MONDO GROSSO 〜もうひとつのJ-POP | Future Cafe

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「BIG WORLD」モンド・グロッソ

 

 

 2011年の11月、モンド・グロッソの大沢伸一が準強姦罪で逮捕されたというニュースをテレビで観た時はショッキングだった。結局は冤罪だったのだが、余りにも彼にふさわしい事件だったためか、真偽のほどを確かめることもなく、音楽業界の闇をのぞき込んだような薄ら寒い気にさせられたものだ(誤審の可能性もあるが・・・)。90年代にユナイテッド・フューチャー・オーガニゼーションやキョート・ジャズ・マッシヴ、竹村延和等と共に日本におけるクラブジャズシーンを形成してきたモンド・グロッソの音楽には、つねに遊び人の香りが漂っていた。ジャズバンドに始まり、R&B、ブラジリアン、ヒップホップ、2ステップへと流行に合わせてそのスタイルをめまぐるしく変え、やがてフレンチハウスやテクノに傾倒していくことになる大沢伸一(モンド・グロッソ)のサウンドは、節操も、臆面もないのだが、共通のモードを纏い、一定のマナーに収まっているように聞こえるのだった。ミーハーであっても決して下品にはならず、むしろエレガンスを感じさせるところが大沢伸一の魅力であり、バンド形態をやめてソロ・プロジェクトになってからの方が、その傾向は顕著と言えるだろう。

 2017年になって、突如14年ぶりにリリースされた『何度でも美しく生まれ変わる』では、クラブ畑のBirdやUAに加えて、女優の満島ひかりや乃木坂48の齋藤飛鳥、相対性理論のやくしまるえつこを起用。その続編となる『Attune/Detune』(2018年)では、大橋トリオやアイナ・ジ・エンドをフィーチャーするなど、復帰後は日本語ヴォーカルにこだわり、ファンを驚かせた。デビュー以来の疑似洋楽路線を捨て去り、JーPOPに接近したモンド・グロッソは、意外なようでいて意外でも何でもなく、“何度でも美しく生まれ変わる”というタイトルにも込められた変幻自在であることへの憧れを体現しているに過ぎないのだろう。

 そして、最新作の『Big World』では、さらに同時代性を意識した人選へと突き進んでいく。坂本龍一のリフレインするピアノにミステリアスな満島ひかりのヴォーカルが絡む②「IN THIS WORLD」、キング・ヌーの常田大希率いるミレニアム・パレードが参加したファンキーチューン③「FORGOTTEN」など、出だしから豪華なゲスト陣に驚かされるが、このアルバムが興味深いのは、その後にヒップホップグループのどんぐりずや女性バンドCHAIが参加するコミックソングのような2曲が控えていること。いずれも従来のお洒落の枠を超えた、邦楽ならではのセンスの良さを感じる楽曲だ。そして、⑥「最後の心臓」にはなんとヨルシカをフィーチャー。J−POPの最前線への目配りにも余念がない。

 前々作に引き続きマイクを握る齋藤飛鳥(乃木坂48)による⑦「STRANGER」は、ポップで幻想的なシューゲイザーサウンド。アイドルを起用してマイ・ブラッディ・ヴァレンタインも真っ青なギターロックを作り上げる手法は、WACKにも似ているが、こちらの方がより本格的だ。エゴ・ラッピンの中納良恵による⑧「迷い人」、オリジナル・ラブの田島貴男による⑨「幻想のリフレクション」、中島美嘉による⑪「OVERFLOWING」は、そえぞれヴォーカルのうまさを引き出すサウンドプロダクトに徹している。個人的には日本のハウスミュージックのあり方の理想型を提示して見せた中島美嘉の起用に拍手を送りたい。⑩「CRYPT」はヴォーカルにAwesome City ClubのPOLINを起用したエレクトロニカ。それにしても新旧を問わず贅沢な布陣だ。

 3作目にして辿り着いたモンド・グロッソ流のJ−POPは奥が深い。