ある夜、会社にひとり残り仕事をしていた女社長がいた。
そこに突然、数人の男が入ってきて、その女社長に襲い掛かる。
皆で囲み、彼女を殴り続けた。
殴られ、意識がもうろうとする彼女の耳に
「お前が悪いんだ。」と言い続けるいろんな声が聞こえる。
聞き覚えのある声、
彼女が、取引をしていた人たちの声
床に倒れ、その上から殴られけられながら
自分を囲み、上から見下ろす男たちの顔をうっすらとみる。
見覚えのある顔、今まで信頼し取引をしていた人たち
「どうして?」と思う。
そして、次第に意識が薄れていく
そんな遠のく意識の中、彼女はホッとしていた。
やっと、肩の力を抜くことができる。
もう、人に負けまいと身構えて生きていかなくていい
そう思うと、今まで、自分はこうなることを望んでいたんだと気づく。
彼女は、女性を見下し母を使用人のようにこき使う父と
それに対して押し黙ったように仕える母のもとで育った。
そんな母も彼女には
「しっかり勉強しなさい。そして、いい職につきなさい。
自分一人でも生きていけるように・・・」と幾度となく言っていた。
そして、彼女は一人でも生きていけるようにと懸命に勉強し、
会社を興し、社長になった。
しかし、負けないようにと身構え続けた彼女は
会社を守るために、一人で生きていくために
仕事の上では冷酷だった。
今まで取引のあった者たちもあっさりと捨てて行った。
何も考えず、会社の利益だけのために
そして、いま彼女が取引をやめた人たちが
彼女を殴り殺そうとしている。
そんな中、
「こんなことは本当なしたくなかった。あなたがもっと、私たちの話に耳を傾けてさえいてくれれば…」
と言う一人の男の声を聞いた気がした。
彼女は、そうだったのかと思った。
そして、こんなことをさせている自分がひどく身勝手だったと思った。
そんなことを思った瞬間
彼女は社長室にいた。そして、男性を迎え入れていた。
彼女とその男性はソファに腰掛け、仕事の話をしていた。
男性は二十代後半のまだ、若々しくやさしい感じがする。
彼女は、仕事の話の合間に彼の今の状態や家庭の話などを聞く。
時には、たわいもない世間話もしたりした。
そうして、彼がいま大変仕事で行き詰まり、
彼女の会社との取引がなくなれば、仕事がなくなってしまうこと
そのために生活も苦しく、娘たちに長い間、何も買ってやれてないことを知る。
彼女は、
「うちも今これ以上は仕事を出すことができません。
でも、知り合いの社長に仕事がないか聞いてみて
その時は私も紹介状を書きましょう」と言う。
その言葉を聞いて男性は喜ぶ
そして、彼女は自分のためにと買ったケーキの入った赤いリボンのついた箱を男性に差し出す。
「お嬢さんたちへのお土産にしてください。」と言って
男性は、驚きながら、最初は遠慮したが、
彼女の笑顔を見て、とても喜んで受け取った。
そして、男性が自分の付けているペンダントを外し彼女に差し出さす。
「こんなお礼しかできないけれど、自分が一番大切にしているペンダントを受け取ってください。」
そのペンダントは、高価なもののようには見えない。
けれど彼女は、喜んでそのペンダントを受け取った。
そして、二人は握手をかわした。
男性が帰った後、彼女は自分のデスクに座り
そのペンダントを手に取り眺めていた。
そして、少し笑みを浮かべながら目を閉じた。
そんな笑みを少し浮かべた顔で、
彼女は男たちに殴り殺された。