台湾を代表する日本語作家、龍瑛宗さんのデビュー作を読みました。
この作品が日本の雑誌「改造」の懸賞小説に当選したのが1937年。台湾人の書いた小説としては初めて、そして唯一掲載されたのだそうです。

主人公の陳有三は、仕事を求めてパパイヤのある街にやってきます。
当時の台湾は日本だったとはいえ、日本人を内地人、台湾人を本島人、とハッキリと描き分け、生活水準の差も厳然と存在していました。

有三は二十歳の青年です。
当たり前のように将来に希望を持ち、働き始めるのですが、会社の先輩や周りの台湾人の現実を知るにつけ、明るい未来を描くことをやめていく。
変わってしまう有三と、随所に登場するパパイヤの、のんびりとした風情の変わらなさ。

有三が、「内地風の着流し」を好み、貧しい出自ながらもきちんと教育を受け、日本語を操る自分を誇らしく思うところなど、植民地政策というのは、憧れを植え付けることが大事な戦略だったんだろうなーと思う。

なぜなら当時、台湾に移住することを許されたのは、素行や健康状態、教育レベル、資金の審査をクリアした、言ってしまえば「よそに出しても恥ずかしくない」日本人が大半でした。日本にも、どーにもなんない底辺の貧乏人はたくさんいた、と有三が知ったらどう思っただろうか。

それはさておき。台湾の日本語文学をよむと、当時の風俗がわかって、たいへん興味深い。国立台湾文学館が発行してる龍瑛宗さんの全集(しかも日本語版)、日本ではなかなかお目にかかれないので、台湾にいるうちに全部読んどこう。