有島武郎の短編。

文豪が深夜にラブレターを書くと、かくも壮大に美しく、重厚で、鮮烈な文学になってしまうのです!いやほんと、これ子どもたちへのラブレターと私は読みました。

まだ十代のころに読んだときには、「お前は小さい。前途は暗い。人生はしんどい。」とか畳みかけられても、最後の一行でまだ見ぬ水平線のむこうに、武者震いのひとつもしたものだった。

いま三十代の私。深夜の壮大なラブレターに若干鼻白みながらも、あるポイントから有島武郎が、人類の父みたいに広がっていく感じがして不思議。ついでに私も私の枠をこえて、人類の子、みたいになっていく。

自分を殺すんでなく、自分がなくなっていくことの、絶妙なラクさ。こんな種類のラクさがあるなんて、10代のときにはわからんかったねぇ。