隠居生活にもっともいらないもの、それは変化と起伏と刺激です。何も起こらない、平々凡々とした静かな日常があれば、それで幸せなのです。

人間、歳をとりますと、全米が泣いたとか、衝撃の結末とかがもうしんどい。泣いたり衝撃受けたり、しなきゃいけないのか…、と憂鬱になるので、あんまりそういうものには寄り付きません。

そんな私にぴったりの小説がコレ!黒井千次先生の『横断歩道』。

黒井先生の作品は、だいたい大した事件も起こらないような何気ない日常が舞台なことが多いので、とても好きです。

主人公の小知子は、とりたてて特徴もないフツーの主婦。フツー最高!この小知子の知人がある日突然消息を絶つのですが…。日常の中に起こるちょっとした変化を楽しむかのように、わざわざ不安な妄想へと小知子は自分を追い立てていきます。そこここに危険の仕掛けられた横断歩道をちょっと歩いてみるように。でも歩ききってみると、そこはやっぱりガードレールに守られた、ぬるくて安全な歩道。

読み終わったとき、結局何もないような日常だけが残り、「すごい感動!とか驚愕!とかべつにしなくてもいいんだよ」という満足感に肩をそっと支えられた気がしたのでした。



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