読んだ本
入会林野とコモンズ 持続可能な共有の森
室田武、三俣学
日本評論社
2004.01

 

ひとこと感想

強いて言えば、都市=貨幣や資本に基づいた市場エコノミー、地域=コモンズをはじめとした社会関係に基づいた非市場エコノミー、といった概念設定ができそうである、と読んで思った。それにしても室田武さんは相変わらず面白い。
 

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入会林野は、地域住民が共有している林野のことで、近世日本に起源がある。また、入会権を含めて言えば、今もなお各地に存在している。

コモンズは、同じように地域住民が土地を共同で利用する制度や空間のことで、入会林野よりももっと古く中世英国(イングランド、ウェールズ)(かそれ以前)に起源がある。こちらもまた、今なお、各地の存在している。

 

本書ではこれらを明確に分けたうえで、両者の共通点を「共」とみなしている。つまり、私有地でも効用地でもない領域を明らかにしようとしているのである。

 

内容としては日本の森林の育成の現場にいる人たちの声を聞きつつ、現地での実態を把握しようとしている。英国については文献考証を中心としている。米国ではコモンズ関連の研究が盛んで発展途上国における類似制度の情報収集が行われているようだ。なお本書では、グローバルコモンズについては、とりあげていない。

 

英国において、マルクス主義の土地の固有化に反対して共有化すなわちコモンズに高い価値を置いた哲学者がJ・S・ミルであったことは特筆される(これは下記、四野宮三郎の研究による)。

 

 

 

一方米国のコモンズ論は、良く知られているように、1968年にギャレット・ハーディンが「コモンズの悲劇」という論文を出したことが出発点となっている。その後コモンズ論は、共有資源の国有化、私有化をめぐる議論が展開されるが、少しするとこうしたとらえ方が批判され、1980年代にはオストロームやマッキーンなどがコモンズを共的管理制度に焦点としてとらえてゆく。同時に世界各地のコモンズの事例の発掘や整理が進む。

 

これに対して日本では、室田武をはじめ、玉野井芳郎、多辺田政弘など、エントロピー学会に関わった人たちがコモンズ論を展開した。また、宇沢弘文の社会的共通資本概念も、コモンズ論にも一石を投じる。その後、より実地調査に基づいたコモンズ論が展開されてゆく。

 

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コモンズの定義

 

浅子和美、國則守生「コモンズの経済理論」
(宇沢弘文、茂木愛一郎編「社会的共通資本 コモンズと都市」東京大学出版会、1994年、74-76ページ)

1)オープンアクセス、フリーアクセスが成立する資源

 (ハーディング想定したコモンズ)

2)資源の利用が一定の集団に限られ、その資源の管理、利用についても、集団のなかである規律が定められ、利用にあたって、種々の権利、義務関係をともなっている

 

池田寛二「キーワード地域社会学」地域社会学会編、2000年、ハーベスト社、308-309ページ)

・非市場領域に属している資源

・所有権が設定されていないために商品化、市場化されていない資源

・ 「共有地」「入会地」「共有財産」と同じ意味をもつ概念として理解されているが、それはコモンズの一面にすぎない

 

井上真、宮内奏介編「コモンズの社会学」

・資源の所有にこだわらず実質的な管理(利用を含む)が共同で行われていること

 

植田和弘「環境経済研究の動向と展望」「環境研究」1996年

・それぞれのおかれた諸条件のもとで持続可能な形で自然環境や資源を管理、維持するための制度、組織

 

宇沢弘文「経済に人間らしさを」かもがわブックレット120、1998年、34ページ)

・ある特定の人々の集団が集まって、協同的な作業として、社会共通資本としての機能を十分に生かせるように、その管理や運営をしていくもの

 

嘉田由紀子「共感する環境学」嘉田、槌田、山田編、ミネルヴァ書房、2000年、241ページ)

・森(里山)、海(漁場)、川、湖沼などを地域の人びとが共同利用する

・日本の入会地、入浜

資源の公共性と持続性を保障するメカニズムであると同時に、弱者の生存権を保障するシステムとしても機能

 

環境百科事典(吉田邦夫監修)

・地域住民の自治的な管理によって用益され保全されている自然生態系の資源、環境とその協同的な利用

 

経済学辞典 第三版(有斐閣)

・私有化されておらず地域社会の共通基盤となっている自然資源や自然環境

 

国則守生「環境とコモンズ論」「環境と経済に関する研究 第2期NIRA研究報告書」総合研究開発機構、1997年、75-87ページ)

・入会権の対象あるいはその制度的枠組み全体を指す

 

多辺田政弘「コモンズの経済学」1990年

・商品化という形で私的所有や私的管理に分割されない、また同時に国や都道府県といった広域行政に包括されない、地域住民の「共」的管理(自治)による地域空間とその利用関係(社会関係)

 

寺尾忠能「低開発と環境資源破壊」「アジ研ニュース」1992年

1)所有権、利用券を限られた範囲の集団に設定することが難しく、その利用する影響を特定の範囲内に限定できない大気などのグローバルコモンズ

2)所有権、利用券と利用による影響を、寡婦ぎられた範囲内の特定集団に限定することが可能なローカルコモンズ、森林、草地、低湿地、ため池、地下水、河川、河岸、野生生物、漁業資源など

 

原洋之助「環境問題の経済分析」「アジア社会問題研究所調査研究委員会「アジア地域の発展と環境保護に関する調査研究、産業研究所、1992年

・それをはぐくむ環境が好ましい状態にとどまる限りで再生産可能であるが、誤った利用によっては枯渇の危険性が大きくなる資源

 

平松紘

・土地、空気、水などの地球上の主たる資源について、人々が共同してエクイタブルにアクセスもしくは使用でき、誰もがそれらを破壊することのできない社会制度

 

茂木愛一郎「世界のコモンズ」「社会共通資本 コモンズと都市」東京大学出版会、1994年

・コミュナールな資源のレジームに相当するもの

・包括的にいえば、コモンズとは、主として自然環境や自然資源を対象に、それらへのアクセス権と管理の方法が、慣習ないし制度にひょって備わっている社会的仕組み

・オープンアクセスとは明らかに違っている

 

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目次      

第1章 日本の入会林野の歴史と財産区有林

第1章補論 一部事務組合有林・記名共有林として管理される林野

第2章 山林コモンズ:繁盛するもの、新機軸をめざすもの 滋賀県3フィールドの入会林野の管理実態

第3章 財産区の制度分析:議会制と管理会制 富士宮市白糸財産区有林と葛巻町葛巻財産区有林を事例に

第4章 イングランド、ウェールズにおけるコモンズの歴史と現況

第5章 資源管理とコモンズ論

第5章付録世界のコモンズ一覧・コモンズ定義集

第6章 入会林野に根づく学校林―歴史と現在
第7章 水と山におけるコモンズの内法 持続性に向けてのルール

補論 なぜ今「コモンズ」なのか

資料案内およびフィールドメモ

 

内容

日本の入会林野も英国のコモンズも、きわめて現代的な存在であるが、起源が古いせいか、過去の遺物のように誤解されることが多い。本書は、そうした誤解、あるいは思い込みにとらわれることなく、公的な存在でもなく、私的な存在でもない財産区有林や共有山などの共的な森林と人々とのかかわりに関する研究結果をまとめたものである。