~ 歪んだ姿 ~ | おはなしてーこのお話

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右目はギラギラと大きく、左目はつぶれたように小さく
顔は右に大きくゆがみ、右肩は何かを背負っているように大きい。
左の脇腹は、えぐれたようにへこみ、
右脚は大木のように太く、左脚は竹のように細い。
そして、そんな体を支えるには不似合いな小さな小さな足。
そんな歪な体をした人がいた。


その人は、近くのきれいな水が湧き出る泉から
毎日、毎日、水を汲み家ほどの大きなかめに入れていた。

大きなかめの脇に取りつけられた、細い梯子を
一日に何度も、上り下りしてかめを満たしていた。


周りにも同じようにかめを満たしている人たちがいる。
そんな人たちの姿を見ては、
その人は、「自分もやらなくては!」と頑張った。


そんな毎日の中、泉に映る自分の姿を目にする。
今まで何度も見ていたはずなのに
今日は、そこに映る自分の歪な姿を見て愕然とする。
そして、かめの中の水にも何度も何度も映して見た。


そして、その人は、街に出かける。
みんなもそうなのか、それを確かめたかった。


町に出かけ、周りを見渡すと、
すごくバランスの取れた姿をした人たちがたくさんいる。
そして、その人たちが軽やかな感じがした。
楽しそうに感じた。


あらためて、自分の歪な姿を見る。
なぜ、今まで気がつかなかったんだろうと思う。
自分の姿が、何かおかしいと感じる。
何かが、おかしいと感じた。


そして、思った。
今まで、同じように水を運んでいる人たちを目にしていた、
町にも何度も出かけて、そんな人たちも目にしていたのに、
その人たちの姿を見ていなかった。
生きているという姿を遠くからしか見ていなかった。
その人たちが、どんな人たちかも、考えてもいなかった。
その姿を見ようとも、話をしようともしなかったと思った。


そう思ったら、いつものところに帰ろうと思った。


そして、かめの中の水の様子を見よう。
たまには、梯子の上から遠くを見よう。
同じように水を運んでいる人たちとも話そう。
そして、また町にも出かけてこう。
そして、そんな人たちの姿もちゃんと見よう。


今までは、ただ、水を運ぶことばかりで
自分の姿すら見ていなかった。
それだけでいいと思っていた。
そのことを不思議に思わなかった。


そして、どんなに歪な姿の自分でもいいと思った。