のみならず世界の環境にまで手を染めている。もちろん「水」は世界、地球全体にかかわるものであるから、これは当然のことでもある。

 

しかし一体どういった切り口で「水」をとらえようとしているのか、それが最も重要になる。

 

「序章」では、もう少し端的に「水政策」と書かれている。森林や川、湖、こういった自然環境はいつのまにか土木工学に、そして、行政的に管理される対象となってきた。また他方では、水は工場をはじめ、さまざまな有害物質が流れる「公害」の期限の1つでもある。

 

「第1章」では「飲み水」が扱われている。水の循環からみると河川、湖、森林との関係が大事になってくる。また、技術としては「大規模」であることをやめることが解決の糸口とみなしている。今から見ると少しナイーブな意見である。

 

「第2章」は、河川の再生である。かつてのような治水、利水よりも近年では「人と川が触れ合うこと(5ページ)や環境への配慮が課題となっているが、はたして川の「再生」とはいったい何であろうか。もう一つはっきりと見えてこない。

 

「第3章」は矢作川のフィールドに基いて、川と人との関係の取り方を模索している。

 

「第4章」は琵琶湖、淀川の水環境の変遷を「公共性」をキーワードにとらえようとしている。これまでの政策は人を水から遠ざけることに主眼があったが、これを変えて「関係の再生」を目指すべきだとする。

 

「第5章」は霞ケ浦の水辺植物(アサザ)の再生を参照しつつ、湖、森、人のネットワークの重要性を追求する。

 

ここまで第1部は、国内であったが、第2部は「世界」に目を向ける。

 

「第6章」では地球水文学により、水資源の再考が行われている。特に「仮想水」「間接水」といいた概念はまさに「水」を世界(地球環境)全体の中でとらえたことによって得られるものである。

 

第7章では、水田稲作における水の消費量などから推計が行われている。「平均的日本人のコメ消費量は生活用水が1日300リットルであるとするとその7倍の水を間接的に消費していることになる」(8ページ)という。つまり1日に2,100リットルの水である。しかし6章では「1キログラムの白米を得るためには3,600リットルの水が必要」とある。この2つのデータは読者を混乱させる。対比もしくは一本化はできなかったのだろうか。

 

第8章では、石油が世界的には最も安全保障上大きな問題としてよく取り扱われるが、それ以上に水資源をめぐる紛争が起こっている。ここでの紛争が調整されたインダス川と紛争が継続しているガンジス川が事例となっている。

 

第9章では日本が戦前より進めてきた他国への水関連の技術援助の変遷を追いかけている。現在の課題は「汚水」の処理になるようだ。

 

第10章は中国を事例に森林の減少が水供給の減少につながることを指摘している。

 

 

 

 

 

目次      
日本の水、世界の水 (嘉田由紀子)
第1部 今、日本の水は
1 水循環から見た飲み水の安全性 (山田国廣)
2 河川環境をどう捉えるか (島谷幸宏)

3 流域の総合管理と住民組織 新しい矢作川方式へ (古川彰)
4 琵琶湖・淀川流域の水政策の100年と21世紀の課題 新たな「公共性」の創出をめぐって   (嘉田由紀子)

5 アサザプロジェクトの挑戦 湖が社会を変える  (飯島博)
 

第2部 今、世界の水は

6 地球をめぐる水と水をめぐる人々  (沖大幹)
7 農業の水、地域の水  (渡邊商裕)
8 世界の水紛争 (中山幹康)
9 日本の政府開発援助と世界の水問題 (村上雅博)

10 水の悩みも大国 中国 (高見邦男)