読んだ本
環境の思想家たち 上(古代-近代編)
エコロジーの思想
ジョイ・A・パルマー 編
須藤自由児 訳
みすず書房
2004年9月
ひとこと感想
上巻には26人の「環境思想家」が登場する。人数が多いぶん、人物紹介が中心となり、あまり掘り下げた記述はなく、思ったほどおもしろくなかった。ただ、あらためて、人間を特権化せず、他の生き物と人間とを同じ「いのち」あるものとみなすことに、環境思想の原点があることはよくわかった。
パルマーはダラム大学教育学教授および副学長。同大学の環境学習リサーチ・センター理事。国立環境教育協会副会長。教育と交流に関するIUCN委員会会員。
訳者の須藤は1945年新潟県生まれ。東京大学工学部卒。通産省に2年間勤務その後、東京
大学文学部卒。81年同大学院人文科学研究科博士課程修了。跡見学園女子大学非常勤講
師等を経て、92年より松山東雲女子大学人文学部勤務。現在人間心理学科教授。
***
登場する人物
仏陀
「仏教は、少なくとも原理においては、全存在が固有の道徳的価値をもち、道徳的な「考慮に値するものであるということ」、そして全存在にたいする相互的かつ互恵的な責務が存在するということを強調する」(14ページ)
荘子
道家思想の後継として、禅仏教をとりあげている。一般的に原始仏教を「本家」としてとらえる傾向があるが、中国における仏教と道教の融合もまた大変興味深い。
アリストテレス
「人間的テロス=目的を実現することにより開花・現実化する、人間の生に固有な卓越性(徳)の問題」(38ページ)
ウェルギリウス
「過去2000年の大半、田園的・牧歌的なものの観念はおもにウェルギリウスによって生み出され伝えられてきた。」(44ページ)
アシジの聖フランチェスコ
近い時代の聖人トマス・アクイナスとはまったく対照的に、人間と動物とを理性のあるなしなどで区別はしなかった。ヨハネ・パウロ二世は彼のことをエコロジーの守護聖人とみなした。
王陽明
国内において儒教は戦後、前近代的なものとして退けられたが、あらためて「仁」の考え方や「知行合一」など考察に値する点が多々ある。
ミシェル・ドゥ・モンテーニュ
エセーの第1巻、31節にあるブラジルの食人種についての議論では、ヨーロッパによる残虐行為の指摘。第2巻、12節には他の生物たちへの細かい説明がある。
フランシス・ベーコン
環境論ではむしろ悪者として常に登場するベーコンであるが、そう単純ではないことが示されている。
ベネディクト・スピノザ
言わずもがな。
芭蕉
俳句のもつ不思議な点、それは、自然を描写する人間の不思議な態度にある。主観と客観とは異なる構図をそこにみる。
ジャン・ジャック・ルソー
いわずもがな。
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
色彩論をはじめ、自然観、ホーリズムについて検討。想像力。
トーマス・ロバート・マルサス
リカードやJ・S・ミルを友人とする。人間の側を「人口」として研究した。「生産は生殖に追い付かない」。
ウィリアム・ワーズワース
自然の詩人であるとともに自己の詩人であった。メルロ=ポンティが言及(?)。自己と環境とのあいだの相互構成的、互恵的関係性。
ジョン・クレア
田畑やフィールドを「生きられた」もの「経験される」ものとして探求した。
ラルフ・ヲルドー・エマソン
自然との共生を重んじた。自然は単なる資源ではなくロマンスである。
チャールズ・ダーウィン
人間と他の生物との連続性。
ヘンリー・デヴィッド・ソロー
米国人が書いた自然に関する古典の第一書
カール・マルクス
いわずもがな
ジョン・ラスキン
産業化がもたらした弊害を弾劾、ナショナルトラストや歴史的建造物の保護のための協会の設立などに影響を与える
フレデリック・ロー・オムステッド
公共の貢献をつくりだし、景観建築という新しい職業分野を確立
ジョン・ミューア
「原生的自然のなかに、人間の精神的/宗教的な健康と強さを見た」(257ページ)
アンナ・ボツフォード・コムストック
農業の重要性、田舎の価値を回復しようとする運動の中心だったコーネル大学でベリーとともに仕事を行った
ラビン・ドゥラナート・タゴール
自然の美的側面を強調
ブラック・エルク
家族的な関係を環境にみる
フランク・ロイド・ライト
自然を理想化し、絶対的な参照枠、かつ評価の基準とみなした
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