「What Kinda Music」TOM MISCH & YUSSEF DAYES
2018年にデビューアルバム『Geography』をリリースしたギタリスト兼シンガーのトム・ミッシュ。日本でもブレイクを果たし、2020フジロックにも招聘(新型コロナで中止)、あの星野源(!)ともコラボするなど、サウスロンドンのアーティストとしては桁違いの成功を収めた。そのように幅広く一般性を勝ち得たのは、彼がサウスロンドンに多い〈ジャズの人〉ではなく、〈ロックの人〉であったことが大きい。その事実を見るに付け、ロックは一般大衆に受け入れられやすいと改めて思わずにはいられないのだが、それは今に始まったことではない。例えば、あいみょんの「君はロックを聴かない」は逆説的にロックの力を示唆している。トム・ミッシュの活躍を目の当たりにして、ジャズのマイナーさを嘆いてみても仕方がない。むしろ、サウスロンドンシーンの懐の深さ、層の厚さを証明していると考えるのが妥当だろう。
〈ロックの人〉といっても昨今は一筋縄では行かない。このトム・ミッシュにしても、ヒップホップやソウル、ジャズのスパイスが至る所にちりばめられており、ロックの一言では語り尽くせない。そうした雑食性は十分に認識してはいたつもりだが、トム・ミッシュとユセフ・デイズのコラボレーション・アルバムがリリースされたと知り、異色のコラボの誕生に驚かされた。
ユセフ・デイズはサウスロンドンのドラマーで、2016年に鍵盤奏者のカマール・ウィリアムスとユセフ・カマールのユニット名により、ジャズ・アルバムの傑作『Black Focus』を世に送り出している。ジャズファンクやアフロビート、ブレイクビーツをミックスしたサウンドは、新世代ジャズ激戦区サウスロンドンにあっても、とりわけスタイリッシュであり、必聴盤といってもいい。そのユセフ・デイズが、すでに完成しているとも言えるトム・ミッシュの世界とどう渡り合っていくのか、想像もできなかった。
『What Kinda Music』の第一印象は、ポップでエネルギッシュなトム・ミッシュのファースト『Geography』と比べて、随分ダークでアンニュイなアルバムというもの。しかし、何度も聞いているうちに重厚なドラムとミステリアスな歌唱が絶妙にマッチしていることに気づき、細部の音まで丁寧にコントロールされていることに唸らされた。『Black Focus』よりもダイナミックなドラムは聴きどころが多く、ブレイクビーツの①「What Kinda Musik」からドラムンベースの②「Festival」、ブロークンビーツの③「Nightrider」と続く冒頭から圧巻。サマーブリーズなフュージョン風の⑧「I Did it For You」やサンダー・キャットが歌いそうな⑨「Last 100」、ブレイクビーツフュージョンの⑩「Kyiv」と続く3曲はスモーキーなのにトロピカルという珍しい展開。ポストロック調の⑪「Julie Mangos」も渋イイ。そして、最もジャズ色が濃いのがラストに配された⑫「Storm Bfore」であり、サックスがフィーチャーされている。
ロックでもない、ジャズでもない、ポップスでもない、音楽としかいいようのないもの。強いて言うなら、ニューウェーブの感触か?アルバム全体にリバーブの靄がかかったような地味なアルバムではあるが、その奥に隠された派手さこそを堪能したい。
