十月十五日 晴、行程四里、有水、山村屋(四〇・中・下)
早く立つつもりだつたけれど、宿の仕度が出来ない、
八時すぎてから草鞋を穿く、
やつと昨日の朝になつて見つけた草鞋である、
まことに尊い草鞋である。
二時で高城、二時間ほど行乞、また二里で有水、
もう二里歩むつもりだつたが、何だか腹工合がよくないので、
豆腐で一杯ひつかけて山村の閑寂をしんみりヱンヂヨイする。
宿の主人は多少異色がある、
子供が十人あつたと話す、話す彼は両足のない躄だ、
気の毒なやうな可笑しいやうな、
そして呑気な気持で彼をしみ/″\眺めたことだつた。
途上、行乞しつゝ、
農村の疲弊を感ぜざるを得なかつた、
日本にとつて農村の疲弊ほど恐ろしいものはないと思ふ、
豊年で困る、蚕を飼つて損をする――
いつたい、そんな事があつていゝものか、
あるべきなのか。
今日は強情婆と馬鹿娘とに出くわした、
何と強情我慢の婆さんだつたらう、地獄行間違なし、
そしてまた、
馬鹿娘の馬鹿らしさはどうだ、極楽の入口だつた。
村の運動会
(といつても小学校のそれだけれど、村全体が動くのである)は
村の年中行事の一つとして、これほど有意義な、
そして効果のあるものはなからう。
宿の小娘に下駄を貸してくれといつたら、
自分の赤い鼻緒のそれを持つて来た、
それを穿いて、私は焼酎飲みに出かけた、何となく寂しかつた。
友のたれかに与へたハガキの中に、――
やうやく海の威嚇と藷焼酎の誘惑とから逃れて、
山の中へ来ることが出来ました、
秋は海よりも山に、山よりも林に、
いち早く深まりつゝあることを感じます
虫の声もいつとなく細くなつて、
あるかなきかの風にも蝶々がたゞようてゐます。……
物のあはれか、
旅のあはれか、
人のあはれか、
私のあはれか、
あはれ、あはれ、あはれというもおろかなりけり。
清酒が飲みたいけれど罎詰しかない、
此地方では酒といへば焼酎だ、
なるほど、焼酎は銭に於ても、また酔ふことに於ても経済だ、
同時に何といふうまくないことだらう、
焼酎が好きなどゝいふのは――
彼がほんたうにさう感じてゐるならば――
彼は間違なく変質者だ、
私は呼吸せずにしか焼酎は飲めない、
清酒は味へるけれど、
焼酎は呻る[#「呻る」はママ]外ない
(焼酎は無味無臭なのがいゝ、たゞ酔を買ふだけのものだ、
藷焼酎でも米焼酎でも、焼酎の臭気なるものを私は好かない)。
相客は一人、何かを行商する老人、
無口で無愛想なのが却つてよろしい、
彼は彼、私は私で、
煩はされることなしに
私は私自身のしたい事をしてゐられるから。
湯に入れなかつたのは残念だつた、
入浴は、私にとつては趣味である、
疲労を医するといふことよりも気分を転換するための手段だ、
二銭か三銭かの銭湯に於ける享楽は
じつさいありがたいものである。
薩摩日向の家屋は板壁であるのを不思議に思つてゐたが
宿の主人の話で、その謎が解けた、
旧藩時代、真宗は御法度であるのに、
庶民が壁に塗り込んでまで阿弥陀如来を礼拝するので、
土壁を禁止したからだと。
(青空文庫作成ファイル)より
(続きます)
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今日も命を授けていただきありがとう (^-^)
二度とない人生
だから 今日が大事、今日が大切
今日もいい日でありますように 【合掌】
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