~ 一匹の龍 ~ | おはなしてーこのお話

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沼の奥底に目を閉じ、感じることも意識することもやめて
死んだように横たわる龍がいた。
そこに、横たわって長い年月がたっていたので
全身のウロコに苔がつき、藻が絡まっていた。

昔は、その龍も若く、元気に空を自由に飛んでいた。
そんな日々が楽しかった。でも、ある頃から
そんな自分の姿に好奇な目が向けられていると感じ
雄雄しいことが、龍であると思われていると感じ
そんな龍でないことがとても辛くなり、
空を飛ぶことをやめ、沼の奥底に横たわるようになった。

龍にとって、空を飛べなくなって
代わりに沼の中を泳ぎ廻ることは何の意味もなかった。

今はそんな、若い頃の思い出も辛く感じたことも忘れかけていた。

あるとき、フッと閉じていた目を静かにあける龍。
そして、水面のほうに目をやる。うっすらと日の光を感じる。

その光で、空を飛んでいた頃を思い出す。
そして、もう一度だけ飛んでみたいと思った。

龍は動き出す。水面に向け、その先の空に向けて・・・
それと同時に、ウロコに付いていた苔や藻が取れ
若い頃の薄く白っぽいウロコでなく、分厚く立派なウロコが表れた。

龍は天を見つめて一心に登っていった。
空に出て、飛んでいて、若い頃のことを思い出す。
あの頃は、こんなに高く飛ぶことを考えてもいなかった。
自由に飛んでいたように思っていたけど、
下ばかり見て飛んでいたことに気が付いた。

今は、天を見、登っている時の音だけを聞いていた。


目を覚まし、沼から天高く飛ぶ龍の姿は、
強く優しくしなやかに体を使い、
軽やかに空に大きく広がる。
そして、心も空に大きく広げている姿だった。