読んだ本

まちの見方・調べ方 地域づくりのための調査法入門

西村幸夫、野澤康 編

朝倉書店

2010.10

 

今、考えていることの一つは「環境」という概念である。グローバルに言えば、公害や廃棄物、放射線(原発事故)、地球温暖化といった課題がまず、思い浮かぶ。だが他方で「環境」は「住環境」のような地域さらにはもっと小規模なコミュニティや空間における課題も内包している。私には、前者における議論と後者における議論は、どこか別もののように思われるのだ。もちろんそれはいずれかだけが正しいとか間違っているとか、優先順位だとか、そういうことを言いたいわけではない。しかし両者を同じ「環境」と言ってしまうと、どことなく落ち着きが悪く感じてしまうのである。そういう課題を抱きつつ本書を手に取ると、特にこの中では「第5章 都市空間の再生とアメニティ」(西村幸夫)が、私の言う後者の「環境」について「開発」との対比から議論されているようにとらえられる。少しだけこの章の内容をみてみよう。

 

ここでは「アメニティ」がキーワードとなっている。ところが「その内実は明確に定義されることはなく、むしろ行政の幅広い裁量権を確保するためにアメニティを詳細に定義することは避けられてきた」(121ページ)ようだ。他方、米国では「美観規制」が「アメニティ」と近い言葉として用いられているという。歴史的には1930年代から50年代に数多くの訴訟が起こり(つまりは大半は戦時中ということになるが、知ってのとおり米国の「本土」での出来事である)、その結果、一定程度の社会的コンセンサスが得られているようなものである。他方国内では、以下のような課題に対応してきた経緯がある。

 

・歴史文化遺産の保全
・自然風景の保護
・屋外広告物の規制
・美しい都市景観の創出

 

これを例えば「都市景観」もしくは都市空間における生活環境の快適さという意味であるとすると、やはり「地球環境」的「環境」問題とは、問われるべき点が大きく異なってくるように思う。

そしてそのうえで、あえて述べるが、グローバルな「環境」問題と、ローカルな(私はイリイチにならって「バナキュラーな」と言いたい)「環境」問題は、別ものとしたい(コモンズ論がローカルとグローバルとに二分されて論じられるように)。ただ、そのなかでも、伝統に根ざした地域の「環境」であれば、その不可逆的な損失について明らかにしうると思うのだが、都市空間になると、歴史的堆積を持たない場合も多く、しかもそれが住民の「アメニティ」をよりどころとするとき、非常に判断が難しいように思われる。

 

これは単に言葉遣いの問題かもしれないが、「住環境」や「都市環境」といったように、ここに「環境」という言葉を挿入することは、問題領域の混乱を引き起こし、相互の問題の核心を曖昧にしてしまうというマイナス点もあるのではないだろうか。

都市空間においては、歴史的にみてもその評価すべき尺度があいまいである。「気持の良い環境」というがはたしてこの「peasant」が「誰」のためのものなのか、はっきりしない。一説(渡辺俊一)によればアメニティとは「中産階級の美学」(122ページ)とみなされている。これをもう少し広げて「市民共通の価値観」(123ページ)とみなされうるものにとらえることも可能だとしている。ちなみに今まであえて記していなかったが、こうした都市における「アメニティ」という語は「環境保全」と訳されてもいる。少なくとも英国の都市計画においてはこの「内実」は明文化されてこなかった。これが米国になると「アメニティ」という言葉自体が用いられない。「都市美」(beauty)や「美観規制」(aesthtic)が用いられるのが一般的である。

 

米国の場合、20世紀より都市美運動などが起こり、条例の導入や裁判が行われてきた。ところがこの際の「都市美」は「贅沢及び道楽の問題であり、必要性の問題ではない」とされるのが主流だった。このあとの細かな経緯は省略するが、興味深いのは、1954年の判例である。ここでは「general welfare」に「美的規制」まで加えられる。要するに「都市美」とは、ボーダーラインにあるのである。

 

1980年代以降は「アメニティ」は環境の「質」を問うようになる。ただし国内ではアメニティの中に地域社会や伝統文化の保存問題まで含まれる。すなわち国内独自の「判断」が「アメニティ」に加わっている。

 

「日本の都市のように往々にして地域の物的環境にまとまりがなく、またこれを支えるべき地域社会も必ずしも強固ではない場合には、アメニティ議論以前に、地域固有なアメニティをすくい上げ、これを共通認識として確立していく社会的な仕組みや合意形成のプロセスを支援する必要がある」(129ページ)

「地域固有なアメニティ」とは何か。このこと明らかにすること自体が課題であるようだ。

 

なお、具体的な動きとして西村は、以下を挙げている。

1)町並み保全運動
エコミュージアム
グリーン・ツーリズム

2)開発反対型の運動
建築協定
まちづくり協定
・国立市の訴訟など

3)中心市街地の衰退

 

・・・途中だが、時間切れ。これにて。