額のひかりだけ | おはなしてーこのお話

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ふっと生まれたお話や感じたことを書いてます。

「そろそろ目が覚めたか?」


少し部屋にこだまする声がする。

何もない、天井の低いつるりとした壁に囲まれた

淡いクリーム色の広い部屋


その奥の方で頭を抱え、

床にうずくまり眠っている者がいた。


その部屋の扉から続く長く細い場所を歩きながら

その眠っている者に声をかける者

この国の王に近しく仕えるものだ。


その声に眠ってる者が反応を見せた。

眠ってはいなかった。

とにかく動けないでいた。


仕える者が、眠っている者の近くにひざまずき

肩に手をかけた。


「もうそろそろ眠りから覚めたらどうだい」。

 

肩にかけた手に反応を感じた。


「ここに居ることは、私しか知らない。

 このままでもよいのだが、

 王が、そなたを探している。

 そなたを必要としているのだ。」


「・・・あの者はもういない、

 遠くへ去っていった・・・」


その言葉を聞いて眠っていた者が思い出す。

あの時の恐怖を・・・


力という力をあの者に吸われてしまった。

あの時の恐怖が浮かぶ

そして、すべてを奪われないために

頭を抱え、額の光を守った。

そして、あの者が倒れこんだ私を見て去っていくまで

頭を抱え額を守り続けた。


それから、この額のひかりを守るために

ここ逃げ込み、こうして長い間同じ姿勢でいた。

そして、いつしか眠り続けていた。


眠っている者は、ここに身を隠す前までは、

少し人よりすぐれた五感を持っていた。

五感のすべてが人よりすぐれていたから

それが不思議な力となっていた。

それが、眠っている者の家に引き継がれるもの


ただ、五感の一つがそれぞれに優れていることが

家の血筋のようなものだった。

けれど、眠っている者はそのすべてが優れた者として

生まれおちた。

その力のうわさを聞き、王が彼を城に招き

彼の力を役立てるようになっていた。


王に仕える者が話し続けた。


「あの者と王が条約を結ばれ

 あの者が、この国にかかわるようになってから

 この国民は、希望を失った。

 そして、いつしか誇りさえ持てなくなっていった。

 すべての民がそうなってしまった。

 そんな時代が長く続いたんだ。

 そして、そんな民に気がつかれた王が

 今、あの者との条約を破棄され

 あの者をこの国から追放されたのだ。」


仕える者は、眠っている者が聞いていること確信しながら話した。


「そして、今、王は、民に誇りと希望を取り戻したいと思っておられる。

 だから、君を迎えにきた。

 君がここにいることは、私が、今の仕事に就いた時

 この国のあらゆるところを見て歩いて気がついた。

 そして、身を隠す意味がなんとなくわかったんだよ。

 だから、誰にも言わずにいたんだよ。

 

 その君の姿を見て、確信したよ。

 額のひかりだけは残っているんだね。

 だから、身を隠した。


 王は君がどこかで生きているのならばと思っておられる。

 今の君が必要とされている。

 私もそう思う。

 その光が残っているのなら・・・と、

 余計にその思いは強くなった。


 その光で民の希望を照らしてくれないか?

 そうすれば、誇りも必ず取り戻せる。


 考えてみてくれ…」


そう話し、仕える者は、

眠っている者の肩に乗せている少し手に力を入れ

そして少しして、手を離し、立ち上がって静かにその場を離れた。


その後ろ姿を、ゆっくりと頭をあげ、眠っている者は見ていた。

その姿が消えるまで・・・

そうして、少しの時が流れていった。


眠っている者が、体をあげ、立ち上がった。

ずっとうずくまっていたために

力が入り辛く、よろけてしまう。

足に力を入れ、意識をしっかりとさせ

まっすぐに立った。

そして、扉に向かって一歩足を踏み出した。