主人公のヤスオカくんは、靖国神社のとなりにあるという中学校の、花形木偶の坊です。いかにどんくさいか、ということがどんくさいエピソードとともに語られ、先生に怒られても、「別に見ようと思って何かを見ていたわけでも、休もうと思って休んでいたわけでもないのだから」、何も答えられないんですね。この感じ、私も身に覚えが。ヤスオカくんは隠居予備軍といえるでしょう。
そんなヤスオカくんが、あるときいつものように廊下にたたされていると、向かいの靖国神社のお祭りの、サアカスに連れてこられたどんくさそうな馬を見て、自分を投影したり、空想にふけるんですが、この馬がじつはとんでもない馬だったということがわかります。
こんなどんくさいヤスオカくんが将来、とんでもないことに、芥川賞をとるなんて、当時誰が想像できたでしょう。ヤスオカくんは隠居予備軍ではなく、芥川賞予備軍だったのです。うれしいこともあるもんだね。