十一月十七日 晴、行程一里、宇ノ島、太田屋
(三〇・中ノ上)
朝酒は勿躰ないと思つたけれど、
見た以上は飲まずにはゐられない私である、
ほろ/\酔うてお暇する、
いつまたあはれるか、それはわからない、
けふこゝで顔と顔とを合せてる
人生はこれだけだ、これだけでよろしい、
これだけ以上になつては困る。……
情のこもつた別れの言葉をあとにして、すた/\歩く、
とても行乞なんか出来るものぢやない、
一里歩いて宇ノ島、教へられてゐた宿へ泊る、
何しろ淋しくてならないので濁酒を二三杯ひつかける、
そして休んだ、
かういふ場合には酔うて寝る外ないのだから。
此宿はよろしい、木賃宿は一般によくなつたが、
そして客種もよくなつたが、
三十銭でこれだけの待遇をうけると、
何となくすまないやうな気もする、
しかも木賃宿は、
それが客の多い宿ならば、みんな儲けだしてゐる。
友人からのたより――昧々居で受け取つたもの
をまた、くりかへしくりかへし読んだ、
そして人間、友、心といふものにうたれた。
同宿七人、同室はおへんろさんとおゑびすさん、
前者はおだやかな、しんせつな老人だつたが、
後者は無智な、我儘な中年者だつた、
でも話してゐるうちに、
私といふものを多少解つてくれたやうだつた。
・別れて来た道がまつすぐ
酔うて急いで山国川を渡る
・つきあたつてまがれば風
・別れきてさみしい濁酒があつた
タダの湯へつかれた足を伸ばす
十一月十八日 曇、宇ノ島八屋行乞、宿は同前、
いゝ宿である。
行乞したくないけれど九時から三時まで行乞、
おいしい濁酒を飲んで、あたゝかい湯に入る、
そして寝る、
どうしても孤独の行乞者に戻りきれないので閉口々々。
十一月十九日 晴、行程三里、門司、源三郎居、よすぎる。
嫌々行乞して椎田まで、もう我慢出来ないし、
門司までの汽車賃だけはあるので大里まで飛ぶ、
そこから広石町を尋ね歩いて、源三郎居の御厄介になる、
だいぶ探したが、
酒屋のおかみさんも、魚屋のおやぢさんも、
また若い巡査も
(彼は若いだけ巡査臭ぷん/\であつたが)
私と源三郎さんのやうな中流以上の知識階級乃至
サラリーマンとを結びつけえなかつたのはあたりまへだらう。
源三郎さんは――奥さんも父君も
好感を持たないではゐられないやうな人柄である、
たらふく酒を飲ませていたゞいて、
ぞんぶん河豚を食べさせていたゞいて、
そして絹夜具に寝せていたゞいた。
けふのべんたうは野のまんなかで
なつかしくもやはらかいフトンである(源三郎居)
・蒲団ふうわりふる郷の夢( 〃 )
駐在所で源三郎居の所在を教へられて、
そこへの石段を上つてゆくと、
子を負つた若い奥さんが下つて来られる、
それが源三郎さんのマダムだつた、
これは句になりさうで、なか/\まとまらない、
犬の方はすぐ句になつたが!
(青空文庫作成ファイル)より
(続きます)
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今日も命を授けていただきありがとう (^-^)
二度とない人生
だから 今日が大事、今日が大切
今日もいい日でありますように 【合掌】
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