戦場から傷だらけの姿で、故郷に帰ってきた青年がいた。
右には松葉杖をつき、背中は銃で撃たれ後のあるボロボロになった制服のまま
父と母の待つ、小さな町に帰ってきた。
その姿を見た両親は、一瞬、驚いた顔をした。
でも、すぐに彼に駆け寄り「よく帰ってきた」と声をかけた。
彼は、背中に二発の銃弾を受け、その傷が治る頃、戦争が終わった。
そして、戦地からそのままの姿で還された。
そんな姿の彼に誰もが、優しく声をかけてくれる。
気を遣い、体のことを心配してくれる。
けれど、彼は、そんなみんなに、なにか落ち着かないものを感じるようになる。
傷をいやすために両親の家で、過ごしていたある日
父が、「お前の工房の家のほうがゆっくりできるんじゃないか?」と彼に提案する。
彼は、なんとなくその言葉を受け入れていた。
彼は、両親と同じ町の少し離れた所で、木の工房を持っていた。
そこで、家具を作ったり、子供たちにおもちゃを作ったりしていた。
工房に移って、ふっと町のみんなへの違和感を思い出した。
そして、その違和感は、皆が腫物のように接するように
自分に接していたんだと思った。
そして、それが彼に落ちつかない感じを抱かせていた。
それは、両親に対しても同じだった。
以前のように抱きしめてもくれない。
彼と話していても途中で席を立ってしまうという感じだった。
彼は、わかっていた。
こんな傷だらけの姿の息子を見ることがつらいんだということを
けれど、しっかりと見ていてほしかった。
そして、戦場で自分の見てきたこと、感じていたことを聞いてほしかった。
本当は、こんなことをしたくない。帰りたい。やめたい。
そんな気持ちを押し殺して、闘わなくてはいけないと思っていた自分の気持ちを
上官の命令で、人に銃を向けなければならないつらさを
何人もの人がそれで傷つき、死んでいく姿を見なければならないことを
そして、その人たちだけでなく、その人たちを大切に思っている人たちを傷つけていることを
それが、分かっていながらしなくてはいけないと思う想いを
そんな日々を毎日過ごしていて、人としての一線だけは超えないようにと
必死で、戦場でのことを忘れようとテントに帰れば、共に闘っている者たちと
家族の話や、たわいない話をして笑っていたことを
そんなどこにも向けられない怒りや、悲しみを
そのまま聞いてほしかった。
けれど、彼を思い、みんながそのことには触れようとはしなかった。
まるで、そのことがなかったように振る舞ってくれている。
その気遣いが、彼には悲しかった。
気付かないうちに、彼は泣いていた。
自分の頬につたう涙に気付き、ここを離れようと思った。
そして、誰にも告げず
少し自由の利かなくなった足を引きずりながら歩き出した。