私は家が大好き、安住大好き、日常LOVE。旅先でも同じ店に何度も行って、同じ道を何度も歩いて、日常を作り出そうとする。
 
それに対して友人のスジャータ女史は、日常を毎日全身全霊で否定して生きている。安住すると体調を崩すという強迫観念で、真冬の極寒豪雨の日でもわざわざカフェに出かけて安堵するのです。フツーはそういう日には、家で安堵すると思うんだけど。
 
スジャータ女史にとって、アパートなんて家賃を奪っていく憎き存在でしかないといいます。かといって豪邸の持ち家に住みたいかというとそうでもなく、ビワの木の下に住めたらそれでいいのだそうです。あるとき実際に、アパートへ帰らずビワの木の下で寝泊まりしてたら当時の彼氏にキレられて大喧嘩。方向性の違いからあえなく別々の道を歩むことになったそうです。
 
非日常にしか憩えない人種って、確かにいる。
この瀬戸内晴美さんの短編小説は、そんな女が主人公。家にいつかず、いつまでも砂漠をころがるタンブルウィードのようにほっつき歩き、旅先で得た束の間の安堵とは何だったのでしょうか。
 
今日も明日もあさっても、どこをねぐらの身の上なんて、これっぽっちも憧れん。何のためにそれをやるのか。答えはたぶん、本人たちも知らないのでしょう。別に小説を書かなくたって、SNSにアップしなくたって、誰かに知ってもらわなくても、この人たちは不安定のうちに安定を見出すという孤独な作業を死ぬまで続けるのです。本物ってこういうことだなーと思う。私はそういう人を信頼します。