前門の虎・後門の狼・将棋界の現況(2024.1.20) | 東京の四季(庭園&公園)のブログ

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◆前門の虎・後門の狼・将棋界の現況

 

◆レーティング・ランキング表を見ると本日の時点で上位30位以内の棋士の中で順位戦のC級(1組&2組)の棋士が7名ランクインしています。しかも第2位はC級1組の伊藤匠七段。そして27位の藤本渚四段は2022年10月のデビューで1年3ヵ月足らずで223点増やして1,723点。これは藤井聡太八冠を凌ぐスピードです。そして、伊藤匠七段は今年度A級棋士と16戦して10勝6敗。内、4敗は藤井聡太八冠戦ですからこれを除くと10勝2敗。藤本渚四段は12月21日の第65期王位戦予選決勝で菅井竜也八段と対戦したのがA級棋士との初対戦でしたが見事勝って挑戦者決定リーグ入りを果たしました。順位戦での昇級は「狭き門」なのでA級並みの実力者でも容易に上がれないという実態を物語っているとも言えましょうが、最近の対戦状況を見るとA級棋士は将来有望な若手実力者の餌食になりつつあるようにも見えます。現在A級棋士の最年少は佐々木勇気八段の29歳で最年長は渡辺明九段の39歳。藤井聡太八冠を別格とすればA級に上がった時点で下り坂に向かう棋士が多くなったと言えるかもしれません。藤井聡太八冠を「前門の虎」とすれば伊藤匠七段、藤本渚四段は「後門の狼」と呼べそうです。

◆藤井聡太竜王・名人(八冠)が2016年10月に史上最年少でプロ入りして10連勝。プロ入り初年度となった2017年度から今年度が7年度目になりますが長いようにも短いようにも感じられるところです。そこで将棋界の7年間の変化の一端を探るため、頂点のA級からB級2組までの顔ぶれを現在の第82期と7年度前の第76期と比較してみました。

【A級】

◆7年前から現在なでA級の座を保っている棋士は5名、新規参入者が6名ですが7年間で新規にA級入りしたのは第76期でA級に昇級した糸谷哲朗八段を加えて7名。毎年2名が上って来るので半数は復帰者ということになります。A級とB級1組を行ったり来たりしている強豪をかき分けてA級に上る難易度はかなり高いと言えるでしょう。この年度の羽生善治九段は竜王を渡辺明竜王から奪還して15期ぶりの復位。通算8期目となり永世竜王の資格を獲得して永世七冠の大偉業を達成しましたが翌2018年度には無冠に転落しています。この期は11名ですが三浦弘行九段がAIソフトの不正使用疑惑で出場停止処分となり、その後証拠不十分で処分解除となって棋戦に復帰したことによるもので、この期の降級者は3名となって4勝6敗の渡辺明棋王が降級となる波乱が生じました。

 

【B級1組】

◆B級1組は第79期からB級2組からの昇級者が2名から3名に増えたことに伴い降級者も3名に増えました。B級2組に上がった藤井聡太王位・棋聖が昇級し易くするための処置という陰口もありましたが藤井王位・棋聖は10戦全勝で文句なしの昇級を決めました。第76期は11名となっていますが、これは「三浦九段事件」の余波とA級から落ちて来るハズの森内俊之九段がフリー宣言したことによりA級からの降級者がセロであったことによるものです。

◆B級1組はA級との往復を繰り返している棋士が多く、第76期でA級在籍経験が無いのは松尾歩八段のみ。「鬼の棲家」とも呼ばれて追い返された棋士が数多います。半面でB級1組はA級と同様に1回の不成績で降級となってしまうため定着することも容易ではなく第76期の11名の内5名がB級2組に落ちています。第82期ではA級未経験者が6名いますが横山泰明七段(43歳)を除くとA級八段を目指す若手強豪ばかり。しかし、若手と言っても20歳台は千田翔太七段(29歳)、近藤誠也七段(27歳)、増田康宏七段(26歳)の4名。20歳台でA級入りした棋士と、30歳台でA級入りした棋士では「定着率」でかなり差があるように感じるので29歳の千田七段はラスト・チャンス?近藤誠也七段も増田康宏七段もグズグズしていられません。

 

【B級2組】

◆B級2組は失礼ながら力の落ちて来た強豪棋士がトップ棋士の名誉を懸けて踏み止まる場所と私は観ています。A級とB級1組で24名ですからランキング的にはほぼ50位以内の棋士の集まりと言えます。A級、B級1組が毎期落ちる危険が有るのに対しB級2組以下は「降級点」と称する制度が敷かれていて1年絶不調で酷く敗け込んでも「もう一度不成績だと落ちますよ」という「予告状」のようなものが「降級点」。ただし、翌年調子を戻しても「降級点」は消えませんから「降級点」を付けられた棋士は毎期崖っぷちで戦うことになります。C級1組に落ちると活きの良いA級八段を目指すような若手が多くなりますから現役生活を長く続けるためには石に噛り付いても落ちないようにしなければなりません。逆に見ると「降級点」を2回取得しないと落ちないので「降級者ゼロ」という年もあり在籍者が増える傾向があります。また、「降級点」を持っている棋士が全員落ちることも有り得る訳で「降級者ゼロの年」もあれば「大量の降級者が出る」こともあります。今年度の第82期で「降級点」を持っている棋士は8名で、その内、4、5名が落ちそうな気配となっています。C級1組もB級2組同様「降級点2回取得で降級」、C級2組は「降級点3回取得でフリークラスに降級」という制度になっているので「C級1組」に落ちると最短5年でフリークラスに陥落ということになります。ベテラン実力者としては「最後の砦」とも言うべきポジションになる所為か13名が7年前から頑張っています。第76期でA級経験者は6名、第82期では11名とA級在籍者が増えていることはベテラン実力者が若手に推されて世代交代が若年化していることを物語っているように感じます。